楽曲制作の方法には大まかに詞先と曲先の2パターンがあり、現在の音楽シーンでは、メロディやトラックなどから作っていく曲先が主流だ。しかし橋本絵莉子は、チャットモンチー時代から詞先での楽曲制作を行ってきたソングライターである。詞にメロディをつけるのが得意であると自負する彼女の約2年3ヵ月ぶりとなるアルバム『OVER LIFE』。今年初めに行ったツアーで「3枚目のアルバムでは詞先をやめてみようと思った」と話していたように、収録曲のほとんどを詞先ではなく曲先で制作した意欲作となった。20年のキャリアを経て、新たなチャレンジに踏み切った理由からスタートした橋本との対話。実は、前作『街よ街よ』を作ったあと、しばらく曲作りからは離れようと思ったのだという。そんな彼女が、日常生活の中で湧き上がった感情を綴り、時間の流れに思いを馳せた楽曲たちが詰まった今回のアルバムの制作を通して得た気づきとは。
(これは音楽と人2026年8月号に掲載された記事です)
曲先での楽曲制作によるアルバムだと聞いて、最初驚きました。新春ツアーのMCで「3枚目のアルバムでは詞先をやめてみようと思った」と話されていましたが、まずは新しい制作方法にチャレンジしようと思った理由から聞かせてもらえますか。
「はい。『街よ街よ』に1曲だけ、曲先があるんですけど」
「慎重にならないか」ですね。だいぶ前に作ってあったメロディに、『街よ街よ』を作るタイミングで歌詞をつけて仕上げたんですよね。
「そう。時を跨いで曲が完成して、結果、曲先になった感じなんですけど、それがすごい面白かったんです。あんまり今まで積極的にやってこなかったけど、〈曲先って面白いかも〉って思って。それで今回アルバムを作ろうってなった時に、曲先にチャレンジしてみようって思ったんです」
「慎重にならないか」の制作は、自分にとって新鮮なものだったんですか?
「すごく新鮮でした。ずっと前に作った曲だったから、作った時のイメージを忘れてたっていうのもあるけど、〈まさかこんな曲になるとは〉っていう驚きがあって。このほうが、先が見えなくて面白いっていうことに気づいたんです」
バンド時代からずっと詞先でやってきたわけじゃないですか。裏を返せば、あえて曲先をやらなかったということでもあるのかなと思うんですけど、そのあたりいかがですか?
「あえてというより、バンド時代はやる必要がなかったんです。3人とも歌詞を書くから、つねに歌詞のストックがあったし、詞にメロディをつけるのが得意だったっていうのもあったし。で、自分以外の歌詞の場合、そこにメロディをつけることで〈こんな曲になった!〉っていう驚きが必ずあって。でもソロになって自分で歌詞を書いて、自分でメロディをつけて、ってなると、そういう驚きがあまりないというか。もちろんデモをバンドメンバーさんに渡して、みんなでアレンジを詰めていく段階で曲が変化していく面白さももちろんあるんやけど、〈どういう曲になるんだろう?〉ってワクワクする感じが曲先には、すごくあるんやっていうのに気づいて。それで、やってみようってなりました」
橋本さんの中で、このまま同じように曲を作っていくのはどうなんだろう?みたいな思いがどこかにあったり?
「うーん……同じことをやってる危機感とかは全然なくて。ただ『街よ街よ』を作った時に、いざレコーディングに入る段階で、自分の作ったデモがなんか古い曲に思えてしまって。〈これから録るのに大丈夫かな?〉ってちょっと悩んだ時期があったんですね。〈それでもいけるはずや!〉と信じて録って完成させることができたんですけど……なんかエネルギーをすごく使った気がして。それで、曲作りを一旦置こうって考えていたんです」
『街よ街よ』を作ったあとに?
「はい。なんか一旦、間を空けないとエネルギーが足りないかも、みたいな感じだったんです」

曲作りから距離を置こうと考えたのは、バンド活動が終わったあとの燃え尽き時期以来かと思うのですが、その時とはまた違った感じだったんですか?
「違いましたね。曲を作りたいとか、アルバムを作りたいっていう気持ちって、やっぱりすごいポジティヴやし、やる気があってワクワクしてる状態なんですよね。でもそういう気持ちにならなかったっていうか。でもふと〈まったくエネルギーのない状態で作ったら、どんな曲ができるんだろう?〉っていう興味が湧いて。そう思ってしまったら、〈やってみんともったいない!〉ってなって、それで曲を作り始めました」
ということは、時間を空けようと考えていたけど、思いの外すぐ次のアルバムに向けての制作に入ったわけですね。
「そうなんですよ。モチベーションのない状態で作らないと意味がないというか、やる気が出てしまったら、その実験は失敗するわけやから(笑)。だからなるべく早いほうがいいと思って」
実験(笑)。その結果はいかがでしたか?
「これまで〈あ、作りたい!〉ってなってから始めるタイプだったんですけど、意外とそうじゃなくても曲ができるんだな、っていう結果でした(笑)」
その際に曲先で作ってみようと思ったんですか?
「実験の時は、まだその考えはなくて、詞先で作ったんです。そのあとに〈そういえば、曲先を積極的にやってこなかったけど、やってみようかな〉ってなりました」
曲先の場合、これまでとは歌詞を書く際のアプローチも違いますよね。
「違いました。詞先だと、唄いたいことがまずあって、歌詞を書いていくって感じやったんやけど、今回は唄いたいことを考えず、メロディができたら、そこから言葉を探していったんで、脳の使い方が全然違ったし、ものすごく難しかったです」
それこそ、〈自分はこういう言葉を入れたいのに、メロディに合わない!〉みたいなこともあるわけで。
「そう。曲先の場合、メロディから浮かんできたワードを手掛かりに歌詞を書き始めるんですけど、いろいろ言葉を探っていくうちに〈こういうことを言いたい〉っていうのが定まってくるというか。だから思ったようにいかないし、でも思ってもみなかった言葉が出てきたり。自分で作ってるんやけど、どこか流れに身を任せてる感じがあって」
ということは変な話、こういうインタビューで歌詞についての質問には、以前より答えにくいんじゃないですか?
「そうなんですよ! だから自分でも〈どうやって作っていったっけ?〉ってなってしまうし、過程をあんまり覚えてないっていうのは初めてです」
