【LIVE REPORT】
aiko Live Tour〈Love Like Pop vol.25〉
2026.06.06 at 東京ガーデンシアター
6月6日、東京ガーデンシアターでとんでもないものを観た。aiko Live Tour〈Love Like Pop vol.25〉である。控えめに言って、個人的には令和イチのライヴだった。
2019年2月のさいたまスーパーアリーナ公演ぶりに観たaikoは、ライヴモンスターと化していた。ライヴは一期一会だと多くのアーティストが口にするが、彼女以上にそれを体現している人はいないと思う。毎回がハプニングに満ちていて、それをaikoは明らかに歓迎しているし、むしろ自らそういう状況を起こしにいっているような気すらする。自分は、たまたまツアー初日の八王子公演も友人と一緒に観に行っていたのだが、その内容は本公演とは似て非なるものだった。もっと言うと、10年代までに抱いていた彼女のライヴの印象からも異なる。長いキャリアを通じて獲得した自信がさらなるブレイクスルーにつながったのか、特定の枠に収まらず、〈aiko〉というジャンルと言ってもいいくらい独自性が強く、自由度や完成度も高い。
今のaikoは、ライヴの流れというものにあまり頓着していないように見える。これは想像でしかないが、どのタイミングでどの曲を唄いたいのか、というところに主眼を置いてセットリストを組み(当然、バンドの都合もあるだろう)、あとは出たとこ勝負。その日の空気を共有する観客との化学反応次第でいいように転がしていく。観客とともに作るライヴにほかならない。


そんな化学反応のひとつが観客との会話。aikoはライヴ中に彼ら/彼女らの声をとにかく拾うし、彼女も個々にピンポイントで話しかけていく。そんなどうでもいい話に乗らなくてもいいのに、と思うくらい拾う。まるで自身のラジオ番組に寄せられたお便りを読むかのように、一人ひとりの声に耳を傾け、表情を確認し、会話を展開させ、笑いにつなげていく。この技術が異次元のすごさなのである。序盤のMCでのこと。とあるライヴでその日が誕生日であることを叫んだ観客の声をaikoが拾ったことについて、SNSでファン同士が不満を言い合っている様子を見たという。そして、彼女はこう言った――それは私の転がし方が悪かった。だから、そのファンを責めないでほしいというのだ。これは単なるフォローではなく、純粋に自分のトークスキルの至らなさを嘆く言葉だった。「喋りも歌も上手くなりたい!」と叫ぶaikoは本気だった。
ポジティヴで力強い歌唱だけでなく、「あかときリロード」と「大切だった人」といったピアノ弾き語りでは、繊細かつ丁寧なパフォーマンスを届けるなど、堂々たる立ち居振る舞いを見せるが、MCでは観客との垣根をできる限り低くする。観客とのやりとりにおいて、この日はいくつも痺れるシーンがあった。途中で入場してきた女性客から好きな曲を聞き、その曲を1コーラス唄ったのもすごかったが、「キラキラ」「相思相愛」とラストへ向けてギアを上げ、圧巻の歌唱で会場全体をポジティヴな空気で包んだ本編終了間近のひと幕は、ぶっちぎりのハイライトだった。「次で最後です」と伝えたあとも、嵐のラストライヴのことなど延々と話し続けるaiko。そこで客席から飛んできたのは、aikoのファーストシングル「あした」を買ったよーという男性の声。普通なら「ありがとな」で済ませてもいいところだが、彼女はそのひと言をきっかけに、デビュー曲の貴重なレコーディングエピソードを披露してくれた。そして、改めて先ほどの男性に向かって、よかったら新曲も買ってほしいと懇願。「なんていうタイトルー?」と彼がたずねると、aikoは親指を立て、こう叫んだのだった。「クライ! ハイ! フラーイ!」始まった曲は最新シングル「Cry High Fly」、最後の曲だった。スクリーンに映し出された〈Cry High Fly〉の文字も相まって、あまりに出来すぎた展開。aikoのライヴは、筋書きのないドラマだ。


歌唱面に関して言うと、どういう喉の仕組みになっているのか、彼女の声はステージの熱と観客の表情と声援を栄養にして、ステージが進むにつれてぐいぐい調子を上げていく。「透明ドロップ」のラストで響かせたロングトーンは圧巻だったし、「skirt」におけるパワフルさも鳥肌モノ。表現の違いこそあれ、どの曲でも全力の火の玉ストレートを放り込んでくる。
ダブルアンコールのラストとなる5曲目「be master of life」では、ギリギリまで追い込まれていたであろう喉を振り絞って渾身のシャウト。ツアーファイナルならまだわかるが、彼女は翌日にも同じ場所での公演を控えていた。それでもこっちが心配になるほど全力を尽くす。さらに、このあとにはトリプルアンコールで2曲を披露。ちなみに、ダブルアンコール以降の楽曲はステージ上でバンドメンバーが決める。当然、日によって選曲はバラバラだ。その日一日を観客と共に過ごしたうえで何をaikoに唄ってほしいか、というのがセレクトのポイントだろうか。選曲会議に参加しないaikoのアティチュードは、〈自分の歌ならどれでもうれしい〉。そんな歌への情熱に胸を打たれない観客はいない。限界を超えたところで我々は大きく心を揺さぶられるのだ。「80までずっと唄えてたらいいなと思ってる」と願う一方で、今日ここで歌手人生が終わってもいいというくらいの熱量を吐き出す。その矛盾が彼女を強くしていく。だからこそ、今のaikoは最強なのかもしれない。


公演中、aikoは何か感動的な発言をしたわけではない。それどころか、湿っぽさなんて微塵もなかった。しかし、ライヴと歌に懸ける彼女の想いに涙が溢れそうになった。それは、ここまでステージ上で自己をありのままに表現できる人がいるのかという、未知の物に触れた衝撃だ。1コーラスだけアカペラで唄った2曲も含めて全30曲。伝説級の3時間40分だった。
自分は、彼女と同じ昭和50年生まれ。aikoが頑張るから俺も頑張る――ずっとそんな気持ちでいた。しかし、最早軽々しくそうは思えない。aikoは驚異的なライヴモンスターへと変貌を遂げていて、自身の周囲にあるものをすべて喰らい尽くしてパワーへと変換し、今なお成長を続けている。彼女と同年代の人間なら、これがいかに驚異的なことかよくわかるはず。歌はもちろん、あの小さな体から放たれる膨大な熱量に触れて奮起するファンは多いだろう。自分も、思いっきりケツを蹴り上げられた気分だ。その温かな痛みはしばらく消えそうにない。
文=阿刀“DA”大志
写真=横山マサト



【SETLIST】
- 星の降る日に
- うん。
- れんげ畑
- Smooch!
- 桃色
- 透明ドロップ
- 花風
- skirt
- 三国駅
- 恋人
- あかときリロード
- 大切だった人
- 消しゴム
- 予告
- ストロー
- キラキラ
- 相思相愛
- Cry High Fly
ENCORE 01
- 青空
- KissHug
- オレンジな満月
ENCORE 02
- 果てしない二人
- 二人
- Loveletter
- ボーイフレンド
- be master of life
ENCORE 03
- 未来を拾いに
- シアワセ
