発売延期を経てついにリリースされたキズのファースト・ラスト・アルバム『極楽より極上の雨』。始動から9年経ったバンドが初めて出すアルバムだけに、フロントマンでありソングライターである来夢(ヴォーカル)のプレッシャーは計り知れないものだっただろう。しかし発売が延期になるほど楽曲制作に追い詰められたことで、これまで武装してきた自分のままではいられなくなり、剥き出しの自分をそのまま歌にした生々しい作品となった。白塗りメイクで素顔を晒すことのない彼を初めて取材した時から、実は自分を騙せない素直な人間だと思っていた。そしてこのアルバムに収録されている新曲は、どれもそんな偽りのない彼が自分の弱さを認めた上で、前に進もうとしているのがわかる。残念ながらバンドは来年2月に活動休止することが発表されているが、すぐ同じ場所に戻ってくることをこのアルバムが証明している。
(これは音楽と人2026年9月号に掲載された記事です)
やっとアルバムが完成しまして。
「大変でした。しんどかったです。マジで健康に悪いかもしれない、アルバム作るのって(笑)」
ははははは。
「この2年ぐらい、生きた心地しなかった。途中から〈俺何やってるんだろう?〉って思うこともあったし」
根本的なことを聞くけど、どうして今までアルバムを出さなかったんでしょうか。
「これ、感覚の話になっちゃうんですけど、1曲を作るにもアルバムを作るぐらいの気持ちで全部を詰め込もうとするんですよ。そうやってモリモリに詰め込んだものを、少しずつ削って削って1曲にする作業なんですね。だからアルバムだとそれを何曲もやらなきゃいけなくなるんで」
途方もないですね。
「それこそ1曲目の〈AMATELAS〉は2年前からずっと作ってようやくできた曲で。だからいろんなものをモリモリに詰め込んでるんだけど、そのぶん〈鴉〉とか〈2943〉は自分がカラカラになった状態で作ってて。それこそ〈鳩〉っていう前に書いた曲と同じで、カラカラで飾らない自分がそのまま出てるというか。コードもずっと一緒だし、歌詞も飾らない言葉だし」
そこまで追い込まれたと。
「途中から〈アルバム出せないかも〉と思って、どうやって謝ろうかなって毎朝考えてました(笑)」
あはははは!
「毎朝ジムで走りながら〈どうやって謝ろう……〉って考えたかと思えば〈次はこういう曲書いてみよう〉とか思ったり、ずっとその繰り返しですよ。そういう自問自答の中で、ようやく〈AMATELAS〉が出来上がって。そこから〈これはなんとかなるかも〉って思えたけど……いやぁ、キツかったです」
たぶんプレッシャーもあったんじゃないかと。
「そうなんです。作ってみてわかったのは、前回書いた曲を上回るものができないと満足しない自分がいて。最初に〈JP:PARASITE〉っていう曲を書いたんですけど、けっこう力を入れ過ぎたせいで、それを上回るのがキツかった」
最初にアルバムの延期が決まった時、まぁ仕方ないよねって思ったんですね。曲作りに時間がかかるって前に言ってたし、じゃあそのぶん期待しようと。で、休止が発表されたじゃないですか。あれでナニ!?ってムカついて(笑)。
「あはははは!」
すごい期待してたのに休止ってなんだよ!って。それでアルバムがイマイチだったらめちゃくちゃ文句言おうと思ってたんですけど……全部覆されました。
「おお……嬉しいっす……や、マジで嬉しい! 一番いい言葉もらった!」
あははは! 「JP:PARASITE」が最初にできてからの来夢くんのドキュメントというか。追い詰められてて、カッコつける余裕もない、剥き出しの自分がいて。
「や、それは嬉しいですね」
逆に言うと、ここまで追い詰められないと、本当の自分を出せないってことなんだけど。
「マジでそれ思いました。追い詰められると人間って、剥き出しの自分が出てくる。でも普段はそれって出せないんですよ」
せっかくここまで自分を出したのに、休止っていうのが残念で。
「そうですよね。でもすぐ戻ってくるつもりではいるんで」
それぐらいこのアルバムにはバンドがここで終わるような感じがまったくないというか。実際、そういう気持ちを込めた曲ってありますか?
「〈AMATELAS〉がそうですね。最後にできたんですけど、〈また戻ってくるぞ〉とか〈何回もやり直してみせる〉っていう意味を込めて。あと〈はじまり〉って曲は最初から書こうと思ってたんですけど」
休止を踏まえて書いた曲かと思いました。
「実はこれってファーストシングルが〈おしまい〉だったんで、〈はじまり〉でアルバムを終わらせようと思って、2年前から作ってたんですよ。で、自分の人生の中で〈こうしたほうがよかった〉とか〈こう生きればよかった〉みたいなことってあると思うんだけど、その気持ちからもう一回新しい人生を始めようっていうか。そういう曲です」
なるほど。ちなみに「AMATELAS」は最初の1行目からバンドのことを唄ったんだなとわかる曲で(笑)。
「はははは」
「はじまり」はバンドというよりも、今言われたとおりで。これ、来夢くんの人生ソングですよね。
「そうです」
これこそ剥き出しの自分が出ているんじゃないかと。
「出てます?」
アルバム全体に言えることだけど、来夢くんが今まであんまり出してこなかった部分を言葉にしてるんですよ。
「え、なんだろう? 後悔とか?」
自分の〈弱さ〉ですね。
「あー…………気づかなかったです」
自分の弱さについての自問自答というか。
「弱さ……そうですね。この2年間、弱り果てたり強気になったりを繰り返してたんで、そこは出てると思います」
もともと自分の弱さとか脆さを認めることって難しいじゃないですか。でも今回はそういう自分まで歌にしてて。それだけ追い詰められたんだなって。
「そうですね。でも〈2943〉書いてる時にふと思ってたんですけど、今さら自分の弱さを出しても、ファンは嫌いにならないだろうっていう自信もあったというか」
っていうことは、やっぱり弱さを出せなかった?
「もちろん出せなかったですよ。そこはやっぱ〈男として〉みたいなのもあるし、強いものに対する憧れってあるじゃないですか。たぶんそれって年齢とともに対象も変わっていくもので、例えば中学生ぐらいまでは力が強いとか」
ケンカが強いとか。
「そういうものだったりするけど、それが大人になるにつれ、本当の強さは精神的なものだったり、優しさであったり、そういうのがだんだんわかってきて。だから出せるようになったのかなって思います」

いろんな自分が出てるアルバムだけど、その中でも「はじまり」に出てる来夢くんが一番好きです。
「嬉しい。そう言われて少しだけ自信が持てるけど、本当はちょっと不安だったんです。アルバムを締めくくる曲だし、しかも〈おしまい〉と対になる曲として、最初は器用なことをやろうとしてて。どんなメッセージで終わるのがいいのかとか、自分が〈こう見られたい〉っていうイメージに近づけようとしたり。けど全然思い通りにいかなくて、最終的には剥き出しになるしかなかった」
「おしまい」の歌詞とくらべてみて、どうですか?
「あっちの自分は剥き出しでもなければ等身大でもないというか。言葉の選び方とかも自分が知的に思われたいとか、自分の〈こう見られたい〉っていうイメージに近づけようとしてる」
例えば「はじまり」の歌詞には〈世界は広く 命は細く〉っていう言葉が何回も出てくるけど、これはどこから出てきたものですか?
「これは……やっぱり自分の無力さ、ですよね。昔から海外に行ったりしてるぶん、少しは世界の広さってものを知ってはいるつもりだけど、そんな世界の広さとくらべたら、今の自分はどんだけ小さいというか。小さいというよりも〈細い〉っていう言い方が自分にしっくりきて」
儚いとか脆いとか、そういうことですよね。
「そうそう。広い世界の中で、どうやって生きていこう?みたいな。たぶん……人間がひとりで成し遂げられることって、大したことなくて。イーロン・マスクみたいな人はほんのひと握りで、大切なのは現実の中でどうやって幸せを感じて生きていくかだと思うんですよ」
今、めっちゃ素直に話してます(笑)。
「ははははは。でもそう思っちゃったんですよ。昔はそんなこと思わなかったけど、キズを通していろんな人と接していくうちにそうなったというか。アルバムのインストアイベントがあって――リリースが延期になって予約会みたいになっちゃったんですけど(笑)、そこですごい大切な言葉をファンからたくさんもらって……あれは嬉しかった。自分の中でガソリンになりましたね」
本来は発売記念のイベントだったはずで、普通の感覚ならどのツラ下げてっていう感じだけど。
「だからいろんな人に迷惑をかけちゃって申し訳なかったし、めっちゃ素直に謝ったんですけど、マイナスの言葉ってほとんどなくて。むしろみんなアルバムを期待してくれてたし〈いくらでも待ちます〉みたいな言葉をたくさんもらいました」
そういうファンの言葉も、このアルバムに影響があったと?
「ありますね。たぶんあそこでマイナスな言葉ばっかりだったら、完成してなかったかもしれない」
で、ここまで弱さを出せるようになったと。
「そうですね。今日こうやって言われて初めて気づいたけど、自分ではそこまで弱さを出してるつもりはなくて(笑)。素直な自分が出てるとは思ってたけど」
初めて会った時からすごい素直な人だと思ってました(笑)。
「はははは」
延期していろんな人に迷惑をかけたのは大変だったけど、結果的に「はじまり」みたいな曲が書けてよかったんじゃないかと。
「結果論ですけどね。やっぱり自分の思い通りにいかないのって、ものすごく苦しいことなんで。しかも延期したぶん、みんなが何を望んでるのかとか、反応を気にしながら書こうとしてる自分がいて。そこから吹っ切れてよかった」
このアルバムを聴いた人たちが、どんな気持ちになってほしいとかあります?
「生きるためのガソリンになってもらえたらと思います。自分もそうだけど、人のライヴを観て〈俺も頑張らなきゃ〉って思ったりするじゃないですか。そうやってこのアルバムも、誰かの何かに役立ってもらえたらすごく嬉しい。もちろん受け取り方は自由だし、どう思ってもらってもいいんだけど、聴いた人の何かのためになるものであったらいいなって」
やっぱり素直だ(笑)。
「アルバムの限定盤にDVDが付いてるんですけど、〈おしまい〉の頃からのドキュメンタリーが入ってて、それ観るとまったく今と違うんですよ。発言も立ち振る舞いも違うし、めちゃくちゃ尖ってて(笑)」
あはははは!
「当時は尖ってると思ってなかったけど、尖り散らかしてて。それ観ると、今はいろんな人に愛されるようになったし、俺も愛せるようになったけど、あの頃は人を愛す余裕もなければ自分も愛せなくて、つねに何かに怒ってるというか。でもそういう自分だから書けた曲もあるけど、今は素直に自分を出せるようになったことが嬉しいですね」
文=樋口靖幸
1st LAST ALBUM
『極楽より極上の雨』
2026.08.05 RELEASE

- AMATELAS
- 傷痕 (2026 ver.)
- JP:PARASITE
- 鳳凰
- R/E/D/
- My Bitch
- 鬼 (2026 ver.)
- ストロベリー·ブルー (2026 ver.)
- 鴉 -序-
- 鴉
- 黒い雨 (2026 ver.)
- リトルガールは病んでいる。
- 雨男
- 2943
- はじまり
〈キズ Zepp TOUR『天照焔巡』〉
9月5日(土)Zepp Haneda(TOKYO)
9月12日(土)Zepp Sapporo
9月22日(火・祝) KT Zepp Yokohama
9月26日(土)Zepp Fukuoka
10月3日(土)Zepp Nagoya
10月10日(土)Zepp Osaka Bayside
