a flood of circleの佐々木亮介が音楽活動20周年記念としてリリースした『空飛ぶベッドで迎えにいくから』。全曲アコースティック・アレンジでセルフカヴァーした1枚だが、今作に収録されている新曲「歌うたいのブルース」と「君にI LOVE YOU」は、森山直太朗との共作者として知られる詩人・御徒町凧が歌詞を書き下ろした曲だ。もともとは佐々木がいろいろ悩んでる時期に、とあるきっかけで御徒町と出会い、2人の時間を何度も重ねた末に御徒町から本人へ渡した詩でもある。ここには革ジャンで自分を武装するのではなく、無防備で人懐っこい佐々木がいるのだ。そんな彼を言葉で立ち上がらせたのは御徒町の詩人としての才覚だが、2人が出会った頃から何歩も駒を進めてきた今の佐々木だから唄える歌だという気もする。というわけで彼らが初めて出会ったというスタジオに来てもらい、この2曲ができるまでのいきさつを聞いた。
(これは音楽と人2026年11月号に掲載された記事です)
ここで2人が初めて会ったのは何年前ですか?
佐々木「3年前。ちょうどその時、『花降る空に不滅の歌を』ってアルバムを出して、ここでCDを渡したのを覚えてます。その時、すっごい下心っていうか、自分のみみっちさなんですけど、ジャケットが奈良さん(奈良美智)だったんで〈奈良さんと友達だぞ〉みたいな顔して渡したのを覚えてます(笑)。あと、すごい悩んでた」
御徒町さんは覚えてます?
御徒町「覚えてますよ。主に作詞の相談みたいな感じだったと思うけど、でも俺、そのあとCD聴いて、ライヴ観て〈相談することなんてあるのかな?〉って思った。それ、次に会った時に言ったと思う」
佐々木「そうですね。2回目だったか3回目だったか、ケイさん(御徒町の本名)のアトリエに遊びに行かせてもらって、歌詞のこととか、漠然と悩んでることを相談して。けど別に作詞教室を開いてほしいわけじゃなくて、ケイさんの詩が好きだし、人柄に興味があって」
普通に友達として交流していたと。
佐々木「いつも自然に話してくれて。でも1回、喫茶店で会った時にがっつり深い話になって。歌を玉ねぎに喩えて話してくれたんですけど、玉ねぎの皮があって、実があって、全部剥いていって、最後そこに残ってるものを歌にする、みたいな。あとは詩の朗読会とかも観させてもらって、〈こういう生き方する人なんだ〉って」
御徒町さんは佐々木くんと会うたびにどういう印象を持ちました?
御徒町「印象はここで最初に会った時から変わらないかもね。この前フラッドのベスト盤に〈夏の少年〉っていう詩を寄せたじゃない?(註:ベストアルバムのテイチクオンライン限定盤に付属する特別冊子に寄稿した詩)。あのまんまのイメージ。すごい無邪気というか、小学校の時の友達みたい(笑)」
佐々木「そういう詩でした(笑)」
御徒町「小学校の時の友達って目的がなくてもとりあえず一緒にいるでしょ。そういう感じで。ただ目的もなく会って、2人で弾き語りしたり、腹が減ったからってラーメン食ったり。で、詩の中にも書いたけど、〈いつ帰るんだろう〉って(笑)」
ははははは!
御徒町「でも子供の頃って、そういう感じだったじゃん。チャイムが鳴ったら帰るんだけど、俺も最後まで帰らないタイプだったから。で、それがとても好ましいと思って」

そして2年前に共演をして、そこで御徒町さんが披露した詩が今回の作品になりました。
佐々木「浅草の自分のイベントに出てくれて(2024年6月22日〈雷よ静かに轟け〉@浅草フランス座演芸場東洋館)」
御徒町「さすがに手ぶらで行くのもあれだと思って作詞をしたんだけど、あのイベントがなければ書こうって気持ちにはならなかったかもしれない。でも、そこに至るまでのアイドリングがちゃんとあったからね」
依頼があって請け負った、という形ではなく。
御徒町「亮介とは無駄な時間をずっと過ごせたから、するするっと書けて。だから自然と〈彼が唄うならこういう感じだな〉って。で、それが曲になってすごい嬉しかった」
ちなみに御徒町さんと出会った時、佐々木くんは何に悩んでたんですか?
佐々木「あの時出したアルバムで、初めて自分をさらけ出した感覚があったんですよ。ここから先は俺が俺であることに意味がないと進めないと思って。で、1回出し尽くしちゃったというか。で、悩んでました」
もともと御徒町さんは作詞家としても音楽に関わる活動をされてますが、それは普段の詩を書く行為とは違います?
御徒町「違いますね。詩って、自分のイメージするもの、自分が感じてるものがすべてだけど、アーティストと作業する時は、その人の気持ちになろうとイタコ的にシンクロするんで。だから基本的にはその相手とは絶対に会わせてもらうし」
そうなんですね。
佐々木「だから今回の2曲も、完全に俺が唄ってる感じで書いてくれたんですよ。しかも、俺から頼んだわけでもなく、すごく自然な流れで。ちょっと俺、面倒くさかったと思うけど」
御徒町「いやいや」
ところでさっき話に上がったフラッドのアルバムなんですけど、あれって当時の佐々木くんが初めて描いた自画像みたいなものだと僕は思ってて。
佐々木「そうですね。それこそ1曲目で自分の名前を歌詞に入れてるぐらいなんで(笑)」
でも今回の御徒町さんが書いた歌詞のほうがよっぽど佐々木くんの実像に近い気がしたんです。で、今の話を聞いて合点がいきました。
佐々木「やっぱり自画像だと、どうしても革ジャンを着ちゃうし、カッコつけちゃう。だから〈歌うたいのブルース〉で出てくる中央線のシチュエーションも、ケイさんがイタコ状態になって、俺が中央線に乗ってハミングしてそうだと思ってくれたのかなって。で、確かにそんな自分もいるなって」
で、それは自分の歌詞だったら絶対に出てこないシチュエーションで。
佐々木「出てこないですね。でも実際〈ん~~♪〉って唄ってる時って本当にあって。だから俺、見透かされてる(笑)」
野暮な質問ですが、「歌うたいのブルース」の歌詞はどうやって御徒町さんの中から生まれてきたんでしょうか。
御徒町「佐々木亮介ってやっぱり生粋の歌唄いだと思ってて。で、まずは〈歌うたいのブルース〉っていうテーマの曲が合いそうだと。そこから〈現代のブルースって何?〉って問うたら、歌い手としてのリアルだと思って。例えばみんなが憧れるようなロックスターにも日常ってあるじゃないですか」
ありますね。
御徒町「その日常を積み上げていく、しかも生活の匂いがあったほうがいいと思って。中央線はひとつのオマージュで、バンドマンとか芸人さんを乗せて東や西に行ったり来たりしてるっていう。あと、大きい荷物を持って革ジャンを着てる人が車両の真ん中にいたら、ちょっと怖いんだけど、亮介はそういう感じじゃないよなって」
佐々木「ふふふ」
御徒町「で、ここからは完全にイタコ状態。電車に乗って初めて会う女の子とデートに向かうタイミングで、まだ相手をなんて呼ぶかも決めてない、みたいな。そんなちっちゃなことに気をとられて、思わずハミングが出ちゃう。で、それが佐々木亮介のブルースっていうか」
〈自然に笑える感じがいいな〉っていう一節が個人的にすごく好きなんですけど、ここは――。
御徒町「完全にフロウですね。イタコ的にバーっと書いて、上手くそこに着地できた感じ」
自然と?
御徒町「だから言葉そのものが持ってる引力というか。それがフロウとなって上手くいくこともあれば、つまらなくなる時もある。でもこれはいい感じに着地できたなって自分でも思えたから」

ここ、革ジャンを脱いだ佐々木くんって感じがするのと、佐々木くん自身では気づかないような魅力があるというか。
御徒町「すべてのアーティストは、自分の作った歌を自分のライヴで聴けないじゃない? だから、どうしてもどこかに偏りが生まれてしまうのは当然のことで、客観的には絶対なれない。そのぶん僕が人と共同作業する時は、その人のことを一歩引いて見てて。例えば初めて亮介のバンドの曲を聴かせてもらった時、なんか情報が多いと思ったの。亮介ってこんなにシンプルな表現体なのに。ライヴを観ても〈何が売りだっけ?〉とか」
たぶんそう思ったのは、最初の出会いから佐々木くんの本質を見てるからでは?
御徒町「そうかもしれない」
で、情報が多いと感じちゃったのかなって。でも彼は彼で、さっきの自画像の話じゃないけど、革ジャンを着ないと人前に出せない自分がいて。
佐々木「武装してるっていうか。そこを見抜かれたのかもしれない。しかも最初に会った時に渡したアルバムって言葉の多い曲もあったし。けど、ケイさんは〈くたばれマイダーリン〉がすごくいいって言ってくれたんですよ。『すごい言葉を減らしてもいけるよ』みたいなことを言ってくれて。それを思い出しながら、〈君に I LOVE YOU〉は作ってました」
御徒町「何を唄っても自分の歌にできる人だから。だったら素揚げしたぐらいの言葉のほうがバチーンと届いたりする。だから亮介が唄うなら、俺もスッと書こうって。だって〈君に I LOVE YOU〉って本当にふざけてるもん(笑)」
はははは!
佐々木「だから最初に見た時、笑っちゃいました。『新たなる香辛料を求めて』(森山直太朗のアルバム名)とか言ってた人が、〈君に I LOVE YOU〉とか言ってるんで」
はははは。今までも御徒町さんのことは何度か取材してますけど、人に対する好奇心がすごくある人だと思ってて。でも詩人って人を遠ざけて自分の世界で言葉を紡いでるイメージがあるじゃないですか。
御徒町「俺は全然違うと思う。真逆。だから逆に最近思うんだけど、それが行きすぎて、最終的には隠遁生活みたいなことになる可能性があるなって。人が好きすぎて、疲れちゃう。しかも最近〈あと何年生きるかな〉って考えるようになって。そしたら、人といるのはもう充分っていうか、詩を書いてることも人と繋がることだから、物理的に人と時間を共有しなくても、詩を書くことで繋がれるんじゃないかなとか思ったり」
佐々木「ケイさんの周りには自然と人が集まってくるイメージがあるんですよ。そこは俺にない資質なんで」
そうですか?
佐々木「全然ないですね。頑張って喚いてないと人が来ない。でもそれを言うのが恥ずかしいから〈チケット買ってくれ〉みたいなことを歌にしちゃう。で、そこは可愛げだと思ってくれないとしんどいですけど(笑)」
その可愛げが今回は形になってるんですよ(笑)。
佐々木「そうなんだ(笑)。俺、人に嫌われる勇気があんまりないんですよ。それこそ自分のバンドマンとして〈こうなりたい、こう見せたい、こう生きたい〉っていうのをどこまで貫けるかなんだけど、人に嫌われそうだと思うとすぐ折れそうになる自分がいる」
そのせめぎ合いでバンドをやっていると。
佐々木「間違ってはいないって、まだ自分に思えてるから。武道館に照明がないとか、みんなに止められたけど、〈やったらよさが絶対わかるから〉って、それはやってみせるしかないと思ったし。あと、さっきの自分は言葉が多いっていうのも、シンプルにできたらいいとは思うけど、例えば〈くたばれマイダーリン〉で出てくる〈引越し蕎麦〉みたいなワードをわざと入れてるのも、自分なりの面白さを突き詰めたいからで。で、いつかものすごいものに触って死にたいっていう(笑)」
個人的にはもっと革ジャンを脱いだ佐々木くんも見たい気がしますけど。
御徒町「そうね。歌の中ではたまには革ジャンを脱いでもいいかもって」
まだまだいろんな歌が唄えそうですね。
佐々木「そうですね。伸びしろがあるっていうより、まだ行ってなかった道があったんだ、みたいな。ベストアルバムに寄せてもらった詩の中に〈ザリガニの穴場〉っていう言葉が出てくるんですけど、そういう感じかな。まだ知らなかった穴場を教えてくれた感じ」

文=樋口靖幸
撮影=増田彩来
ヘアメイク(御徒町)=北島圭二_fiorista
NEW ALBUM
『空飛ぶベッドで迎えにいくから』
2026.10.02 RELEASE

〈デジタルリリース〉
01. 君にI LOVE YOU(新曲/ 作詞:御徒町凧)
02. 歌うたいのブルース(新曲/ 作詞:御徒町凧)
〈ライヴ会場限定CD〉
01. 歌うたいのブルース(新曲/ 作詞:御徒町凧)
02. 君にI LOVE YOU(新曲/ 作詞:御徒町凧)
03. 理由なき反抗(The Rebel Age) (原曲 a flood of circle)
04. ベイビーブルーの星を探して(原曲 a flood of circle)
05. おやすみシュガー(原曲 a flood of circle)
06. 人工衛星のブルース(原曲 a flood of circle)
07. うれしいきもち(原曲 THE KEBABS)
08. 君はアンチドーツ(原曲 RYOJOE)
09. 自由研究(原曲 佐々木亮介/LEO)
10. くたばれマイダーリン(原曲 a flood of circle)
11. ベイビーそれじゃまた(原曲 a flood of circle)
12. Honey Moon Song(原曲 a flood of circle)
13. シンギング・バーで待ってるぜ
〈弾き語りワンマンツアー『佐々木亮介の惑惑惑星ツアー2026』〉
2026年11月27日(金)大阪 島之内教会
2026年11月28日(土)京都 紫明会館 ※2回公演
2027年1月9日(土)東京 淀橋教会 インマヌエル礼拝堂
