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【Archive/Interview】金戸覚/音楽と人2025年6月号

昔、呑んでてイサオ(高野)に「一生やっていこうな」って言ったんだ。このルーティンを一生やっていこうなって



「バンドはもちろんやりたいよ。ずっと思ってるし、今でも思ってる。なんでかっていうと、プレイヤーの仕事ってやっぱり〈乗っかり〉なんだよ。ヤドカリなんだ。何が欲しいって、母体が欲しいんだよ。俺は自分の家の鍵が欲しいんだ。家の鍵が」


時計は少し戻る。ジョン・ブリーフを結成して1年がたった頃、下北沢の友人を通して男の元にある誘いが届いた。「オーディションを受けてみないか?」。GRAPEVINEがツアーでベースを弾いてくれる人を探しているという。


「GRAPEVINEって聞いて、当時はそんなに感情が動くことはなかったね。曲はラジオで聴いて知ってたくらい。オーディションでは〈スロウ〉と〈パブロフ(ドッグとハムスター)〉をやったのかな。やってみると〈スロウ〉はコード進行もヘンだし、オルタナティヴに聴こえたね」


当時GRAPEVINEはリーダーでベーシストの西原誠が腕の病気で一時離脱中。2001年の全国ツアー〈Whitewood〉はサポートを迎えて廻ることになった。

1990年頃。「遠藤ミチロウさんと。何かのライヴの打ち上げにて」


オーディションに合格した男はキーボードの高野勲とツアーに帯同した。ただ、この時はあくまで西原が戻るまでの一時的措置。そんな中でも男はリハーサルが終わると、リズム隊を組む亀井亨を呑みに誘った。「一緒に演奏するには互いの特徴を把握しないといけないし、お互いに無関心じゃいけないんじゃないの?」。そんなふうに熱く語った。


〈Whitewood〉ツアーは好評のうちに終了した。男は日常に戻った。再びジョン・ブリーフをどうしていくか頭を悩ませる日々。GRAPEVINEのメンバーとはその後も交流が続き、〈FTK&K〉〈B.F.I〉といった遊びのバンドで音楽を楽しんだ。


亀井から連絡があったのは、ツアーからおよそ1年後のことだった。普段は受け身の亀井から連絡を受けて、男は何かあるなと直感した。亀井は西原の病気がよくならず、最終的にバンドを脱退する決心を固めたことを伝えた。そして男に改めてGRAPEVINEでベースを弾いてくれるよう頼んだ。


確かにツアーは楽しかった。しかしそれはあくまでワンナイトスタンド、一度限りだからこその楽しさでもあった。


「気を遣ったのは、西原がイヤじゃないのかなって」


男はその前年、ガンと診断され切除手術を受けていた。33歳の時だった。肺に腫瘍ができたが、できた場所がたまたま骨の上だったので転移は見られなかった。男は背中にメスを入れ、片肺の上部と気管支を取り去った。今も背中に手術の跡は残っている。その後も転移の不安は消えることなく感じている。


「そういう経験があったから、楽器が弾けないのはつらいだろうな、病気が治らないことに対するストレスもあるだろうなと思ったんだ。100%同じ気持ちにはなれないけど、若干その気持ちはわかるっていう」


後日、男はもやもやした気持ちを抱えたままライヴ会場に足を運んだ。そこには動かない腕でベースを弾こうとする西原と演奏に徹するメンバーの姿があった。


「その時彼はもう辞めることが決まってて、俺が入ることも決まってて、だけどそれらを発表する前で。彼はテープで腕を固定して指一本で弾いてて……あん時は感動したよ。感動したというか、すごくナイーヴな気持ちになった。ひとりの人間が自分の意に沿わないことで愛しいバンドを離れなければならない、それを目の当たりにしたわけじゃない? 30そこそこでガンになって死んじゃう人もいるかもしれないけど、生きて愛する者を捨てていかなければいけないっていうのは……ね」


男は2003年のツアー〈Curry's Soundtrack〉から再びGRAPEVINEに合流した。名目上サポートメンバーという肩書は変わらなかったが、それ以降、今に至るまですべてのライヴとレコーディングに参加している。


●


「GRAPEVINEでやってきたことに関しては誇りに思ってるよ。ここでやれてることにプライドも持ってるから」


ミュージシャンとして忘れられない出会いもあった。


2005年の『déraciné』から『真昼のストレンジランド』まで、長らくバンドのプロデュースを担当した長田進との出会いだ。ギタリストとして佐野元春、奥田民生、井上陽水らの仕事をする長田との邂逅は、男にとっての分水嶺となった。


たとえば「This town」という曲のリズム録り。単純なエイトビートのはずなのに何十テイクやってもOKが出ない。長田の口をついて出るのは「出ねえなぁ……」というため息ばかり。一日中トライしてOKは出たが、その場にいた誰もが納得してない空気は明らかだった。


男はすぐに亀井に電話して、呑みに誘った。


「もう一蓮托生だから。みんなをギャフンと言わせることやってやろうぜ!」


2人が揃ってスタジオに入るようになったのは、それからだ。ロックを演奏するとはどういうことか。バンドでグルーヴをつくるというのはどういうことか。そうした出会いに導かれながら、ひたすら5人での演奏を磨き続けた。


「俺の立場として長田さんから教えてもらったのは、ベースはもっと隙間を開けろ、ということ。『いいところで出てきて、いいところで引っ込む。音数を減らすことで不安定な要素も増えるし、ベースが入った時にドンと締まるようになる。それもおまえの役割なんじゃないの?』って言われて。だからバインって他の邦楽のバンドより圧倒的にベースの量が少ないと思うんだ。俺はそれはIQの高い音楽だと思うの」


GRAPEVINEはこの5月、19枚目のアルバム『あのみちから遠くはなれて』をリリースする。男は作品の出来に満足している。スタッフのひとりと車で聴いた際、「アルバムの前半と後半で別のアーティストみたいに聴こえる」と言われたことを思い出す。関係者の評判も上々。作品に対する覚悟もある。


制作中に嬉しい出来事があった。スタジオで男が「もっとうまくできないかな……」と悩んでいると、西川弘剛が数々のペダルを引っ張り出して、音の調整を手伝ってくれたのだ。今もまだ鳴らしたい音を探し続けている。バンドのメンバーとして一緒に作業することで相乗効果でいいものが作れているのかもしれない。それが求められているのかもしれない。


「まあ、二十何年やってればね、部屋に入ったら落ち着くよ。今も鍵は持ってないけど、ピンポン鳴らさず部屋に入れるようにはなったかな(笑)」

FTK&K。「ロフトで撮影したな。衣装はみんなで買いに行った」


GRAPEVINEがデビューしてオリジナルメンバーの西原が辞めるまで5年。男がベースを弾くようになって25年。ツアー、レコーディング、ツアー、レコーディング、ツアー、レコーディング、ツアー……ただそれを繰り返してきた。音楽漬けの毎日を送ってきただけだった。好きなことをやっていたら日々が過ぎるのはあっという間だ。


「なんだかんだ言って、俺はひとつのバンドを6、7年しかやったことがないからね。二十何年いれるってことは居心地がいいってことだと思うんだ。まあ、たぶん俺じゃなくて別のやつでもここまで来れたと思うけど」


「もう一生モノだからね。昔、何かで呑んでてイサオ(高野)に〈一生やっていこうな〉って言ったんだ。〈バインを~〉とも言わず、〈バンドを~〉とも言わず、〈音楽を~〉とも言わず、ただこのルーティンを一生やっていこうなって。今を一生やっていこうって。その時? 他のみんなもいたんじゃないかな」


若き日に恋い焦がれたバンドマンになるという夢。男は来年の還暦を前に、自分がなりたいものになれたのだろうか?


「思ってた以上じゃない? ひょっとしたら今のほうが音楽好きかもしれないと思うもん。そう言えてることが幸せだし、そういう場所にいられたことが幸せだよね」


これまで一緒にやってきたようなバンドでも終わってしまうことが少なくない。天国に逝ってしまった友達、解散という道を選んだ友人。


「区切りって俺、何を区切りにするの? 音楽って引退するものなの?」……。


最新作『あのみちから遠くはなれて』の最後に置かれたのは「追憶のビュイック」という曲だった。アメリカ車をタイトルに冠しているという意味で、この歌は2014年発表の「吹曝しのシェヴィ」の続編としても捉えられる。


シェヴィは田中和将が男をイメージして書いた曲だと、かつて噂になったことがあった。止まった時間に囚われて過去を振り返っていた主人公は、〈永遠に降りられないフリーウェイ〉の上で今もまだ追憶に浸っているようだ。


「言われたけど何のことだかさっぱりわからないよ。まあ、60年近く生きてきたら過去も増えますから」


「追憶のビュイック」のアウトロ、いつまでも終わりたくないように、バンドの演奏が、男のベースが鳴っている。


〈愛してるよ/追憶がまだ続いてるのか/まあいい〉


6月からは〈TOUR2025〉とだけ名付けられた全国ツアーが、またはじまる。


文=清水浩司





金戸覚 還暦記念〈金やん還暦サマーファイトシリーズ〉

8月14日(金)渋谷クラブクアトロ
GRAPEVINE vs THE GROOVERS

8月25日(火)恵比寿LIQUIDROOM
GRAPEVINE vs The Birthday

9月25日(金)下北沢CLUB251
金戸覚 、菅原龍平 & Golden Gates、B.F.I.、うつみようこ、真城めぐみ(ヒックスヴィル)、伊東ミキオ、森信行、林幸治(ICEAOP)、佐々木健太郎(Analogfish)


〈GRAPEVINE IN A LIFETIME CIRCULATOR tour〉

8月1日(土)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM
8月2日(日)広島 クラブクアトロ
8月8日(土)熊本 B.9 V1
8月9日(日)福岡 DRUM LOGOS
8月11日(火・祝)松山 W studio RED
8月22日(土)京都 磔磔
8月23日(日)Live House 浜松 窓枠
8月29日(土)金沢 EIGHT HALL
8月30日(日)長野 CLUB JUNK BOX
9月6日(日)札幌 ペニーレーン24
9月12日(土)新潟 LOTS
9月13日(日)仙台 Rensa
9月18日(金)東京 EX THEATER ROPPONGI
9月19日(土)東京 EX THEATER ROPPONGI
9月22日(火・祝)なんば Hatch
9月23日(水・祝)名古屋 ダイアモンドホール


GRAPEVINE オフィシャルサイト

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