【LIVE REPORT】
Mrs. GREEN APPLE〈Mrs. GREEN APPLE DOME TOUR 2025 “BABEL no TOH”〉
2025.12.20 at 東京ドーム
Mrs. GREEN APPLEのカラフルな音楽は、今や老若男女の生活を彩っている。楽曲が演奏されるたび、歓喜や感動に包まれるこの光景は、メンバーがずっと求めていたものだろう。フェーズ2完結のタイミングで実現した、5大ドームツアーの最終日。中世の貴族を思わせる衣装を纏った大森元貴(ヴォーカル&ギター)、若井滉斗(ギター)、藤澤涼架(キーボード)は、手を繋ぎ、笑顔で姿を見せた。そして黄金のテープキャノンが放たれ、ライヴがスタート。きらめく音楽と大歓声は、フェーズ2を駆け抜けた3人を祝福しているようだった。


若井は「みなさんがいるから僕たちは活動できる。届ける場所があるから、次はどんな表現を届けよう?ってワクワクできるんです」とファンへの感謝を語った。藤澤は客席を見渡しながら「やっぱりいいよな……」と呟く。思わず零れた言葉だったのか、「あっ、ライヴが、やっぱりいいよなってことです!」と慌てて付け足していたのが印象的だった。

2人にとってミセスは、安心して帰れる場所なのだろう。若井が攻めのギタープレイを見せれば、大森のヴォーカルも熱を帯びる。藤澤が繊細なプレイで曲の入り口を作るからこそ、大森は心を込めて唄い始められる。そんな信頼関係の中でステージに立つ大森にとっても、ミセスはきっと帰れる場所だ。子どもの頃から、大きなステージに立つ日を夢見ていた大森。登場してすぐ、耳に手を当てて歓声を受け止める姿はとても嬉しそうだった。夢を叶えた今、隣には苦楽を共にしてきた仲間がいる。信頼できるスタッフに囲まれ、アイデアを形にできる環境がある。今の彼は、充実感の中にいるはずだ。

旧約聖書にある「バベルの塔」の物語をモチーフとした今回のライヴ。Mrs. GREEN APPLEは100名以上のキャストや壮大な舞台装置とともに、イマーシヴな世界観を展開した。セットリストの流れを追っていくと、大森の人生そのものが見えてくる。ミセスの楽曲の根底にあるのは、愛されたい、誰かそばにいてほしいという大森の願い。たった一人の小さな願いが、5万人をワクワクさせる壮大なエンターテインメントの源泉になっていた。
愛し愛されたいという気持ちの萌芽を唄った「Love me, Love you」で幕開けたステージ。ここからは歌詞に〈愛〉が登場する曲がしばらく続く。誰かから愛されたいと願ったり、自分を愛したいと思ったり、人間全体を愛そうと試みたり……。音楽もステージングも明るく華やかだが、大森はずっと愛について思い悩んでいる。
やがて、喪失の痛みを唄った楽曲が登場。フェーズ2で生まれた「Soranji」「フロリジナル」には、等速の時を刻む社会と、悲しみのさなかにいて、なかなか立ち直れない自分との対比が描かれている。大森は、胸の痛みを音楽にすることで自分を慰めてきた。そうやってどうにか日常を進めてきた。心の傷も、愛への渇望も、エンタメに昇華する。それがフェーズ2での大森の決断だった。
ライヴの終盤では、ステージにあった巨大な塔が客席にせり出す演出が。感情をぶつけるような激しい曲が続いたこのセクションは、「バベルの塔」の物語が描く人間の愚かさに、大森の「自分って情けないな」という実感を重ねていく構造。神が雷を落とし、塔が赤く燃えるなか、大森は塔の中腹から唄う。大森のいる塔からは、若井と藤澤が見えない。若井や藤澤の立ち位置からも、大森の姿は確認できない。友と分断され、自責の念に焼かれながら唄う大森。その姿に、フェーズ2の真髄を見た気がした。


大森は「バベルの塔」の物語に自分の人生を重ねて、「大事にしていたものは壊れるし、期待は裏切られる。そんなものの繰り返しでしかないんだろうな、生活は、って思います」と語った。続けて「人はネガティヴな生き物。どうせならポジティヴな音楽を、せっかくなら楽しいことをしたいと思って、曲を書いてます」と語られる。その言葉はきっと本心だろう。だが、あまりにも淀みのない口調から、友達とバンドをやっている青年でも、ただ音楽に救われていた少年でもない、Mrs. GREEN APPLE総監督としての視点を感じた。彼はもう、孤独を、大森元貴としての生き方を引き受けたのだ。


その覚悟は、最後の曲「天国」にも表れていた。この曲は、終盤で転調を重ねながら大団円へ向かうも、まるで途中で事切れたかのように唐突に終わる。大森は『音楽と人』2025年6月号のインタビューで、このラストについて「自分の気持ちをエンタメ化することに疲れた」と明かした。一方、今回のライヴでは、アウトロにアディショナルアレンジを施し、美しく完結させた。それは、なぜだろう。自分の人生をエンタメ化しながら生きていくんだと、覚悟を決めたからではないだろうか。 ドームという大舞台を謳歌するMrs. GREEN APPLEの姿は眩しかった。しかしMCに滲む諦観が示すように、大森は、何かを達成しても心が満たされるわけではないこと、塔を登るほど孤独が深まることを既に知っている。「天国」を唄う彼の表情は、どこか寂しそうに見えた。それでも胸をトントンと叩きながら、先に去っていくメンバーやキャストの背中を見送ったあと、最後は自分も光の中へ歩を進めた。光の先に待つのが、天国でも地獄でも構わない。その場所こそが自分の桃源郷であると信じ、音楽を作り続けていくのだろう。大森は背中を向けたまま、観客に手を振った。その姿はやがて眩い余白の中へと溶けていった。
文=蜂須賀ちなみ
写真=田中聖太郎写真事務所
※2026年1月7日発売の『音楽と人』2月号では、さらに詳細な東京ドーム公演のレポートを掲載。フェーズ2完結の物語について、10ページにわたりお届けします。

【SET LIST】
- Love me, Love you
- CHEERS03 アンラブレス
- Feeling
- パブリック
- おもちゃの兵隊
- WanteD! WanteD!
- ライラック
- Soranji
- フロリジナル
- ゼンマイ
- 君を知らない
- Soup
- 絶世生物
- Ke-Mo Sah-Bee
- ア・プリオリ
- Loneliness
- ダーリン
- コロンブス
- ANTENNA
- GOOD DAY
- Magic
- 天国
