結成10年目にあたる昨年4月に行われたワンマンライヴをもってメンバー2名が脱退するも、その3ヵ月後には元LILI LIMITの志水美日(キーボート&コーラス)をメンバーに迎え、新体制で動き出したpolly。ここ数年、サウンド面でのアップデートを重ねながら、バンドの再構築をはかってきた彼らの礎となるサードアルバム『Pray Pray Pray』を昨年2月に完成させた直後の脱退劇に、正直バンドの未来を危惧したが、越雲龍馬(ヴォーカル&ギター)と高岩栄紀(ドラム)は前に進むことを諦めなかった。
新体制初となる5曲入りEP「Heavenly Heavenly」。志水の鍵盤が加わったことにより、ふくよかになった甘美で幻想的なサウンドと、〈別れ〉に向き合った歌からは、バンドの決意と覚悟にも似た思いも伝わってくる。変化のあったバンドの状況や、この新作について、越雲にじっくりと話を聞いた。出会った頃、とかく周りに噛みつき、ふてくされる一方で、わかってほしいと心の中で懇願していた彼は、もうここにはいない。バンド人生の岐路に立ち、30代となった越雲龍馬の正直で切実な思いとは。
「最近、『polly聴いてました』って言われたりすることも多くなってきて……そう言われる年齢になっちゃったか……みたいな」
今年でいくつになりました?
「30になりました」
越雲くんが三十路かぁ。29から30になるタイミングで何か思うこととかありましたか?
「ちょうど29の時にメンバーが抜けたんで。バンドを続けるのかどうか、この生活を続けていていいのかとかも考えましたよね。あと、音楽だけで、しっかり生活できない自分にちょっとだけ恥ずかしさというか、悔しさというか、そういう気持ちもあったし。ほんといろいろ考えました」
バンドと生活の在り方を。
「はい。ちょうどその頃、『コントが始まる』っていう菅田将暉さんが主演のドラマがやってて。10年やって売れなかったら辞めると決めた芸人トリオが、10年目を迎えて人生をどうするかっていう話なんですけど、ちょうどpollyも結成10年目だったし、めちゃくちゃリンクしちゃって。もう〈すげーわかる!〉って感じで、毎話ボロ泣きしてました(苦笑)」
私は、そのドラマを観てないのだけど、そのトリオはどんな決断をしたの?
「いろいろあるんですけど、結局トリオ解散という感じで」
なるほど。でも越雲くんは、バンドを解散することはせず、続けることを選択して。
「まあ、そうですね。ここで音楽を辞めたら後悔することは100%理解してたので。でも何人かからは、1回バンドを畳んだほうが周りも新鮮がるだろうし、いいんじゃないの?みたいなことを言われたりもして」
ソロでやったほうが可能性あるんじゃないか、と。
「そこで一応考えてもみたんですけど……でも、悔しいじゃないですか。彼らが辞めるからバンド畳むのなんて。だから、辞める口実もたくさんあったけど、続けていくための要因もたくさんあって。やっぱり、このバンドでやれることはまだたくさんあると感じてはいたし、前作が最後のアルバムになるのは、ちょっとモヤっとするなって思ったし」
そうだね。去年1月に前作のインタビューをした時、ここ数年の音楽的変化と追求が形になって、これからのpollyの礎になる作品がようやくできて、「再デビューするぐらいの気持ちだ」と言ってたもんね。
「そうなんですよ。だから、ここでバンドを辞めるのは嫌だなっていうのはありました」
新体制への動きも早かったですよね。
「そうですね。前のメンバーたちから辞めたいって話をされて、高岩に『どうする?』って2人きりの時に聞いたんです。そしたら、『俺は続けます。まだやれることもたくさんあるし、もうちょっと広がると思ってる』って言ってくれて。やっぱりなんだろな……僕自身、高岩が残ってくれたことが大きくて。そこで僕が変に腐って、次にいくまでに時間がかかったら、誰もいい思いをしないじゃないですか」
高岩くんに、「まだpollyというバンドに可能性を感じてる、自分にはまだやれることがある」と言われたことは、越雲くんの中で大きかったんだ。
「大きかったですね。普段そういうことをあんまり言わないやつなんで、むしろ本心なんだろうなって思ったし、次に向かっていく僕自身のモチベーションにもなりましたよね」
そして、前作の1曲目にコーラスで参加した志水さんが新メンバーとして加わったわけですが、彼女とは、LILI LIMITの時に対バンして以来の付き合いになるんでしたっけ?
「そうですね。でもとりわけ仲が良かったわけではなくて。コロナ禍の自粛期間に、もうひとつのプロジェクトが欲しいと思ったんですよ。その時に、SNSを通して彼女と一緒に何かやろうっていう話になって。そこから頻繁に連絡をとり始めて」
もともとpollyとは別に、一緒に音楽を作ろうという話を志水さんとしてたんだ。
「はい。その別プロジェクト用の曲も作り始めてはいたんです。で、メンバーが辞めるって決まった時に、pollyにライヴイベントのオファーがあって。それが5月だったんですよね。4月に前の体制でのラストライヴだったんで、そこから時間もないし、バンド編成では無理なので、高岩と一緒にアコースティックでやろうと思ったんです。でもそこに鍵盤があったほうが、歌をより聴かせられるなって思って、志水さんに声をかけたんですね」
とりあえず5月のイベントライヴを手伝ってもらえませんか?と。
「それで、スタジオに何度か入った中でのやりとりとかすごく良かったんです。とくに高岩は、人見知りの極みのような人間なんですけど(笑)、彼が早い段階から志水さんといい感じでコミュニケーションとれているのを見た時に、〈あ、この人とだったら、ポジティヴな活動ができるんじゃないか〉と思って。それで、5月のライヴの打ち上げで、『pollyに入りませんか?』って誘ったら、即答でOKもらって」
すんなり決まったわけだ。
「ただ、あまりにもすんなり決まってしまったんで、最初『入ります』って言われた時は、〈嘘かな?〉って思ったんですけど(笑)」
その場のノリで言っただけなのかな?と。
「そう。だから次の日電話して、『昨日言ったこと、本当ですか?』って聞きました」
もう一度確認したんだ(笑)。
「はい(笑)。でもほんと、トントン拍子で新しい体制が整った感じではあったので、運がいいなと思いましたし……あとは、僕の人間力かなって(笑)」
自分で言うか!
「あははははは! まあ、今のは冗談だとしても、ほんと運のいいバンドだなっていうのは思いましたね。いろんな巡り合わせで、力を貸してくれてる人がいて。それこそカミヤマくん(カミヤマリョウタツ/元PELICAN FANCLUBベース)にサポートをお願いしたいんだよねって連絡した時も、『実は、俺バンド辞めるんだよね』って言われて、っていう感じで」
ああ、彼がPELICAN FANCLUBを辞めるって話を知らずに、声をかけたわけだ。
「そうなんです。ベーシストで一番近い存在が彼だったので。だから、こんなタイミングってあるんだって思って、びっくりしました」