極道一家のお嬢と過保護な番犬若頭が織りなす溺愛ロマンティックコメディー映画『お嬢と番犬くん』。幼い頃に両親を亡くし瀬名垣組組長である祖父に育てられた一咲(福本莉子)は、“フツーの青春と恋”をすることを心に決め、身分を隠して高校に入学。ところが一咲のお世話係である若頭・啓弥(ジェシー)が年齢を詐称して同じ高校に裏口入学し、一咲のボディーガードをすると言い出して……⁉ 主演を務める福本莉子さん×ジェシーくんの魅力や撮影秘話を、小林啓一監督に教えてもらいました。
(これはQLAP!2025年3月号に掲載された記事です)
本作は、人気少女漫画が原作の “極道×青春”ラブコメディー。まずは、監督が感じた原作の魅力やこの作品を映画化する上で大切にしたことを教えていただけますか?
僕はこれまで少女漫画原作の作品を手掛けたことがなかったのですが、極道と女子高生の青春ラブコメディーという設定におもしろさを感じました。少女漫画というとキラキラしたイメージが先行しがちですが、原作はわりとダークな部分もあり、すごく読み応えがあって。
お嬢と番犬くん、つまり主人公の一咲と啓弥は、実はちょっとつかみづらい2人。一咲は“啓弥に恋をし続けてはいけない”と恋心をずっと否定し、その状態から脱却しようとしつつも言い訳を作って彼と一緒にいる複雑な女の子。一方、啓弥は動物的な感覚に突き動かされている人で、 何を考えているのかいまいち分からない(笑)。そんな2人の感情の動きを途切れさせることなく追うことで、一咲の成長譚になればいいなとも思っていました。原作の世界観を大事にしながら、自分の気持ちを自覚し、殻を破って一歩前に進むことの大切さをしっかりと描きたかったのです。
周りの目を気にして、好きなものを「好き」と言うことが難しくなってきているのが今の世の中ですよね。SNS上では可能でも、面と向かって言うとなるとなかなか難しい。なので、周りを気にして突き進むことを躊躇している人がいるとしたら、一咲と啓弥の物語からぜひ勇気をもらってほしいです。
-1024x682.jpg)
極道一家の孫娘・一咲役の福本莉子さん、一咲を守る過保護な若頭・啓弥役のジェシーくん。お二人の役者としての魅力はどんなところでしょう?
清純なイメージの強い福本さんは、一咲の持つ透明感を表現していただくのにぴったりの存在でした。ご本人は大阪の女の子という感じで、すごくユーモアのある方。どうすれば笑いをもたらせるのかをよく考えながら、コメディエンヌぶりを発揮してくれましたね。
一方、啓弥は圧倒的なビジュアルと危険な大人の香りが必要な役ですが、ジェシーくんの主演舞台『ビートルジュース』を見たときに「これだ!」と確信しました。流れるようなセリフ回しや体のキレが素晴らしい上に、たった1秒でテンションが変わったり、表情ががらりと変わったりと、役者としての本質が十分に発揮されていたんです。そんなジェシーくんに、僕は現代版の高倉 健さんになってほしくて。映画『昭和残侠伝 死んで貰います』などを例に挙げながら、 啓弥のしぐさ、立ち姿を考えたり、声色にちょっと哀愁がにじむようにしてもらいました。
福本さんとジェシーくんの組み合わせはどうなるかなとも思いましたが、そのちょっとした違和感のおもしろさを追求したい思いもあって。空気感の良さが徐々に出てきて、結果的にとてもほほ笑ましく、応援したい一咲と啓弥の空気感を作ってくれたと思っています。
-1024x682.jpg)
-1024x682.jpg)
一咲と啓弥の恋を描く上で、特にこだわったシーンとは? また、注目の胸キュンシーンも教えてください。
この映画はとにかく、何を考えているのか分からないけど、暴力的なまでにカッコいい啓弥に、一咲が気持ちを揺さぶられる瞬間の連続なんです。手を痛めた一咲を啓弥がお姫様だっこで保健室に運び、ケガの手当てをする中、一咲の膝に啓弥がアゴをのせるシーンは、宗教画のように美しく見せたい意図がありました。光の入り方も相まって、思わずドキッとするステキな絵になっています。
また、一咲をカラオケ店から連れ戻した啓弥が、乗り込んだ車中でサングラスをサッと外すシーンもそう。あんなにも真剣なまなざしをされたら、キュンとせざるを得ないでしょう(笑)。福本さんも「啓弥にキュンとする一咲の気持ちがよく分かりました」と言っていましたし、そこから演技がぐんとよくなりましたね。
一咲と啓弥の動物園デートのシーンは、シチュエーションだけを指定し、アドリブで喋っている姿をドキュメンタリー風に撮っていきました。2人とも役から離れることなく、動物園を自然に楽しんでいてさすがでしたし、ナチュラルな空気が映像に表れています。
-1024x682.jpg)
-1024x682.jpg)
普段は陽気な性格のジェシーくんですが、今回演じたのはクールな極道の若頭。演じてもらう上で意識してもらったことは? お芝居の印象も伺いたいです。
啓弥は有能な若頭ですが、極道の世界のことは二の次。一番に考えているのは一咲のことで、それが恋愛だとすら気付かず無自覚に彼女を大事にしています。目を見ていただくと分かるのですが、一咲といるときの啓弥の目元は柔らかいんですよね。でも、若頭としての佇まいはシリアスな目つきで人を寄せつけない。ジェシーくんにはそういった空気感の変化を意識してもらいましたが、いわゆる“ジェシー味”を封印し、繊細に演じ分けてくれていました。新たなジェシーくんの表情や魅力を楽しんでいただけると思います。本人は「ふざけたい〜!」と言っていましたけど(笑)、その溜まったエネルギーをうまく芝居に向けてくれましたね。
アクションもとても素晴らしかったです。勘が良くて覚えも早く、いろいろできてしまうからアクション監督の要求もどんどん高くなっていって。リアリティーがありながらも、カッコ良くてケレン味のあるシーンになったのはジェシーくんのおかげです。
-1024x682.jpg)
瀬名垣組の兄弟分にあたる田貫組組長の孫・幹男を演じるのは櫻井海音くん。啓弥とのバチバチの対峙シーンも見どころですが、幹男というキャラクターをどう作り上げていったのでしょう?
幹男は一咲と啓弥と同じ高校に転入し、2人の関係をかき乱す人物で、啓弥の敵とも言える存在ですが、啓弥vs幹男ではなく、 一咲&啓弥vs幹男になるのがこの作品らしさ。2対1で力負けしてしまう幹男にならないよう、櫻井くんと話し合いを重ねながら役を作ってもらいました。芝居がかった態度から素になったときの饒舌さまで、幹男の危なさを見事に演じてくれましたね。
幹男は兄弟分の組長の孫ですから、啓弥は強く出られない。言葉数が少なくなるし、表情もぎこちなくなり、幹男とのシーンでは啓弥の芝居にも微妙なさじ加減が必要でしたが、櫻井くんが発してくるものをどう受けるかをジェシーくんはよく考えていましたね。「幹男の芝居のおかげで引き出された」とも言っていました。
-1024x682.jpg)
衣装や髪形、セットなど、ビジュアル面でのこだわりもあったら教えてください。
啓弥のスーツはジェシーくんの体に合わせ、オーダーメイドで作ってもらいました。肩幅が広くてウエストは細く、手脚が長いという現実離れした体型なので仕立てもかなり難しかったようです。啓弥のサングラスは僕の私物です(笑)。映画『トップガン マーヴェリック』でトム・クルーズが着用したティアドロップ型のモデルなんですが、ジェシーくんによく似合っていて、それでいこうとなりました。
啓弥のビジュアルに関してはジェシーくん自身もかなりこだわっていて、髪形なども原作の雰囲気を大切にしながら啓弥らしさを追求してくれましたね。
セットで特にこだわったのは、一咲の部屋。和風の家だけど、女の子らしさを出して一生懸命かわいくしているイメージで作り上げたので、ぜひ細かい部分まで注目してみてください。
-1-1024x683.jpg)
文=渡邉ひかる
小林啓一監督
こばやし・けいいち/1972年2月18日生まれ、千葉県出身。数多くの映画、ドラマ、MVの監督を手掛ける。近年に手掛けた映画は、『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる ! 』『恋は光』など 。
『お嬢と番犬くん』
(東宝配給/3月14日より全国ロードーショー)
出演:福本莉子、ジェシー、櫻井海音 ほか
(C)2025「お嬢と番犬くん」製作委員会