抗えないものがあるって知った時、人は謙虚になる。そこが俺はすごく好きなんだよね
自分の歌が、弱者という言い方をあえてしますけど、そういう人たちに届いてる気はしますか?
「そうだったらいいな、とは思うな。俺が音楽やってて一番救われたのは、プロになって10年目ぐらいの時。おじいちゃんおばあちゃんの施設で働いてるファンの子が、HEATWAVEをギター弾いて唄ってたんだって。そしたら、おじいちゃんおばあちゃんがそれを覚えたから、みんなで唄ってるビデオを送ってきてくれたの。最後におじいちゃんおばあちゃんが『こんないい歌を書いてくれてありがとうございます』ってコメントしてくれて。さすがに号泣しちゃったね。あれが俺のレコード大賞だった。〈あ、俺やっていける〉と思った。俺はこういうふうに、自分の歌を必要としてくれる人がいることをずっと夢見てたから」
それはすごい理想ですけど、現実を見たら、金稼がないと生きていけなくないですか?
「まあそうだね。でも、若くて日本に半分いない時、貯金残高が174円までいったことがある(笑)。さすがにヤバいと思った。今回もアルバム作って通帳にはほぼお金がなくなったよ。でもね、お金って塞き止めて自分のものにしようとするから回らなくなるわけ。使っていけば絶対入ってくる。入ってこなかったことはないもん。お金でビビるぐらいだったらさ、こんな活動できないよ」
「Empty(空)」で失うほど幸福って唄ってますけど、そういうふうに思ったことはありますか。
「うん。なんで俺はバッタが足をもがれるように、いろんなものをもがれていくんだ、って思ってた」
何をもがれたと感じたんですか?
「具体的に言えば家族とかさ。もう本当にひとりだったしね。離婚して、今の奥さんと再婚するまで15年ぐらい。飼ってた犬まで死んじゃうし、天涯孤独だなと思ったから。でもそうじゃないんだよね。俺、60になった誕生日に渋谷でライヴをやって、その日に入籍したんだけど、ファンにはちゃんと言わなきゃと思って、バンドメンバーにも言わずに、アンコールの直前に伝えたの。そしたらファンが『よかったぁ〜!』って(笑)」
あはははは!
「孤独死しなくてよかった!みたいな空気(笑)。それ聞いた時、すごく幸せだな、と感じた。何もかも失って、天涯孤独でひとりだけど、まあそれも人生か、と思ってたのに、その安堵の拍手に(笑)そうじゃなかったのかもな、と思わされた」
どうやったら続けられるというか、希望を持ってやり続けることができますか。
「自分を信じるしかないよ。自分を信じて、あと桁外れの情熱を持つしかない。他人がなんて言っても貫け。自分を信じて。他人の言うことなんか聞かなくていい。音楽業界なんかクソなんだから。なんにも気にしなくていい」
残高174円になっても大丈夫だと。
「大丈夫。でも、そこからが勝負だよ。独立してからが勝負。今時レコード会社にいるやつなんて、ろくなもんじゃないよ。そいつらは、結果に対して責任を取らない。売れなくなったら契約を打ち切るだけ。残念そうな顔はするかもしれないけど、一緒に人生を背負ってくれやしない。永遠に俺たちの味方じゃない。信じるのは自分だけでいいんだから」
そうですね。
「でもようやく最近になって、ファンと一緒に歳を重ねてきたな、と思うようになった。ぶっちゃけね、むちゃくちゃコアなHEATWAVEのファンって3000人ぐらいだと思うわけ。だけどその人たちに対してだけは、誠実に生きたいんだよね」
裏切らない音楽を作る、ということですか?
「俺も変わっていくから仕方がないこともあるけど、自分が生きるということに対して誠実でいようと思ってる。だから、嘘はつかない。どんなに苦しくても、そこだけは自分で守るっていうか、貫く。それけっこう大変なことなんだけど、でも、もう慣れた。めちゃくちゃお金が入ってくる仕事に誘われたし、プロデューサーとして囲われそうになったこともあった。貯金残高は174円。でもそれ、どうしてもできなかったからね。曲を作ることは同じなんだけど、それをこの人たちとやるってことが、俺の生き方とは真逆だし、ファンや長谷川さん、松本さんを裏切ってるような気がして」
嘘がつけない、というか。
「誤魔化しても絶対自分に返ってくるしね。そんな生き方はしたくないよ。TOSHI-LOW(BRAHMAN)とかそうじゃん。口は悪いし、先輩を先輩と思わない(笑)ヤツだけど、あいつがいろんなバンドマンとやってきたことに嘘がないから、人と人をつなげて、ああいう大きなフェスになったわけでしょ? その身を削って出したエネルギーを、みんな受け取ってるから、宇宙にいいエネルギーとして出してきたから、みんな協力するんだよ。俺、それ見てたもん。2011年、震災で焼け野原になった東北で立ち尽くして、もうバンドやめようかなと思った時、俺たちが書いた曲を思い出して、また唄おうと思ったって。フェスの帰りに言ってくれたんだよね。俺はすごい嬉しかった」
「満月の夕」ですね。
「あれはもう公民館みたいなもんだよ。みんながさ、もう今までに100回以上『唄っていいですか?』って許可を求めてきたけど、いやいやいや、俺のもんじゃないから、もう好きにやってくださいって感じ。まあ作家としての喜びがあるとしたら、100年ぐらい経って、あの曲がパブリックドメインになって、辛い時に誰かが唄ってくれて、誰かがちょっと救われる、そんなことを夢見ることができるくらいでいい」
そういう曲が生まれたっていうのはどうですか?
「あれは奇跡的だったんじゃないのかな。いろんな人が唄ってくれて。そういうのって、たまたまいろんなことが重なり合って生まれるわけで。だって最初、全然売れなかったんだよ。それがこの前カラオケの明細来たら、3ヵ月で800万回唄われてる(笑)。どうかしてるよ」
はははは。
「でもあれで、自分たちの常識の中で生きてるだけじゃダメだと、改めて思った。音楽やってて、メーカーがついてないからインデペンデントですとか、そういうことじゃないんだよね。それは身分が独立してるだけで、魂は独立してない。インデペンデントは生き方の問題だから。第一次産業の人に会って話してみればいいよ。漁業、農業、林業。そういう仕事はさ、天候に抗えないじゃん。でも人間はさ、天候までコントロールしようとするじゃん。そこがそもそも間違っているんだけど、抗えないものがあるって知った時、人は謙虚になる。そこが俺はすごく好きなんだよね。音楽なんか、全然大したことじゃないってわかるよ。一度でいいから自分で農業やってみたらいい。仕事にしようと思ったら、絶対農薬撒きたくなる。楽に稼げるから。でもそしたら自分は食べないでしょ」
そういう農薬を使ってないものが、自分の音楽だ、ってことですよね。
「そう。できるだけ汚れのない、嘘のないものを作る必要があると思う。それは実際にできた音がどうだとか、コストがとか、そういうの関係ないの。そうやって向き合ったという事実だけが大切なんだよね」
でも毎日をそうやって生きるのは大変ですよね。
「簡単だよ。毎朝起きて、布団の中で〈よし、今日も生きてるぜ〉ってまず思う。死ななかったことがまずラッキーじゃん。それから5分動かずに、今日はどんな1日にしようって考えて、その日にできるベストのイメージを持つ。そのイメージが100だとしたら、103ぐらいまで頑張る。それをコツコツ、バンドみたいに積み重ねると、1年を振り返った時、すごく伸びてる。110だとちょっとキツいから、103ぐらいがちょうどいい。その3って、今日は取材を受ける、いつもと違う道を通る、できたらこの喫茶店の窓側の席に座る、それくらいのもんだよ。だから今日はもう達成(笑)。それが365日あると、相当すごいよ。で、寝る前にちょっと酒呑みながら振り返って、今日は108だねとか思い返す。そうしたら、人生に絶望なんかしないよ」
なるほどね。
「そういう人生を歩んできたこと、悪くないなと思ってるよ」
文=金光裕史
HEATWAVE
『Mr. OUTSIDE』
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〈HEATWAVE TOUR 2026 -Mr. OUTSIDE-〉
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