ピーズ本格始動から、新作『2021』完成を経た現在まで
手術を終え、10月28日に退院したはるは、まずサポート・ベーシストとしてコゴローズのライヴに参加。そして年が明けて2020年2月13日の紅布〈大木温之ワンマン「ただいまおかえりよろしくー」〉で復帰。30曲以上を唄い、最後は観に来ていたみったんと茂木左をステージに上げ、3人で「ブリリヤン」「いきのばし」をプレイした。そしてこの日〈ピーズ解禁〉〈ピーズ放流〉と銘打って、アビさんが加わった4人編成によるワンマンを4月に千葉LOOK、5月に横浜F.A.Dで行うことを発表。〈Theピーズ〉ではなく、4人編成の〈ピーズ〉として本格的に活動スタート……という矢先に、世界を新型コロナウィルス禍が襲う──。
安孫子「はるが戻って来て、『じゃあ行こうか!』と思ったら、コロナですから。またそこで、テンション下がっちゃってね、俺が。みんなに悪いなと思いながらも、外に出られなくなっちゃった。スタジオに入るのも密だからおっかねえし。またグジグジしてました。だからそれでまた時間食っちゃって。『やりたい!』って気持ちになるのに、少し時間が必要でしたね」
それから1年半後の2021年秋。ピーズは5曲入りミニ・アルバム『2021』を作り上げ、ライヴを本格的に再開した。2022年は、1月8日の横浜F.A.Dを皮切りに、4本のツアーも組まれている。
安孫子「ちょっと音楽になってきてるかな、みんなで音楽を作ってるな、って感じがする。そういう明るさが見えてきた。楽しいんだよね、バンドやってて……何を言ってんだろうね、何十年もやってきてんのに(笑)。でも今は、そういう気持ちになれてる。なんか作りたいんだよ、とにかく」
大木「『2021』は、運良く9月頃に録音ができたんだね。いちばんライヴがしづらくなって、スタジオとかもガラガラで、録音がやりやすかった。『ここ、スケジュールがポッカリ空いてるから、録音でもできたらいいね』って、俊平(マネージャー)と言ってたら、『スタジオ、取れましたよ』『じゃあ録っちゃおう、録っちゃおう』って。アビさんは『もっと曲を煮詰めたいよ』みたいなところはあったかもしれないけど、考えてると、どんどん欲張っちゃうからね。今録れる音を録れたらそれでいいの。それくらいのスタンスでこれからはやれたらいいのだ、と思ってる。ある秋の1日、4人で空いてるスタジオ行って、パパパパッと音が録れればそれでいい。今のバンドの音が録れれば成功なんだよ。ちょうど2021年ネタの曲があるんだし。来年になったら古いよ、これ」
確かに『2021』には、武道館後から現在までの己とその周囲を描いた「充電音頭」のような曲や、タイトルからしてそのまんまな「新型コアラ」のような曲も入っている。まさに、世界の『2021』であり、はるの、ピーズの『2021』を描いた作品、ということだ。それから、今ここでやれている新生ピーズの音は、今できることだけを収めた、という意味でも『2021』であると、はるは言う。つまり、バンドとして、この先できるようになりたいこと、もっとやりたいことが明確に見えている、ということだ。
大木「今、みったんも茂木ちゃんも、音が少しずつ、ドラムとベースが歩み寄り始めてる感じのタイミングなの。まだぴったしではないんだけれど。あと、本当は他に、リフ・ロックみたいな曲もあったんだけど、リフ・ロックは……アドリブ的要素が、まだそこまでうまくいく自信はなかったから、今回それはやってない。ゆくゆくは、ばりばりリフを固めるバンドにしたいんだけど、今はまだ、弾き語りに演奏を当ててる延長な感じがする。これからベースとバスドラがもっとはっきり出てきて、バンドのメリハリがついて、ジョー・ジャクソンのファーストみたいなのができたらいいなと思うけど……まあ、大変だな。でもそれは、やっていかないとな。言ってることは、この20年ぐらい同じで。歌モノじゃなくて、コードに頼らないリフものの曲を、もっと作っていきたいの。バンドっぽい曲を。ついついメロディとかコードに溺れてしまうから。次は、もっとリフばりばりで仕上げたいから、そのためには運動部並みの、みんなで部室に何時間もこもって、厳しい練習をしなくちゃたどり着けないような気がするんだよね。今は、それはちょっとお預け状態、密になってしまうのでね」
「やる気なくなる前に音を残しておこうと思って」
1989年11月に、『グレイテスト・ヒッツVol.1/Vol.2』の2枚のファースト・アルバムを同時に発売する、という型破りなデビューを選んだ理由を問われて、はるはそう答えた。そんな、いつ終わってもおかしくない始まり方をしたTheピーズは、しかし、度重なるドラマーの交代、メジャーの方程式に従おうとしないバンド運営を貫くことによる軋轢、その末のレーベル移籍など、さまざまな終わりそうな事態に直面しながらも、しぶとく歩み続けた。1996年にはアビさんが脱退するが、はるはそれでも、ギターに小五郎を加入させてバンドを続ける。
〈何かまたつくろう 場所は残ったぜ 君と最悪の人生を消したい〉
そう唄う「実験4号」は、アビさん脱退後の最初のアルバム『リハビリ中断』に収められた曲である。その翌年の1997年には、活動休止。はるは、調理師免許を取得し、ミュージシャンを廃業するという人生の方向転換を図ったが、4年半後にはアビさん、シンちゃんと共に、バンドを再始動させる。
「どうせパッとしないんだよ、調理場にいてもバンドやってても。どうせパッとしないんなら、自分で仕切って自分で終わらせるほうがいいな、と思ってさ」
2002年、再始動のインタビューで、はるはそう言った。そして、〈死にたい朝 まだ目覚ましかけて 明日まで生きている〉と唄う「生きのばし」で始まり、〈10年前も10年先も 同じ真青な空を行くよ〉と唄う「グライダー」で終わるアルバム『Theピーズ』をリリースした。この時に、はるの覚悟が決まったのではないか、と思う。ただしそれを、音楽を続けていく覚悟が決まった、と受け取るのはちょっと違う。継続を目的にする覚悟ではなく、「自分で終わらせる」ことができる日までやる。やりたいことがある間は、目指している音楽があるうちは、それを捨てないという覚悟だ。その「終わり」を見たいから、それまではやめない。その覚悟、と言い換えてもいい。いや、覚悟ですらないのかもしれない。それまではやめられない、そんな自分を受け入れた、ということなのではないか、という気もする。そしてやっぱり戻ってきたアビさんも、きっとそうなのだろう。さらに言うと、初めて聴いてから32年経つ今も、自分がピーズから離れられないのは、そこに惹かれ続けているからなのだろう。活動休止前も再始動後も、二度目の休止をクリアした現在も、一貫して「終わりが来ること」と「それまでは終われないこと」を、ロックンロールで描き続けてきたのが、ピーズなのだ。
もう現役の音楽ファンでなくなった人でも、「10代の頃聴いてたなあ」と、当時の自分と共に、懐かしくピーズを思い出す人は少ないのではないか。昔の曲も最近の曲も、現在の自分を写し出す鏡のように響くのではないか。だから、「懐かしいなあ」では片付けられなくて、今のピーズを見届けなくてはいられなくなったのではないか。平日の開催にもかかわらず、日本各地から集まった大人たちでソールドアウトになった日本武道館で、そう感じたのを思い出す。その人たちに伝えたい、〈The〉は落っこちたけど、ピーズはまた生きのばしましたよ、と。低いままいつでも降りる場所を探していたグライダーは、ガンでもコロナでも落ちませんでしたよ、まだ飛び続けていますよ、と。
文=兵庫慎司
写真=新保勇樹
MINI ALBUM『2021』
2021.11 RELEASE
※ライヴ会場、通販限定販売
01 サバーイ
02 さらばボディ
03 充電音頭
04 ベロチュー
05 新型コアラ
ピーズ 35周年記念ワンマンライヴ〈35周年豊洲PIT〉
2022年6月8日(水)東京都 チームスマイル・豊洲PIT
チケット料金:前売 ¥5000(税込/ドリンク代別)
開場18:00 開演19:00
チケット発売:先行オフィシャルサイト「たまロカ先行」1/26(水)19:00~2/6(日)23:59
一般発売 4/24
【たまロカ先行】
イープラス受付期間:1/26(水)19:00~2/6(日)23:59
受付URL:https://eplus.jp/pees-ohp/
結果確認日・入金受付期間:2/8(火)13:00~2/10(木)21:00
枚数制限:お1人様2枚まで
発券開始:6/5(日)~
※必ず注意事項に同意の上、お申込みください。
※受付には、チケット販売会社イープラスのプレオーダーシステム(抽選制)を利用いたします。
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