35年近く音楽雑誌の編集をやっていて、カッコいいなと惚れ惚れしたギタリストのひとりが、D'ERLANGERの楽曲のほとんどを手掛けるCIPHERだ。ロックスターとしか言えない佇まい。ステージではほとんど喋らないが、ギターを鳴らした瞬間の圧倒的な存在感。すべてが絵になるのだ。取材に5時間遅れてきても、CIPHERだからなあ、と自分が納得してしまう、そんな存在だった。ゆえにこれまでのアルバムは、そのカッコよさからなかなか抜け出せず、自身を活かしきれてない気がして、ちょっと歯痒かった。しかし4月22日にリリースされる11枚目のオリジナル・アルバム『Evermore』は、ここ最近、彼が経験したことが影響し、弱さも含めた人間味が感じられるような作品になっている。『Evermore』とは永遠の意。しかしそれがないことをわかっているからこそ、それを求める気持ちが描かれている。そんな彼も、やはりカッコいい。
(これは音楽と人2026年5月号に掲載された記事です)
アルバム、かなりギリギリで完成しましたね。
「できてよかったなと、今は胸をなでおろすばかりです(笑)。録る日程、もうちょっと後ろかなと思ってたんですよ。それがずいぶん手前で(笑)。まだ曲が立ち上げきれてなかったんで、年があけてから追い込んで、間に合わせました」
今作は、ツアーでやってた新曲が多く収録されていますね。
「そう。半分ぐらいはもうライヴでやってるんですよ。最近のD'ERLANGERはライヴが基本やし、毎年新譜を出すわけでもないので。社長(Tetsu/ドラム)から言われるんです。『このツアーで新曲やろう。書け!』と(笑)」
ケツをたたかれるわけですね(笑)。
「そうです。あまりそういう作り方、得意ではないんですけど。ツアーに絡めて新曲を1、2曲披露するのはいいんですよ。ただ前作(『Rosy Moments 4D』)は、レコーディングとツアーがかぶったんです。あれは二度とごめんですね。でも、D'ERLANGERは1年中ライヴ尽くしなんで。多作なほうじゃないので、隙あらば書かないと追いつかないのは確かで」
曲をツアーで仕上げていくことで変化はなかったですか?
「ありますよ。それに今回は、よきも悪きも悲しくも、思うことがいっぱいあったんでね」
それは何ですか?
「うーん……それが何なのか具体的には言いたくないですけど、もう遺言ですよ、これは」
遺言?
「病気になったとかそういうんじゃないですよ? でも昨今、何が起こってもおかしくないし、いつ自分が消え失せるかわからない。今書いてるこの曲が、もう最後になるかもしれない……前のアルバム制作してる頃、kyoさん(ヴォーカル)が病気になって(註:2021年、肺に腫瘍が見つかり休養)、なんとなくそういうことを考えてはいたけど、櫻井さん(櫻井敦司/BUCK-TICK)もそうやし、自分が憧れて、永遠やと思ってたロックスター、デヴィッド・ボウイだって消えるんですよ」
そうでしたね。
「時間がそんなにないな、と思って。そやったら今まで以上にひとつひとつ大事にして、これが最後の曲になってもいいようにしていきたいなと」
kyoさんも「Umbrella」で〈止まぬ雨よ 奪わないで この声を〉と唄ってます。これも自分の病から感じたことが歌詞になってると思うんです。
「そうでしょうね。バッキバキにディスカッションしてるわけじゃないですけど、皆まで言わずとも僕は僕なりに感じ取ってますし、彼が思ってることはわかってるつもりではいるので」

でもCIPHERさんって、日本のロック界の中でも、1、2を争うギタリストらしいギタリストじゃないですか。
「いきなり何言い出すねん!(笑)。もっといますやん」
そんな人が、日常がいつか終わるとか、これが最後かもとか、一般の人の気持ちになった時、そういうカッコよさを保てるのかな、と思って。
「もう、カッコ悪い自分も認めて、それも俺やんな、と思えてるし、別に繕ってるつもりもないので。怖くもないです。『こんなもんですよ』って卑下して言うつもりもないですし、まあチンケな言い方すると〈等身大〉ですか(笑)」
でもCIPHERさんがステージで、ちょっとだけわきまえて見えたの、吉川さん(吉川晃司)のサポートくらいですよ。
「そりゃポジショニングああせんと、俺にシンバルキック飛んでくるから(笑)」
でもそれくらい、今どき貴重なロック・ギタリストだと思うんですよ。
「化石みたいな存在やね(笑)」
でも盟友のTetsuさん始め、CIPHERさんはそうあってほしい、という願いや期待、気遣いはあると思うんですよね。
「はい。重々……それはわかってるつもりです」
それはどう感じてるのかなって。
「いや……よう言葉にできんのですよ。今さら野暮じゃないですか。言葉じゃ表現しきれないんですわ。もう……あいつじゃないとアカンし、いてくれることに感謝しかないです。58年も生きてくると、いろんな出会いと別れを経験してる。苦楽を共にして、いろんな壁を乗り越えて、歩み続けた2人ですからね」
でも、永遠なんてない、と思う瞬間も多いわけで。
「永遠というものがないから、このタイトルですよ」
なるほど。だから『Evermore』と。
「たまたま出くわした言葉なんですけど、永久にとか永遠とか、そういうものはないんですよ。ないとわかってるんです、いつか朽ち果てて消えていくんです」
だからそれを強く願う、ということですよね。
「野暮だから言いません(笑)」
はははは。
「27クラブって知ってます?」
ジミヘン、ジャニス、カート・コバーン、ロックスターはみんな27歳で燃え尽きて死んでいく、その象徴ですよね。
「俺もそうやろな、と思ってましたよ。ド派手に打ち上げて、ワガママ言って、迷惑かけまくってもやりたいことやり尽くして消えりゃいい、って思ってた。でも〈生きすぎたな〉と思ったら、もう今さら戻れない。〈行くとこまで行くしかないな〉って思いますよ」
そうなった自分の姿をどう思いますか?
「この人27歳くらいで死んじゃうんやろなと思ってた、キース・リチャーズも(エリック・)クラプトンも生きてるんですよね。だから俺も、まだまだ青いと(笑)」
そう思いますか?
「うん。まだ自分の中に、未完の部分がある気がしてるんですよね。それはさっき話した、自分を顧みて、カッコ悪くなっちゃったな、って部分も含めて、やらなきゃいけないのかもしれない。なんかまだ、終わった感じにはなれんのですよ。遺言だとか言いつつ〈我、まだ青し〉です」
だからこのアルバム、終わりを感じさせるところもありますけど、諦めのなさもありますよね。
「この歳でこっ恥ずかしいですけど、〈俺って大人げねえな〉って瞬間がまだまだありまして。今回もギター録音する時、新曲やからいろいろ迷ったんです。で〈大人げないヴァージョン〉と〈大人なヴァージョン〉を弾いたんです。『どっちがええ?』って聞いたら、みんな、満場一致で大人げないほうやった(笑)」
あははは。
「まだまとまらんでええ、ということですよ」
でもだったら、その大人げない、めちゃくちゃ青い歌詞を、CIPHERさんが書けばいいのに、と思いますけどね。
「そこはkyoさんがいますから。でも、書きたいと思ったら書きますよ。ただ、今はそう思ってないのと、思ってなくてここまできた今があるので」

じゃあ今、CIPHERさんがバンドに向き合うモチベーションって、どこにあるんですか?
「4人が元気でいること(笑)、ほんと切実にそう思ってて。初詣で願い事する時、四字熟語いろいろあるじゃないですか。俺、今までは〈心願成就〉みたいな、いわゆる願いが叶うようにというワードを選んでたんですけど、最近は〈健康第一〉です(笑)」
なるほど。
「次があるって、誰も約束してくれることじゃないので。よく言うじゃないですか。愛する人には、元気なうちにちゃんと気持ちを伝えようって。それはほんとに身に染みて。恥ずかしがってる場合でもないし、なんかふわっと当たり前に思ってもいかんし」
それってメンバーはもちろん、ここまでD'ERLANGERを追いかけてきた、ファンに向けたものですよね?
「いや、ほんとにありがたいと思ってるんですよ。でもあまりはっきり言わないほうが、CIPHER的にはいいと思う(笑)」
一郎はいいけど、CIPHERはどうかな、と(笑)。
「まあ伝えたって俺は俺やし、D'ERLANGERはD'ERLANGERやからな。ええか(笑)。なんか伝わったらいいよなって思いでステージを去る時もありますよ。やっぱりギタリストですから、言葉で伝えることに不慣れなもんで(笑)」
伝えたいのは〈Evermore〉って気持ちですよね。
「そうですね。なんか、ずっと続くといいよね、って感じです。永遠だぜ!とか、ずっと一緒だぜ!じゃないんですよ。そうであったらいいよねって、夢を一緒に見続けていたい、そんな気持ちなんですよ」
CIPHERさんがめっちゃ素直だ(笑)。
「なんか昔は、どえらい甲冑全身にまとって、カッコいいとこばかり見せて、弱いとこはずーっと隠してたんですよ。ホンマはめっちゃ弱いのに。俺であるようで俺じゃない、みたいな感覚。でもいろんな経験して、歳を重ねて、甲冑なしでも前よりは強く立ててるかな、って思えたり。弱さなんていうのはもうずっと抱えてますから。でもそうであってこそ人じゃないか、って思ってますしね」
なるほどね。
「あのね、いつぞやに俺が出会った言葉があって。〈残心〉っていうの。残す心。二通りの意味があって。ひとつは刀や剣を使う武術で使うんだけど、勝ってもすぐに気を抜かない、って意味。くつろいでいる時も、勝負が決しても、つねに心を緩めない」
はい。
「もうひとつは、料理人の親方が弟子に対して言う言葉で。美味しいものを作ろうとして、何でもかんでも詰め込みすぎるとアカン。そんなことをするからゆとりも余裕も生まれへんねん、と。ちょっと引いてるぐらいのところで収めて、余韻を残す。それも〈残心〉。それがあるから、食す相手がまた食べたいなと思うんや、と。今回のアルバムは、それができた気がしてて。前作もそれを意識してたけど、できなかった。今回は完成してから〈あっ〉って思った。そうや、俺、このことをずっと思ってたな、できたなと」
武術の〈残心〉って、緊張感を強いりますよね。
「そう。たぶん今まで、そっちのほうが濃かったんだな。ギタリストとしての立ち姿というか、カッコよさにこだわって、そこからはみ出すことを嫌ってた。でもアルバムを作りながら、自分がその料理人の弟子のように思えたんだよね。いいなと思うことを詰め込んで、これもこれもってやってた。今は引きの美学というか、そこは聴いた人がわかってくれるだろう、みんなが形にするだろう、ってくらいの隙間があるからね」
で、そういうことができるようになったのは……。
「まあ、ひとりじゃない、ってことを実感したからですかね。バンドも再始動して19年、ここから先誰かやめたりすることもないだろうし、これだけライヴやってると、そう思うことが増えるんですよ。ほんまに俺、自分がやりたいこと、あれもこれも目一杯つめこんで、お弟子さんのように生きてきたから」
よくわかります。
「今は、本当にありがたいですわ。バンドを続けていられることが、すごくうれしい」
でももっと金稼いで、タワマンの最上階にでも住んで、高級なスポーツカーに乗るような、そんな生き方には憧れませんか?
「もういいかな(笑)。なんか、そういうことに対して喜びや価値を感じることもなくなって……でもいいのあったら乗りますけどね(笑)」
わははははは。
「どえらい高いギターとかあるじゃないですか。それも弾かせてくれるなら弾きますけど(笑)、そういうんじゃないんですよね。だってこのアルバムでいちばん活躍したギターって、自分が酔っ払ってついポチった、フェンダー・メキシコの4万円のストラトキャスターですよ」
そうなんだ(笑)。
「弾く人がどうなんやってことですよ。今はそんなんで飾らんでも、自分はこんだけやってきたんだ、ってことに胸を張れますから」
で、そうなれたのは、共に歩んできたメンバーとファンがいたからだ、と。
「野暮だから言わんけどね(笑)」
文=金光裕史
NEW ALBUM
『Evermore』
2026.04.22 RELEASE

- undercover of darkness
- Kiss My Blood
- Roses blooming softly at nite
- Mutinity In Heaven
- C'est la vie
- 深愛
- You're gonna be the one that saves me【通常盤CDのみのボーナス・トラック】
- RAIN
- SPs\E5th.mdnt
- Umbrella
- Wandering Star
〈D’ERLANGER Evermore TOUR 2026〉
4月25日(土)梅田クラブクアトロ
4月26日(日)梅田クラブクアトロ
4月29日(水・祝)EX THEATER ROPPONGI
5月9日(土)神戸 Harbor Studio
5月10日(日)神戸 Harbor Studio
5月16日(土)柏 PALOOZA
5月17日(日)柏 PALOOZA
5月23日(土)高崎 Club JAMMERS
5月24日(日)高崎 Club JAMMERS
5月30日(土)岡山 YEBISU YA PRO
5月31日(日)岡山 YEBISU YA PRO
6月6日(土)名古屋 Electric Lady Land
6月7日(日)名古屋 Electric Lady Land
6月13日(土)渋谷 STREAM HALL
6月14日(日)渋谷 STREAM HALL
6月20日(土)長野 CLUB JUNK BOX
6月21日(日)長野 CLUB JUNK BOX
6月27日(土)SUPERNOVA KAWASAKI
6月28日(日)SUPERNOVA KAWASAKI
7月4日(土)仙台 darwin
7月5日(日)仙台 darwin
7月11日(土)金沢 EIGHT HALL
7月12日(日)金沢 EIGHT HALL
7月18日(土)HEAVEN'S ROCK さいたま新都心VJ-3
7月19日(日)HEAVEN'S ROCK さいたま新都心VJ-3
7月25日(土)盛岡 CLUB CHANGE WAVE
7月26日(日)盛岡 CLUB CHANGE WAVE
8月22日(土)福岡 DRUM Be-1
8月23日(日)福岡 DRUM Be-1
8月29日(土)札幌 cube garden
8月30日(日)札幌 cube garden
9月5日(土)Live House 浜松窓枠
9月6日(日)Live House 浜松窓枠
