【LIVE REPORT】
ART-SCHOOL LIVE 2022 「Just be here now」
2022.08.24 at 恵比寿LIQUIDROOM
本誌8月号でのアートスクール特集。その中で木下理樹が語ってくれたのは、体調不良で倒れてから実家に戻っていた療養期間中、救いだったのは音楽を聴けるようになったこと、とりわけアートスクールの曲に普遍的なものを感じられたことだった、という話だ。
「〈アダージョ〉っていう曲があるんです。〈どんな痛みも むしろそのままでいい〉ってサビで唄い切ってる曲で。こんな曲あったし、俺書いてたんだと思って」
その「アダージョ」は中盤、12曲目に用意されていた。緊張感の走る前半と、燃え尽きるように力を使い果たす後半の狭間、一番温まっている時間帯のミドルテンポ。この曲だけ木下はギターを持たず、ただスタンドマイクに手を添えて歌に集中する。足りない音を補完するのは全編サポートで入ったニトロデイのやぎひろみ(Gt)で、5人編成によるアートスクールは、ただ丁寧に、驚くほど美しいサウンドスケープで、消えることのない〈痛み〉を音にしていた。
とても染み入る光景だった。一度はボロボロになった木下の今が表現されたからではない。そのメロデイやアルペジオが、現状肯定では終われない、必ず光のほうに向かっていくんだという意志を持って響いてきたから。2007年発表の楽曲が、今になってこんな底力を見せるのか。であれば、このあと披露された新曲「柔らかい君の音」にある〈光の方へ.../ただ歩くんだ/また歩くんだ〉という一節は、この先、たとえば5年後にどれほどの説得力で迫ってくるのだろう。
アートスクールの普遍性。それは、老若男女のエバーグリーンみたいなわかりやすいものではなくて、今にも崩れそうな危うさと背中合わせの小さな光。そこに誇張も嘘もないことを木下理樹が自分の人生をもって体現しているところにある。小器用に生きられず、躓いては倒れ込み、ボロボロになればなるほど、これまで曲に刻んできた光の欠片がリアルな救いになっていく。すべては過ぎたことと笑い飛ばせる人には必要のない音楽なのだろう。あの時の痛み、どうしようもなかった気持ち、胸を掻きむしる後悔をずっと抱えている人だけが、そこに強烈な普遍性を見出すことになる。執念深い、と言ってもいいかもしれない。だから木下理樹がゾンビのように復活すればするほど想いは強くなる。20代より、30代より、今が一番よかった。デビュー当時から見てきた私にとっても、これがベストライヴのひとつであった。
最初こそ「復活おめでとう」の喝采に包まれていた会場が、途中から無我夢中の興奮に包まれていく。木下理樹はちゃんと唄えるのか?の不安は一曲目「BOY MEETS GIRL」であっさり消え、ハラハラと見守る必要のないことは、それぞれ自分のプレイに没頭する戸高賢史、中尾憲太郎、藤田勇を見ていれば一発でわかった。見守る、なんていうのは傲慢な視点だったことにも気づいていく。とっくに魅入られているのだ。「Promised Land」や「MISS WORLD」などの名曲が続くとメモを取るのももどかしくなる。フロアに突っ込んで必死に手を伸ばしたくなる。もっと真剣に乞いたい。あの時のどうしようもない気持ちを爆発させたい。文字にすると恥ずかしいが、そういう気持ちにさせる音楽なのだ。他では絶対に代替えが利かない。
2005年の「クロエ」や「あと10秒で」と2022年の最新曲「Just Kids」に温度差は何もない。木下が書き続けてきた楽曲は、激しさと繊細さ、儚さと美しさをキープしながら、時代を超えていくエネルギーまで持ち合わせていた。「そうだ、アートスクールはこうだった」の確認と、「いや、ここまですごいバンドだったか?」の驚きが、忙しなく脳内を回り続けた。少なくともバンドが合わせた照準は、復活前に戻ることではなかったようだ。かつてのベターを、すべてベストに変えていく。それくらいの心意気。本編19曲、アンコール4曲、計23曲。長さはまったく感じなかった。ただ、アートスクールここにあり。その執念を再びリキッドルームに突き立てた圧巻の2時間だ。とにかく、しびれた。
ラスト「ニーナの為に」を終えて、メンバーはそれぞれ深く頭を下げる。その後全員で肩でも組むかなと想像したが、それは叶わず。「もっとよくなる。もっとみんなを満足させる」と戸高がMCで宣言していたから、それは次回以降のお楽しみとして取っておこう。まずは、おかえりなさい。
文=石井恵梨子
写真=中野敬久
【SET LIST】
01 BOY MEETS GIRL
02 real love / slow dawn
03 Promised Land
04 ウィノナライダー アンドロイド
05 BUTTERFLY KISS
06 ステート オブ グレース
07 YOU
08 MISS WORLD
09 乾いた花
10 レディバード
11 ミスター・ロンリー
12 アダージョ
13 SWAN DIVE
14 柔らかい君の音
15 クロエ
16 Just Kids
17 スカーレット
18 ジェニファー'88
19 ロリータ キルズ ミー
ENCORE
01 シャーロット
02 あと10秒で
03 FADE TO BLACK
ENCORE 2
01 ニーナの為に
ART-SCHOOL LIVE 2022「Without You I'm Nothing」
12月20日(火) Shibuya WWW X
open 18:00 / start 19:00
12月24日(土) 梅田Shangri-La
open 16:45 / start 17:30
●ART-SCHOOLモバイル先行(抽選)
※モバイル会員限定 ※1公演につき2枚まで(複数公演申込可)
【受付期間】2022/8/24(水)22:00 ~ 2022/9/7(日)23:59
【受付URL】https://artschool-m.com/f/
●ART-SCHOOLオフィシャルHP先行(抽選)
※1公演につき4枚まで(複数公演申込可)
【受付期間】2022/9/16(金)12:00 ~ 2022/10/2(日)23:59
【受付URL】https://eplus.jp/artschool/