心を揺さぶられたり、座右の銘となっている漫画、映画、小説などの1フレーズが誰しもあるはず。自身の中で名言となっている言葉をもとに、その作品について熱く語ってもらう連載コラム『言の葉クローバー』。今回はアルバム『LAPLACEL』をリリースした多次元制御機構よだかの林直大が、心にズバッと刺さったという村上龍の小説のセリフを教えてくれました。
(これは音楽と人2026年8月号に掲載された記事です)
考える国の王様は死人よ
小説『コインロッカー・ベイビーズ』
作品紹介
『コインロッカー・ベイビーズ』著者:村上龍
1980年に講談社より上下巻の単行本として刊行。実際に起きたコインロッカー幼児置き去り事件を題材とした長編小説で、第3回野間文芸新人賞を受賞した。
2018年にフィッシュライフが解散したあと、意図的に暇を作っていろんなことをやっていたんです。その中で村上龍さんの作品をいくつか読んで、中でも『コインロッカー・ベイビーズ』のこのセリフは鮮烈でしたね。
今回選んだのは、ヒロインのアネモネのセリフです。セリフが出てくるシーンの詳細はあんまり覚えてないんですけど、主人公のキクにアネモネが「脳には三つの国がある」って話をするんですよ。「運動の国、欲望の国、考える国」があって、欲望の国の王様は鰐で、運動の国の王様はヤツメウナギで、考える国の王様は死人だと。このセリフ自体カッコいいなっていうのと、意味わからんなっていうのが同時にあって(笑)。
そもそも『コインロッカー・ベイビーズ』も『限りなく透明に近いブルー』もそうですけど、結局これ何なんですか? 何が言いたいんですか?って感じる表現が多い。ずっと意味わからんけど、たまになんかわかる、みたいな。でも作品のヴァイブスがとにかく好きで読んでしまうという。だからドハマりした時に感じたのは、作品世界よりも、物語の奥にある猛獣のような村上龍という人間のすごさで。小説を読んでいると、ディスカバリーチャンネルの捕食シーンを見てるような気持ちになる(笑)。ストーリーもグロテスクな話が多いけど、その向こうにめっちゃ躍動するものがあるんですよね。
で、僕はこのセリフを、〈考えてもどうにもならない〉っていう意味として受け取ったんですけど。自分は常々考えすぎがちな人間ではあって、そういう人間からすると、「考えてもしょうがないじゃん」って言われても感動しないわけですよ。それを言われたところで〈考えすぎなくなりました〉とはならない。けれど、まったく構えてない状態で村上龍の小説の登場人物からこう言われた時に、ものすごく言葉が鋭利に飛び出してきた感じがして。全然意識してなかったけど、〈考えすぎるな〉という言葉を初めて飲み込めた気がした。たぶん作品に登場する人物のセリフだからすんなり落とし込めたんですよね。きっと面と向かって同じ言葉を人から言われても、そんなに響いてないと思います。
この言葉自体もそうだし、自分がそれだけのインパクトを持って受け取った状況も衝撃でしたね。それこそ多次元制御機構よだかでやろうとしていることもこういうことで。物語や言葉が持つエネルギーを、心の甲冑の隙間を貫くように届けたい。そういう表現が音楽でやれたらいいなと。音楽を作りながら考えすぎそうになった時には、ふとこのセリフを思い出したりしてます。ゴールキーパーのように僕のネットを守ってくれている言葉ですね。
NEW ALBUM
『LAPLACEL』
2026.07.01 RELEASE
- オデッセイ
- サイダー・アンドロメダ
- スターダスト・エウレカ
- 夜間飛行
- デスクトップ
- DRAGON STOMACH
- ヒーロー
- OXIDE
- スピン
- あらすじ
- 飛鯨五十二号
- コズミック・キャデラック
〈多次元制御機構よだかTOUR 2026 “LAPLACEL: ALL PLACE.”〉
9月26日(土)愛知県 NAGOYA CLUB QUATTRO
9月27日(日)大阪府 UMEDA CLUB QUATTRO
10月9日(金)東京都 SHIBUYA CLUB QUATTRO
