【LIVE REPORT】
THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE-DOME SPECIAL-
2020.11.03at東京ドーム
2020年11月3日。この日は多くの人々にとって、新たな始まりの日となったはずである。
「こうやって、たぶん日本で、いや、世界で初めてかなぁって思います。このドームクラスの会場にお客さんがこんなに入ってて。スタッフもほんとに、必死な気配り、努力……そういうものがあって、今夜のこのライヴがあります」
中盤、センターステージでのブロックの最後、「JAM」を演奏する前の吉井和哉のMCである。とくに強い口調ではなかったが、その言葉には、今夜の成功のためにすさまじいエネルギーを費やしたであろう人々への思いが込められているのを感じた。
ロックシーンどころかエンターテインメント業界全体から、さらに誇張でも何でもなく、世界レベルでの注目が集まったであろう今回のドーム公演。この東京ドームで行われるコンサートは、2月26日にPerfumeが開場時間の直前に中止にせざるをえない事態に見舞われてから初となるものだ。THE YELLOW MONKEY自身も4月に予定していたここでの2日間を延期の末に中止とし、それからの仕切り直しで今夜のドーム1公演と、以降の関東3公演の開催を決定している。コロナ禍以後、スタジアム級のコンサートが行われるのは、おそらく今日が世界で初めてのことだろう。

その開催にあたってバンドとスタッフが途方もない力を尽くしていることは、日が迫るごとに伝わってきた。事前の「Sing Loud!」と題された企画では、歓声を上げられない代わりに会場で流すためのファンによる声が多数集められていた。チケットの販売数を抑えた分、ライヴの模様はテレビやネットを介して世界中に生中継されるとのこと。また入場に有効なのは、安全を考慮して電子チケットのみ。そして数週間前からは感染防止アプリのCOCOAインストールの案内が幾度も届いた。
コンサート当日、朝刊の一面を使っての新聞広告には〈19,000 / 46,902 ここから始めます。〉と掲示されていた。キャパの半分以下という割合は、この秋以降のスポーツ等のイベントと同水準である。
当日は、撮影による密集を防ぐためだろう、会場外周の正面のヴィジョンにはコンサート自体の表示がなかった。また僕自身、この会場には夏以降に野球観戦で何度か訪れたのだが、感染予防態勢の厳重さはその時以上だった。消毒や密を避ける配慮はもちろん、観客の入退場に時間差を設定。1席ずつ空けた各座席には「東京ドームアラート」というQRコードが設置され、観客個々人の管理がなされている。警備をはじめとしたスタッフの案内も通り一遍ではなく、徹底的にルールを認識したうえで言葉を発しているのが感じられた。そしてオーディエンスはマスク着用必須、発声も歌唱も禁止。拍手やハンドクラップなど、身体の動きでしかリアクションができない。
一方で、この特殊な状況下でライヴを盛り上げるための工夫もされていた。観客が装着するLEDライト「フリフラ」が曲に合わせて明滅する演出は、このバンドにおいては異例だ。そして声が出せないオーディエンスにかわり、先ほどの「Sing Loud!」の企画によって集められた「バラ色の日々」の歌声、そして歓声や合唱がライヴの熱気を後押しした。なお、来年2月3日の発売が発表された20年ぶりのライヴ・アルバムの名は『Live Loud』。今のTHE YELLOW MONKEYは<Loud>をキーワードのひとつにしているのだろう。
いずれにしても、音楽ファン、それにコンサート/音楽業界、エンターテインメント界にとっても非常に大きな一歩となる日。その決断と実行に、大きなプレッシャーがあったのは間違いない。ただ、多分に僕個人の予測だが、これについてはTHE YELLOW MONKEYというバンドの姿勢そのものが大きく関係していると思う。彼らは結成当時から今までずっと、ライヴを主戦場にしてきたからだ。つまり今回の開催はライヴ・バンドとしての矜持でもあるのではないだろうか。その尋常ならざる覚悟の大きさは、スタッフひとりずつの動きまで通じて、開演前の段階で伝わってきたのである。

そして……やはりTHE YELLOW MONKEYはライヴ・バンドだった。ドームの巨大な空間は、ともすればパフォーマンスする側を押しつぶす重みをはらんでいるが、彼らはそんなものを吹き飛ばしていったのだ。1曲目、「真珠色の革命時代~Pearl Light Of Revolution~」は初期の楽曲ながら、場所がドームとなると、2001年、活動休止前の〈メカラ ウロコ・8〉のアンコールが印象深い。今夜、この曲でおごそかに始まってからは、バンドは熱量を徐々に増していった。最初に胸が熱くなったのは「SPARK」のサビ直前、ヴィジョンに大映しになったHEESEYが〈are you ready to spark?〉とデカい声でシャウトした瞬間だった。ライヴ全体にギアが強く入ったような感覚があった。
心の真ん中がえぐられるようだったのは、ヘヴィな演奏とともに生きることを叫ぶ「球根」の壮絶さだった。また、2001年のドームではアンコール1曲目だった「メロメ」は、壮麗なオーケストレーションの音像とともに深いエモーションに吸い込まれるようだった。最高だった頃を思い返す「バラ色の日々」は、その切ないパッションが観客みんなに浸透していったのではないかと思う。イントロで吉井が「負けるなよ!」と叫んだ「パール」では、ギターソロのあとのEMMAがヴィジョンに映り、弾きながら〈夜よ負けんなよ 朝に負けんなよ〉と口を動かしているのが見えた。そして本編ラストの「未来はみないで」の前に、吉井は「今夜みなさんにこの不思議なタイトル……こんな世の中になるとは思わないでつけたタイトルの曲を聴いてもらいたいなと思います」と言った。優しく、切なく、それでも希望を残す、大人になった彼らの歌だ。

物語はアンコールに入っても続いた。「悲しきASIAN BOY」のあとを受けた最後の「プライマル。」は、2001年の活動休止前にリリースした当時のラストシングルで、2016年の再集結直後のツアーでは1曲目に置いて初披露された曲である。それがこの夜、また新たな始まりにふさわしい歌だと感じられた。演出やステージセットは昨年12月の名古屋、今年2月の大阪での30周年記念のドーム公演を踏襲しながらも、トータルではそれを更新したものになっていた。そして先述のとおり、過去のドーム公演とつながる瞬間もいくつか。この異常事態の中での巨大ライヴを、彼らは見事にやりきったのである。
そして思うに、これだけの規模のコンサートをこうして完遂させたのは、バンドとスタッフはもちろんのこと、それにしっかりと協力したオーディエンス……ファンの存在も大きいと思う。ということは、今夜の序盤、吉井が「この場所で、こんなに人が集まって。みんなでほんとにルールを守って。このロック……っぽくない、感じ?(笑)」と言った時、会場中から大きな拍手が起こった時に感じたのだ。それに対して吉井は「何で拍手?」とちょっと笑った。そこに、彼らと客席の間に特別なものがあるのが見えた気がした。

それと、以下は「バラ色の日々」のイントロでの吉井の言葉である。
「ほんとに30周年、いろんなことがありましたけれども。このバンドはみなさんに支えられて……ここまで、ほんとにファンと一緒に歩んできたバンドです。今回の東京ドームは、本来の俺たちが望むべき形じゃないかもしれませんけれども、もうイエローモンキーの勲章として、この日を自分の年表というか、歴史にまた刻もうと思います」
「30周年だけど、また今日から新しい時代が始まったと思いますので。一緒にまた頑張りましょう!」
つい僕は、この30年の間のことを回想した。初期のライヴハウスでの狂気じみた興奮。第1回のFUJI ROCK FESTIVALでの光景。そのほかにも、たくさんたくさん、このバンドはいろいろな表情を見せてきた、けど。それはファンの側もそうだったのだ。その関係性は、再集結以降に、それこそ新しい形で少しずつ再構築されてきたと思う。親子で参加する観客の姿。再集結後に増えた男性客のうれしそうな表情。それにたとえば、この日も場外で実施された「バラ色基金」は、この5年間、災害の被災地への寄付という形で継続されてきているものだ。そして今夜のライヴで、このバンドとファンとの間には、熱い信頼関係があることをあらためて、つくづく感じた。
アンコールを終えて、エンディング、ANNIEが花道に歩み出て、何度も煽り、紙吹雪の川に滑り込んだ。吉井は、鼻と口のイラストの入った妙なマスクを外して「またやるぞ!」と叫んだ。つい笑ってしまうこんなシーンは、彼らのライヴでは見慣れた、当たり前の景色みたいなものなのに、今ではそれすらも尊く、大切なものと感じられて、涙腺が壊れそうになった。
規制退場も整然と行われ、コンサートは無事に終わった。2020年11月3日、THE YELLOW MONKEYは東京ドーム公演を完遂した。
ここから始めていこう。新しい時代を。
文=青木優
写真=横山マサト

【SET LIST】
01 真珠色の革命時代~Pearl Light Of Revolution~
02 追憶のマーメイド
03 SPARK
04 Balloon Balloon
05 Tactics
06 球根
07 花吹雪
08 Four Seasons
09 Foxy Blue Love
10 SLEEPLESS IMAGINATION
11 熱帯夜
12 BURN
13 JAM
14 メロメ
15 天道虫
16 パンチドランカー
17 Love Communication
18 バラ色の日々
19 SUCK OF LIFE
20 パール
21 未来はみないで
22 楽園
23 ALRIGHT
24 悲しきASIAN BOY
25 プライマル。
LIVE ALBUM『Live Loud』
2021.02.03 RELEASE
通常盤(1CD)
価格:2,800円(税別)
品番:WPCL-13271
初回盤(2CD)
価格:3,000円(税別)
品番:WPCL-13269/70
予約はこちら https://tym.lnk.to/LiveLoud
THE YELLOW MONKEY『Live Loud』 特設サイト https://tym30yeardome.com
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2020年11月7日(土) 横浜アリーナ (終了)
30th Anniversary LIVE -YOKOHAMA SPECIAL-
2020年12月7日(月) 国立代々木競技場第一体育館
30th Anniversary LIVE -BUDOKAN SPECIAL-
2020年12月28日(月) 日本武道館
THE YELLOW MONKEY 30th Anniversary LIVE 特設サイト https://theyellowmonkeysuper.jp/feature/30th_live
THE YELLOW MONKEY オフィシャルサイト https://theyellowmonkey.jp/