昨年メジャーデビューを果たしたシャイトープのニューシングル「It's myself」は、アニメ『WIND BREAKER Season 2』のエンディングテーマへの書き下ろし。街のために闘う不良たちを描いた原作を彷彿とさせるアグレッシヴさがあり、佐々木想(ヴォーカル&ギター)の雄々しい歌声もあいまって思わず拳を握りしめたくなる1曲だ。そして、迷いや恐怖を抱えながらも自分自身を鼓舞して大切なものを守り抜こうとする歌詞は、作中のキャラクターに寄り添いながらも、バンドや佐々木の音楽に対する熱い思いが詰め込まれている。中学で音楽の魔法に魅せられた佐々木は、どんな音楽人生を過ごしてきたのか。そこを掘り下げた今回のインタビュー。まっすぐに進んでこられたわけじゃない彼だからこそ、誰かを奮い立たせる歌が唄えるのだ。
(これは音楽と人2025年6月号に掲載した記事です)
新曲、とてもいいですね。大切なものを守り抜く力強さや聴いた人を奮い立たせるエネルギーを感じました。
「アニメの原作がヤンキー漫画なので、その雰囲気を汲み取って作りたいなっていうのが一番にありましたね。歌詞でも〈拳〉っていうワードを使ってみたり、曲の冒頭はまだ曇ってるような雰囲気で、そこからどんどん開けていくようなアレンジは、アニメのストーリーとのリンクを意識したり」
『WIND BREAKER』のことは知っていました?
「タイアップが決まってから知ったんですけど、そこから漫画を全巻読ませていただいて、すごく好きになりました。犬猿の仲だった人が一緒に闘っていくうちに背中を預けられるようになったりするのが胸アツで。あんまりヤンキーものって通ってこなかったんですけど、殴り合って友情を深めるみたいなのが実は好きなんだなって気づかせてもらいました」
キャラクターの中で共感できる人はいました?
「みんな好きですけど、やっぱ主人公の桜ですかね。バンドのヴォーカルの佐々木想として考えると、どうしても桜なのかなって。主人公だって自分で言うのもおこがましいですが(笑)」
いえいえ、フロントマンですから。
「そうなんですよね(笑)。フロントマンなんだし主人公らしくあるべきだとも思いますし、桜が抱えている葛藤や孤独は自分でもわかるというか。きっと何か近しいものを持っているんだろうなって思いましたね」
桜は対人関係にコンプレックスがあって、それが彼の孤独感に繋がっているわけですが、佐々木くんにもそういう部分があるということですか。
「桜の来るものを拒む感じもわかるんですけど、僕はきっとまた違うところで自分の孤独と重ね合わせているところがあって。なんていうか……たまに、〈わかってくれる人はいないんだろうな〉〈自分のことなんて誰もわかんないだろ〉ってネガティヴになる時があるんです。そういう時はどうしても独りだと思っちゃうし」
それは昔からある感覚ですか? それとも音楽活動を始めてから感じたものですか?
「どうなんだろう……? きっと昔からあったんでしょうけど、やっぱりバンドを始めてからのほうが感じる機会は増えたかもしれないです。人前に出る仕事でもあるし、メジャーデビューもしてつねにいいものを作ってヒットを出して、みたいなことを考えたりする状況になって、そう思うことが増えたっていうのが正しいかなと思います」
クリエイティヴにおいて孤独感はありますよね。
「そうですね。けど、そういうものだよなって割り切ってます。僕と同じように何かを作って人前に立ってる人は、同じような痛みや苦しみを味わいながらやってると思うし。みんなもそうなんじゃないかな?って考えることで、気持ちを落ち着かせてます。そうすると、〈よし、また頑張ろう〉ってなれるんです」
「It's myself」でも、迷いや恐怖があっても自分を奮い立たせて立ち向かう姿が描かれていて。まさに今話してくれた姿勢そのままですね。
「そうですね。1番ではキャラクターの思いに寄り添ってますけど、2番からは僕のこと、僕らのことを唄ってるつもりです」
2番の〈僅か四小節の魔法で/どこか遠くに行ける〉という部分は、佐々木くんが音楽に出会った時の感覚ですか?
「原点みたいなところはありますね。最初の頃って、ギターを四小節掻き鳴らしたり、バンドで四小節合わせたり、それだけでどこにでも行けるような気がしてたよなって。だけど、続けていく中でいろいろ考えすぎてわからなくなる時もあったり。でもいろいろ持ちすぎてもしょうがないし、初心に返ってみようって考えながらその部分を書いてました」
初めて〈四小節の魔法〉を感じたのはいつでした?
「僕、最初は歌を唄ってなくて中学の時にアコギを始めたんですけど、コードが弾けるようになってコードチェンジをする瞬間に、〈ウワッ!〉てなりましたね。あとはやっぱりバンドで音を鳴らした時。高校の頃にコピーバンドを始めたんですけど、スタジオに入ってギターとベースとドラムと歌がバチッと合った瞬間の感覚が、もうすべてというか。〈これ、いけんじゃね?〉みたいな気持ちになったんですよ(笑)」
無敵感みたいな。前回のインタビューで、中学の頃にブルーハーツを聴いてロックにハマったと言ってましたけど、それがバンドをやりたいと思ったきっかけだったんですか?
「ブルーハーツが一番デカかったですね。親のパソコンのiTunesに入ってて、それを勝手に聴いて〈スゲェ!〉ってなって。曲もそうだけど、メンバーの雰囲気もすごい好きなんですよね。ヒロトさんとマーシーさんが、ただふざけて喋ってるだけの動画がYouTubeに何個か上がってたんですけど、それを見漁って夜更かししてました」
曲だけじゃなくて、2人の佇まいにも惹かれたと。
「あの自由な感じが、なんかいいなって思ったんですよね。この人たちの考え方や行動をマネしたら何か見えてくるんじゃないかっていう、希望に近いものを感じて。ブルーハーツを好きになってからエレキを弾き始めたんですけど、それからは、このまま高校行かずに東京行ってバンドやろうとか、そういう未来を考えるようになりましたね。音楽で食べていきたいって」
2人の自由さに惹かれたということは、自分の中で不自由を感じる何かがあった?
「うーん……おそらくですけど、中学の時に一番の反抗期を迎えたんですよ。といっても、『うるせぇ』とか『クソババァ』とかは言えないんで、何かヤイヤイ言われたら、ちょっと無視するとか(笑)、自分の部屋にちっちゃいアンプがあったんで、そのアンプをフルテンにしてわざとめっちゃデカい音で弾いたりするくらいだったんですけど」
中学生くらいって、ああしろこうしろって言われることが鬱陶しい時期ですよね。
「そうなんですよ。〈わかってる。でもうるさい!〉みたいな。そもそも家族仲があんまりよくなかったんですよね。だから、そういう中でモヤモヤしてるところもあったのかなって思います」