BTSを聴いてすごく元気になった自分がいた。自分が原点回帰していくこともそこからだったかもしれない
震災を受けての『PANGEA』みたいなことにはならなかったのはどうしてでしょう。
「特に今の世の中って、人の捉え方や考え方もいろいろあってまちまちだし、悪と善が入り混じりすぎてわけがわからないというか……もはや正解がなさすぎるじゃないですか。そういう世界になってしまったぶん、音楽で違う世界に行きたいっていうことなんじゃないですかね」
……もしかして今の世の中に絶望してます?
「いや、絶望はしてないです。人間がそういう生き物であることは仕方のない事実だと思ってますけど、それを絶望と呼ぶのはちょっと違うかな」
そうですよね。絶望してたらこんなカラフルなアルバムは作れない(笑)。
「そうですね(笑)。とにかく今の日本にはあまり感じられないもの――80年代のイケイケで煌びやかなイメージをすごく求めていたというか。ジャケットもそうですし、そういう当時のカラフルな時代の感じを欲していたところはありますけど」
そのぶんポップで開けた印象があります。
「変にこねくり回すよりも、わかりやすくしたかったんですよ。それこそ聴いた人が〈エマさんってやっぱりこういう音楽好きなんだよね〉って思うような。無理して小さい引き出しから〈本当はこういうのもわかってほしい〉じゃなくて、でっかい引き出しをグッと開けて〈これだよね〉みたいなフレーズを弾いてみたり」
例えばエアロスミスとか。
「あとはマイケル・シェンカーとかQueenとか、そういうのでいいかなって。こざかしいことはせず」
あと今回、渡會くんが歌詞で自分を前にグッと前に出てきた感じがあって。自分の感情をそのままbrainchild’sとして表現できてるじゃないかと。
「そうなんですよ。今回は彼の本音が――怒りだったり不満だったり、世の中のいろんなものに対しての感情が渦巻いてる反面、自分はそこからちょっと身を引いてるというか俯瞰してるというか」
例えばエマさんが書いた「WASTED」の歌詞は、そういう渡會くんの歌詞とは対照的です。
「ワッチはリアルタイムなものに焦点を当ててるぶん、僕は未来について書いてますね。〈FIX ALL〉もそうだし」
これ、超前向きな曲でビックリしました(笑)。
「〈整えましょう!〉みたいな(笑)。そういうワッチの歌詞との対比もあって面白いと思います」
ここまであっけらかんとしたbrainchild’sは初めてなんじゃないですか?
「そうかな?(笑)。でも、たぶん多くはないですよね。暗い過去とかリアルな現実と向き合っている自分が圧倒的に多かったですし」
少なくとも「FIX ALL」みたいな言葉を曲名にするムードではなかったと思います。
「そうかもしれない。〈FIX ALL〉は、どこか肩の力が抜けている曲というか、タイトルも内容もサウンドも、あんまり深く考えずに聴けるものが欲しいと思って書いたんですよ。本当はもっと全然違うタイプの曲をやろうとしてたんですけど、最後になんかこういうツルンとしたものがあったほうがいいなと思って」
どうしてですか?
「どこか逃げ道みたいなものが欲しかったのかな。身の置き場がない時に、いつでも行けるような場所というか。楽器にたとえると、わりと雑に扱えるタイプというか(笑)。普段から部屋のそこらへんに放っておいて、気が向いたらパッと手に取って扱うような感じ」
なるほど。今のエマさんが音楽に求めているのは、そういうポップな手触りのものなんでしょうね。
「僕、K-POPもよく聴いてるんですけど、BTSの〈Dynamite〉を聴いた時、あの歌詞とあの曲調をコロナ禍にやるんだって、すごく希望を感じたんですよ。もちろん楽曲の良さがあるんだけど、それだけじゃないパワーを感じるというか。あの曲が世界的に売れたのは、それぐらいみんなが希望みたいなものを求めていたからだと思うし」
確かにそうですね。
「〈Dynamite〉があったから、次の〈Life Goes On〉みたいな暗い曲も受け入れられたんだろうし。しかもそのあと〈Butter〉ですからね。コロナ禍でもこれ唄うんだ!って(笑)」
音楽に対して希望を求めていたってことなんですかね?
「求めていたわけじゃないけど、BTSを聴いてすごく元気になった自分がいたのは確かなんですよ。そこからですね、僕がARMY(註:BTSファンの呼称)っぽくなっていったのは(笑)」
はははははは!
「さすがにこれはやられたわ、って」
つまりエマさんは音楽から強い衝動をもらっていたんですね。
「衝動ですね。パワーをもらったことが。自分が原点回帰していくこともそこからだったかもしれないし」
あの、取材だからお世辞で言うわけじゃないですけど、「Set you a/n」は僕にとってそういう曲なんですよ。
「本当ですか!?」
折衷案ってあんまりいい言葉じゃないと思ってたけど、コロナで身動き取れない中で「それでいいんだよ」ってあの曲が自分を肯定してくれた感じがあって。あの曲からもらったものがあるんだなよなって、今さらだけど思います。
「あぁ……自分もそうかもしれない。〈Set you a/n〉を聴くと、あの時の気持ちをすごく思い出すし。明るい曲調だし、キラキラしてるし、ワッチの歌詞もすごく気持ちを和ませてくれるし……確かに自分たちも人を元気にさせることができてたんだなって思いますね」
エマさんは自分が音楽からもらったものを、音楽で打ち返してるってことなんじゃないかと。
「それができてるのは……幸せですよね。コロナでいろんな予定がなくなって残念だったけど、そのぶんいろんなことと冷静に向き合う時間があったし。マイナスもたくさんあったけど、プラスもちゃんとあったなって」
ARMYにもなれたわけだし(笑)。
「ははははは」
結果的にですけど、今エマさんはバンドをふたつやってるわけじゃないですか。あっちはあっちでコロナの影響をいっぱい受けてますけど。
「ライヴはそうでしたね。でもそれ以外ではあんまり動いてないんでそこまで影響はなかったですけど」
思ったのは、ふたつのバンドをやりながらも、世界はこんな状況のままだし、とにかくいろんなことがままならないと思うんですね。そういう中でギターを弾くこととか曲を書くこととか、歌を唄うことに自分が振り回される感じはないのかな?って。
「曲はどんな時でもコンスタントに湧き出てくるんですよ。衝動とは別に、普段から出てくるというか」
それは日常の中で?
「やっぱり楽器からもらうことが多いのかな。例えば〈レスポールだからこういうフレーズが弾きたい〉とか。それはフライングVとかストラトキャスターでもそのギターに合わせたフレーズを作りたいって思っちゃうので」
それ、ギターキッズの感覚ですね(笑)。
「そうなんですよ(笑)。あとは、YouTubeとか海外のアーティストのライヴを観てるうちに〈俺もギター弾きたい!〉ってなって、いつの間にかフレーズを作ってたりするし。あと、ライヴが一切できなかった時期はやっぱり辛かったけど、アンプをつないでギターを鳴らすだけで、自分の中でエンジンがかかる感覚があったので。やっぱり音楽からもらってるんでしょうね」
音楽以外のことに惑わされたりすることが多い世の中ですけど、そのぶん音楽に対する純粋な気持ちを大事にしたいってことなのかもしれない。
「あ、確かにそうですね。そのぶん奇をてらうことは今回少なかったので」
そういうアルバムだなって、話を聞きながら改めて思いました。
「それは良かったです(笑)」
文=樋口靖幸
写真=笹原清明_えるマネージメント
ヘアメイク=三原結花_M-FLAGS
BEST ALBUM
『WHITE LION, BLACK SHEEP』
2023.11.08 RELEASE
Disc1【WHITE LION】
- PANGEA
- Brave new world
- cardioid
- Set you a/n
- there
- Human6
- まん中(HUSTLER VERSION)
- Buster
- 恋の踏み絵
- ウミネコ
- Brainy
- Phase 2
- 君がいて笑って、
- Better Day to Get Away
- Kite & Swallow
Disc2【BLACK SHEEP】
- TWILIGHT
- カラス
- Blow
- あいのうた
- Love Letter
- Flight to the north
- Umbrella Flower
- Big statue ver.2
- STAY ALIVE
- Rock band on the beach
- クチナシの花
- 撲滅ゲーム「パラダイス」
- カサブタ (Studio Session Recording at Sound Valley)
- 白と黒 (Studio Session Recording at Sound Valley)
- 精神一到何事か成らざらん
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ダウンロード/ストリーミング
〈15th Anniversary brainchild’s nation〉
11月23日(木・祝)愛知・名古屋ダイアモンドホール(THANK YOU SOLD OUT)
出演:brainchild’s/菊地英昭、渡會将士、神田雄一朗、岩中英明、MAL
15th Anniversary Special Guest:Keita The Newest
2023年11月25日(土)大阪・なんばHATCH
出演:brainchild’s/菊地英昭、渡會将士、神田雄一朗、岩中英明、MAL
15th Anniversary Special Guest:Nokia
12月3日(日)東京・豊洲PIT
出演:brainchild’s/菊地英昭、渡會将士、岩中英明、MAL
15th Anniversary Special Guest:早川誠一郎、わかざえもん