2016年6月8日にシングル「Morning Glow」でメジャーデビューを果たしたSHE'S。今年がメジャーデビュー10周年のアニバーサリーイヤーということで、さまざまな企画が進行している。インディーズ時代から彼らのことを追いかけ続けている『音楽と人』も、バンドの周年をお祝いするべく、この記念日にあわせて10年前の井上竜馬ソロインタビューを再掲載。この頃から今も変わらない、音楽に対する考え方を、あらためて感じてもらえる内容です。


(以下は『音楽と人』2016年7月号に掲載された記事です)
彼らに注目が集まってからすでに時間が経っているが、今回シングル「Morning Glow」でメジャーデビューを果たす大阪出身のピアノロックバンド、そのフロントマンであり作詞作曲をすべて手がけるヴォーカル&キーボードの井上竜馬はいろんな意味で気になる存在だ。まずこのルックス。さっそくファッション系Webマガジンでもモデルとして起用され、すでに好評だという。一方でそんな彼が唄うのは、人との距離の取り方があんまり上手じゃない男のジメッとした歌。その背景には学生時代の暗い思い出があるのと同時に、彼が音楽に対して〈これだけは譲れない〉と思ってることが関係している。これだけ自分の存在をアピールできる容姿と、信頼できる仲間を携えたバンドをやっているのにもかかわらず、彼の音楽にはどこか圧倒的に足りないものがある。でもそれが彼らの音楽の一番信じられるところであり、多くの人の心に届く可能性のある部分でもある。そのことについて、ヴォーカリストとは思えない控えめな声量で(文字に起こすのが大変だから次回からもっと大きな声で喋るように!)、語ってくれた。
あなたがたのライヴを観て、竜馬くんに対して思ったことがいくつかありまして。
「あ、はい」
感情をそのまま出すよりというよりもむしろ秘めがちで、しかも物事を客観的に見ようとするフロントマンだなと。実際のところはどうですか。
「確かにそういうタイプですね。なるべく客観的に見たいほうです。たまにできなくて、グッと感情が出てしまう時もあるんですけど」
なんで感情を抑えちゃうんでしょうか。
「ちっちゃい頃から感情が荒ぶるような性格ではなかったみたいですね、親の話を聞くと。これは前回インタビューしてもらった時にも話したんですけど、人と距離を置くような学生生活を過ごしていたというか。中学も高校も友達とワイワイという感じでもなく、むしろ億劫に思ってたほうなんで」
その距離感は音楽にも出てますよね。
「そうですね。やっぱり感情的になってたら見えない部分ってあるじゃないですか。主観も大事だと思うんですけど、そこは独りよがりのものにしたくないというか。それはけっこう歌詞とかも含めて、自分の中で大切にしてることではあります」
なるほど。あとライヴでもうひとつ思ったのは、声が小さいヴォーカリストだな、と(笑)。
「それ、挨拶でも言われましたよね(笑)」
あ、言ったの覚えてた?
「覚えてます(笑)」
すいません(笑)。いいライヴした後になんてこと言うんだろうって反省したんですけど……でも、今話してても声が小さいなぁと。
「あぁっ、すみません!(笑)」
大阪の人ってもっと押し出しが強いじゃないですか。そんなに声小さくて大丈夫かな?って思ったんですけど。
「それ、友達にも言われたことあって。『自分に自信がないから声がちっちゃいねんで』って。で、〈そうなんかな?〉って」
自分に自信ないんですか?
「や、そんなこともない……」
どっちだ(笑)。
「あはははは! 曲のこととか音楽に関しては自信あるんですけど、自分の人間性とかこれまでの人生の話になると全然自信ないです。〈だからこういう歌詞が生まれるんやろうな〉って思いますし。もちろん友達といる時はデカい声で喋るしテンションも高いです。でも今は思ってることをちゃんと伝えたいと思ってるんで、それで落ちついたテンションになってるような気がします」
だからライヴのテンションもああなると。
「そうかもしれないですね。よく言うセリフだけど、伝えたいことって思ってることの半分も伝わらないというか。ライヴしかり、曲でもそう思うので……伝えたいと思って音楽を発信してるからこそ、余計にそれを痛感します」
でも「Morning Glow」はその〈伝えたい〉って気持ちが強く感じられる曲で。
「ちょっとだけ強めの言葉で発信してますよね」
「ちょっとだけ」なんだ(笑)。
「ははは。今まではやっぱり内省的というか、自分と向き合った末に〈こうなんじゃないかな?〉とか〈こういうふうに思わへん?〉みたいなテンションで書いてたんですけど、今回は〈ちゃんと発信しないと伝わらへんな〉って思ったんですよ」
伝わらないってことに対して、自分は人一倍敏感なタイプだと思います?
「そうですね……たぶん〈これ伝わってへんねやろな〉っていうのは分かるほうだと思います。相手の相槌とか表情とか声のトーンで。特に1対1だと人を見てしまうので」
どうせ伝わらない、みたいな諦念があるというか。
「大事な人ほどちゃんと伝えたいのに〈なんで伝わらへん〉って思うことが多くて。でもそうやって分かり合えたり合えなかったりするから人間って面白いんやな、とも思うし。たぶん自分も相手のことを分かってやれん部分って必ずあるはずじゃないですか」
もちろん。
「だからってそこを強制的に分からせようとは思わへんし。だから、今回はちょっとだけ強く発信しようと。とは言っても独りよがりの理想論だけを唄うのは好きじゃないんですよ。そこへ向かうプロセスというか、背景にあるものも一緒に唄いたい。そうじゃないと大事なことを見落としてしまいそうな気がするから」
見落とすっていうのは?
「今までのこと。自分らでやってきたこととか応援してくれてきた人のこと、ですかね。そういうのを一個一個ちゃんと振り返らないで『さぁ理想に向かって行こうぜ!』って唄うのは、大事にしてないなって思っちゃうんですよ。だから今までの上手くいかなかった日々も、それでもついて来てくれた人たちも全部肯定したかったし、その上でもっと理想に向かって行きたいっていうのを唄いたくて」
だから「ちょっとだけ」だと。
「はい」
ここまでの話もそうだし、SHE’Sの音楽自体がそうなんだけど、竜馬くんにはエゴとか欲みたいなもので人を巻き込んで引っ張っていくような強引さがあまりなくて。
「そうですよね」
パーソナルなことを唄っているのに、本人のエゴみたいなものが音にもライヴにも出て来ないのはどうしてなんでしょうか。
「あの……昔からそうなんですけど、めちゃくちゃ自分の色が濃くて強くて、それで人を引っ張り上げるような曲は作りたくないんですよ。それでしかない歌になってしまうのがイヤやったというか」
どうして?
「……聴いてる人によって変わる歌であってほしいというか」
自分の色に染めたいとは思わない?
「もともとそういう歌が得意じゃなくて。僕がリスナーの場合っていう話なんですけど。気分によって捉え方が変わる歌であってほしいって思うんですよ。もちろん自分のことを歌詞にしてるんやけど、でも音楽の受け取り方は自由であるべきというか。音楽っていうのは自由と切っても切り離せない関係だと思ってるんで」
それは分かります。でも曲を書いたり歌を唄う人って、承認欲求が強かったりするじゃないですか。
「あぁ……」
今、イヤそうな顔したけど(笑)。
「はははは! でもヴォーカルって特にそうですよね、普通は。僕にも承認欲求、なくはないです。もちろん認められたいし受け入れられたいって思いはあるけど、それは……〈頂戴!〉っていうものではないと思ってて。こっちから何かを渡したからくれるものであったり、向こうがくれたからこっちも渡すっていうそういう関係でいたいじゃないですか。それは音楽に限らず普通の生活においても」
それが竜馬くんのコミュニケーションの取り方であると。
「うん。『それが僕のやり方です』って胸張って言える気がしますね」
自分の懐にズカズカと踏み込まれるのが怖いのかなって気もしますけどね。
「あぁ、それもちょっとありますね。やっぱりそれは中学高校の生活の中で生まれた恐怖概念というか、そこで培った人間関係によるものなんじゃないかな」
その頃の男子ってみんなバカじゃないですか? 他人とか容赦なく傷つけるし、ズカズカ踏み込んでいくし。でもキミはそれが出来なかった。
「みんなバカになってたし、それでバカみたいに人を苛めたりして。それを見てるのが気持ち悪くて、そういう人と距離を置くようになってましたね。絶対に自分からは踏み込まないし、踏み込まれないスタンスで。学校でもすれ違って『おっす!』っていう人はいるけど、放課後に遊ぶような人はめっちゃ少ない、みたいな。けどそこからバンドを始めたことで、人との距離感が少しずつ変わってきたこともあって、それで唄えた歌もあるんですけど」
そういう人だからこういう歌ばっかりになると。
「まぁ……暗いですよね(笑)」
だからってそういう自分を押し付けてはこないですよね。分かってほしいってすり寄ってくる馴れ馴れしさもない。むしろポンっと目の前に差し出して、「あとは好きにどうぞ」みたいな。
「そうですね」
そのくせ木の陰から相手の反応をジッと伺ってる、みたいな感じはあるけど。
「あはははは、めっちゃその通りですね! いつも木の陰から見てる感じ。やっぱり気にはなるんですよ」
そのどっちつかずで放っとけない感じがあなたの魅力というか、それがSHE'Sなんだなって思います。
「ありがとうございます」
もっとガツガツ行ってもいいんじゃない?って思うところもあるけどね。せっかくのデビュータイミングなんだし。
「そうですよね。でもやっぱりそこは自由に聴いてもらいたいんです。僕……中学の頃にELLEGARDENが大好きだったんですけど、〈Missing〉っていう曲の歌詞に、単語がただ並んでるだけのフレーズがあるんですよ。〈ソーダの中の宝石〉とか〈毛布〉とか。それ、何を伝えたいんやろなって当時は思ったんだけど、バンドを始めて久しぶりにその曲を聴いたら、〈あ、そういうことなんだ!〉って分かって感動したんですね。だから、僕にとって音楽はそういうものなんです」
じゃあ「Morning Glow」もそういう曲になってほしいと。
「そうですね。結局、人って自分の境遇も出会う人も生まれてくる場所も選べないじゃないですか。例えば僕だったら学生時代の経験した人との距離感みたいなのが今も歌詞に出てるわけだし、そう簡単にそこは変わらへんっていうのは分かってる。でもそこを嘆くんじゃなくて、その上で〈じゃあどう生きたい?〉って思った時に、自分の正義をちゃんと作るというか」
自分の正義、ですか。
「つまり〈俺は今こう生きたい!〉ってことなんですけど。それは僕の場合、高校時代にライヴハウスで聴いた音楽のおかげやし、だったら俺もそういうふうに音楽を通して誰かに自分の正義を見つけられるようになってほしいと思うので」
だから押し付けないし、自由であってほしい。つまりそれがSHE’Sにある余白みたいなものなんでしょうね。いろんな人を受け入れたり許したりする器の大きさというか。
「たぶん僕の中で忘れるとか許すことって、人の心の美しい部分なんじゃないかと思っていて。つまり相手を受け入れるってことなんですけど、ライヴハウスは僕にとってそういう場所だったんですね。だから、僕らのライヴをいろんな楽しみ方をする人がいると思うけど、それのどれも否定したくないんです。それが一番大きいかな。否定したくない、自由でいてほしい……それを頑なに思いながらバンドをやってるんやろなって」
今の話からすると、竜馬くんという人がとてつもなく器のデカい人のようにも思えるんだけど(笑)。
「はははは。でもそうじゃないから簡単には距離を詰められないというか。もっと器がデカかったらとっくに〈何でもかかってこい!〉っていうスタンスでやれてると思うんですね。でも器、ちっちゃいんで(笑)」
文=樋口靖幸
NEW DIGITAL SINGLE
「葡萄」
2026.06.08 RELEASE

NEW ALBUM
『Who am I?』
2026.09.02 RELEASE
■初回限定盤(CD+Blu-ray)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※初回盤、通常盤 共通
- Four
- 花雨
- Good Life
ほか全10曲収録予定/曲順未定
〈Blu-ray〉 ※初回盤のみ
- 「Sinfonia “Chronicle” #4」 at 昭和女子大学 人見記念講堂 (2025.10.2)
- 「SHE’S 15h Anniversary “She’ll be fine”」 at 渋谷 CLUB QUATTRO (2026.6.1)
〈SHE’S 15th Anniversary “She’s fine”〉
6月14日(日)大阪城音楽堂
開場 16:30 / 開演17:30
