【LIVE REPORT】
BIGMAMA〈We Don’t Need a Time Machine 2020〉
2020.08.21(無観客有料配信ライヴ)
アーカイヴの映像を見終えたあと、タイトルの意味をもう一度思い返した。We Don’t Need a Time Machine――タイムマシンなんていらない。あの時ああすればよかった。こうすればよかった。生きていればそういった後悔や、やり直したい出来事のひとつやふたつ必ずある。でも、どんな選択をしたって、たどり着くのは今という時間。ステージで音を奏でる4人からは、今のBIGMAMAに対する自信と希望にあふれていた。
ドラマーの脱退後、BIGMAMAの新体制初となるワンマンライヴ〈We Don't Need a Time Machine 2020〉は、バンドの新しいスタートをファンとともに迎えるべく、当初は有観客による公演が予定されていたが、コロナウイルス感染の状況を考慮し、無観客による配信ライヴで開催された。
画面に映るデジタル時計が19時を表示すると、大小さまざまな時計が置かれたステージにメンバーとサポートドラムのBucket Banquet Bisが登場。ライヴタイトルにも関係している「I Don't Need a Time Machine」の冒頭を金井が唄い出す。するとデジタル時計の映像が映し出され、日付がぐんぐん過去にさかのぼり、5人体制になって初めて作ったアルバム『Love and Leave』のリリース日へ。
〈We Don't Need a Time Machine〉とは、過去にリリースしてきた楽曲を中心に演奏されるライヴで冠せられてきたタイトルで、この日も同じように、さまざまな時間を巡りながら、過去のアルバムごとに約3曲ずつ、ライヴ定番の曲から懐かしい曲まで披露していった。1st、7th、4th――作品が切り替わるごとに、その時代のバンドのモードがわかるのが面白い。メロコア色の強い時期、バンドを強く意識した時期、日本語とメロディを大切にした時期……ふと以前のインタビューで金井が言った「大風呂敷を広げちゃったところがある」という言葉を思い出す。
しかし、こうしてあらためて並べて聴いた時に、バンドの芯がブレているような印象を一切受けないのは、ロックバンドにヴァイオリンという、BIGMAMAにしかないオリジナリティのほうが強く前に出てくるからだろう。さらに、過去を振り返るようなセットリストの場合、あの時代はああだったな、こうだったなと懐古的になってしまいがちだが、この日のライヴにそういった感情や感傷は少なく感じた。それはこのライヴが、あくまで〈今〉、そして〈未来〉へ向かうために用意されたものだから。バンドで音を鳴らせる喜びが、ここから始まる未来への期待が、躍動的なバンドサウンドとなって画面からこぼれてくる。
ひとしきり時間旅行を堪能し、時間は再び今日の日付に。今年の母の日に発表された「セントライト」、そして新曲「The Naked King」が披露される。どちらも広げた風呂敷をギュッと絞って中身を凝縮したようなシンプルでタフなバンドサウンド。そのうえで、〈最高の未来で会いましょう〉(「セントライト」)と約束し、〈ほらすぐ次の物語へ〉(「The Naked King」)と新しい章の始まりを告げる。タイムマシンはいらない。ここから未来が、次の物語が始まっていくのだから。最後に唄われた「I Don't Need a Time Machine」のあと、満面の笑みでステージを去っていく金井の表情が、その確信を物語っていた。
そして驚いたのは2日後に公開されたアーカイヴ映像だ。始まりと終わり以外の曲順が入れ替わり、あいだにはリハーサルの映像も差し込まれていた。当日は1st→7th→4th→3rd→1stミニ→6thという時間旅行が、1st→6th→3rd→7th→リハ映像→4th→1stミニ、と旅路を変更。終演後のアフタートークで「アーカイヴで真価を発揮する」と金井が言っていたが、こういうことだったとは。おまけのリハ映像で、本編に組み込めなかった残り3枚のアルバムから1曲ずつセレクトしているのも、金井なりのすべてのアルバムに対する深い愛情を感じた。
何より思ったのは、どんなふうに過去を入れ替えたって、違う道をたどったって、行き着く先はやはり〈今〉ということだ。たとえ過去をやり直せたとしても、同じ今にたどり着く選択を彼らはするだろうし、そこに迷いも不安もない。それくらい、4人は楽しそうに演奏をしていたし、Bucket Banquet Bisの丁寧で安定したドラムもしっかりメンバーたちを支えていた。寂しさや切なさではなく、どうやって楽しい未来を描いていこうか。そんなふうに金井がニヤニヤとしながら次の展開を企む様子が容易に浮かぶライヴだった。ああすれば、こうすれば、といくら考えたって答えは同じ。歩んできた過去のうえに現在があり、未来はいつでもここから始まっていく。タイムマシンはやっぱり必要ない。だって、今のBIGMAMAはいちばん希望にあふれているのだから。
彼らの次の舞台は、所属するUK.PROJECTが主催する〈UKFC on the Road〉ならぬ、無観客生配信ライヴ〈UKFC in the Air〉。数々の名場面が生まれてきた〈UKFC〉で、今の4人はどんなライヴを展開するのか。そちらも楽しみにしたい。
文=竹内陽香
写真=高田梓
We Don’t Need a Time Machine 2020
2020年8月30日(日) 23:59までアーカイヴ配信中
詳細はこちら
UKFC in the Air(無観客有料生配信ライヴ)
開催日時:2020年8月28日(金)
時間:開場 14:00 / 開演 14:30 / 終演 22:00頃予定
出演者:
【FRONTIER STAGE】[Alexandros] / BIGMAMA / POLYSICS / the telephones / TOTALFAT
【FUTURE STAGE】EASTOKLAB / postman / the shes gone / ウソツキ / TOTALFAT・Shun、BIGMAMA・金井政人&東出真緒によるコラボ
【UKFC TALK!!】MC:芦沢ムネト
Streaming+:eplus.jp/ukfc-st/
LINE LIVE-VIEWING:viewing.live.line.me/live/38
UKFC in the Air オフィシャルサイト http://ukfc2020.ukproject.com/