久々にイカれてるバンドに出会えたと思った。ザ・ベルセデス・メンツ。〈ハードコアJ-POP〉と自らを謳い、1月にセカンドアルバム『mutist beach』をリリースしたが、ご覧の通りマスクの怪しいヴィジュアルで(ライヴでは素顔)、検索しても、インタビューらしきものは1本くらい。SNSではメンバーの一人が、いろんな意味でギリギリな投稿で挑発。同世代のバンドマンと仲良くしている様子もなく、あーこりゃ取材なんてしたくない、ちょっと尖っためんどくさい系なバンドなんだろうな、だからどのメディアも二の足踏んでるんだな、と思ったものの、あまりに曲がいいので意を決してメールしてみたところ、ヴォーカルからめちゃくちゃ社会性のある、丁寧な返信。しかし取材によくある紙資料や歌詞もない。おまけに取材はリハ前にということで、指定されたのが朝の9時(笑)。曲とそのイメージと、目の前にいる3人の雰囲気、このギャップに完全にヤラれた。爆音でノイジーなのにキャッチーなポップさがあり、そしてどこか寂しげでセンチメンタルな歌詞。そしてこのバンド名(笑)。これを聴かない理由はない。
(これは『音楽と人』2025年3月号に掲載された記事です)
ほとんどインタビューを受けたフシがなく、写真は顔出しNG、SNSはひねくれてて、バンド名はベルセデスメンツ。面倒くさそうな人が来る匂いがプンプンしてたんですけど……いい人ですね(笑)。
田中喉笛(ベース)「見せ方を間違ってるヤツらがいるんです(笑)」
まず結成のいきさつを聞きたいんですが。
うつぎ(ドラム)「同じ大学のサークルで一緒だったんです。卒業して、僕はずっと別のバンドをやってたんですけど、SuiseiNoboAzみたいなバンドをやりたくなって、和田くん(和田一成/ヴォーカル&ギター)に声をかけたんです。もう1人ギタリストの女の子がいて、3人で集まってスタジオに入ってたんですけど、やっぱりベースが必要だな、となって。喉笛さんは先輩だったんですけど、声をかけて」
和田「最初、4人で始めたんです」
うつぎ「そのバンドはoverusedっていうんですけど、SuiseiNoboAzのセカンドアルバムから名前を取って」
和田「2年くらいそのバンドをやってたんですけど、女の子が抜けることになって。次どうするの?って喉笛くんに聞いたら、the bercedes menzって名前でやることがもう決まってた(笑)」
まず、そのバンド名にした理由って何かあるんですか?
田中「フックが必要だなと思ってて。あと、濁点がついてたほうがカッコいいじゃないですか。けっこう前から、バンド名としてストックしてたんですよ」
うつぎ「ストックだったんだ!」
他に候補は?
田中「ジ・アザズにするかどうか、迷いました」
和田「濁点だ!(笑)」
うつぎ「ザはつけたいんだ」
田中「つけたい。だって初手で濁点つくじゃん」
和田「4人でやってた頃から、ほとんど喉笛くんが曲を書くようになって。僕が歌詞を一緒に書いたり、曲を作ることもあったんですけど、彼、ポンポン出てきちゃうんですよ。それがどれもいい曲だし、対バンした相手も評価してくれるから、だんだん喉笛くんの曲を信じるようになって」
田中さんはこのバンドを組む前から曲を作ったりしてたんですか?
田中「4年くらい。でも、バンドやるのは初めてだったんです」
ライヴの時は顔出してますけど、一般に出る写真では見せない、というのもその頃からの考え?
田中「このバンド、もともとはうつぎが始めたし、彼がリーダーだったんですけど、名前をザ・ベルセデス・メンツに変えたタイミングで僕が舵を取るようになって、その方向に」
うつぎ「そういえば、意図はあったの?」
田中「そんなに売り物になる顔じゃないから」
うつぎ「なんでお前に言われなきゃいけねえんだよ(笑)」
和田「でも、音楽以外の要素をなるべく排除したい、ってのはあったと思う」
田中「作品が中心になってほしいんで」
うつぎ「だとしたらXでつぶやき過ぎだ(笑)」
そのへんのズレが面白いですね(笑)。
和田「微妙に緩いんですよ(笑)」
田中「自意識は出ちゃうし」
僕も今、想像していた人物像とのズレに戸惑ってます(笑)。
和田「でもそのスタンスはカッコいいなと思いましたよ」
うつぎ「なんとなく狙ってるとこはわかるしね。こういうふうに捉えられたいんだろうな、って」
田中「で、活動を始めるんですけど、ちょうどコロナ禍で、ライヴがほとんどできなかったんですよ」
和田「だから制作メインで。……俺は作ってないけど(笑)」
田中「うちらは誇りを持って音源バンドと言いたい」
うつぎ「そこは信頼してるんですけど、音源でちょっと詰め込み過ぎて、ライヴが大変なんです(笑)」
田中さんは1人でも曲作ってますけど、バンドでやる面白さをどこかに感じるわけですね。
田中「やっぱり一番カッコいいと思うので。バンドでライヴハウスって、プリミティヴに一番デカい音を出せる場じゃないですか。そういうシンプルな快感を突き詰めるとバンドになるんじゃないかなって」
そんな人が、なぜ秘匿性の強いイメージに拘るんですかね。
田中「あんまり誤解されたくないんです。出したいものを出して、見せたいところを見せて、自分の意図をちゃんと伝えたい。でも最近は、誤解も楽しめるようになってきたかな。ベルセデスを聴いてくれてる人が、このバンドも好きなんだ、とか」
和田「プロセスに拘りはあるけどその結果は別に楽しんでもらえれば。僕らはいい曲を作って、いい演奏をする。そのレベルを上げていくだけ。シンプルなことしかやってない。それがどんどんよくなっていった、それがこのセカンドですかね」
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このジャケットは誰が描いてるんですか?
うつぎ「いつも僕が描くんですけど、毎回アルバムを作る時、ざっくりしたイメージを喉笛に聞くんですよ。その時、いろいろ提示されるんです。今回は『グラン・ヴァカンス』でした」
和田「(カバンから本を出して)これです。全部読んでないけど(笑)」
うつぎ「飛浩隆ってSF作家の方が書いた小説なんですけど、こういうアルバムをイメージしてる、って言われて。それを読んで、僕なりのイメージができたから、それを元にジャケットの絵を勝手に描きました。それは受け入れてくれるんですよ(笑)」
なんでこの本をイメージしたんですか?
田中「これは一番わかりやすい例で、他にもいろいろあるんですけど。うら寂しい感じにしたかったんです。あとSFがバンド全体のテーマみたいなところがあって。ハードSFとかスペースオペラではなく、時間が巻き戻るとか、量子力学でワープしてしまうとか、人が入れ替わってしまうとか、日常で起り得るSFみたいなもののほうがイメージに近いんですけど、そういうものにロマンを感じるんですね。不可能性に対する人間の目線みたいなものが」
バンドに根付いてるヒューマニティみたいなものは、そこから来るんでしょうね。
和田「3人で呑んでると、SFとか量子力学の話してても、俺はオタクじゃないので全然わからないけど、最後は〈やっぱり愛なんだね〉ってなるし(笑)」
田中「無数に分岐する世界の中で、出会った私を捕まえていて、みたいな世界観になるんですよね。歌詞に拘ってるつもりはないし、伝えたいこともあまりないですけど、いい物語を歌詞にしたいとは思ってます」
えげつないサウンドメイクや世界観の奥に、やたら人間味を感じるのがわかるような気がしてきました。
田中「腑に落ちていただけたようで(笑)」
でもこれを唄いこなすの、大変ですよね。
田中「大変でしょうね」
うつぎ「他人事か(笑)」
和田「4年一緒にやってきて、やっと唄いこなせるようになってきた感じなんで。大変は大変ですけど、やってて楽しいです。メロディとかコードはあるし。とはいえ聴いたことない楽曲が出てくるんで、参考になるものがあまりない。やりながら、彼の曲に対する唄い方みたいなのが、ちょっとずつできてきた感じですね」
田中「そこは信頼してるんで」
和田「さっきのジャケットの話と一緒で、唄い方もほとんど指示がないんですよ。強気に唄えとか、攻撃的に暴力的にとか、それくらい」
田中「オーダーは、和田が唄いやすいように、の1点です」
和田「お前の歌だってよく言われるんで、俺が作ったみたいな顔で唄ってますね(笑)」
なんか、田中さんがコンポーザーとして細かくコントロールしてるのかと思ったら、全然違うんですね。
田中「もちろん自分なりに作り込んできますけど、あとはどう変えようが、2人の色にすればいいと思います」
和田「だって僕、SFまったく通ってないし、深い話はよくわかんないし、そもそも歌詞の漢字も読めない時がある(笑)」
わはははははは。
和田「考えるの苦手なんで。同じ大学でこんなにも違うか、って思いますけど、ノリと勢いです。でもよくなってる気がするんですよね」
なんで俺たちは見つからないんだとか売れたいとか、Xで暴れてらっしゃいますけど、どうなりたいですか?
田中「バンドとしては、やっぱ続けていきたいですよ。死ぬまでずっと。だから売れないと続けられないじゃないですか」
なんでそんなにバンド続けたいんですか?
田中「バンド楽しいからです。この2人とやってると、自分のやりたいことが100%出せるんですよ」
うつぎ「初めて聞いた、そんなこと(笑)」
和田「でも行くとこまで行きたいですよ。武道館とか、あとコーチェラ出たい」
田中「だからいろいろ考えます。でも今回、ベルセデスはこれが核にあるって言えるものを出したかった」
これがまた変わっていく可能性もあるんですか。
うつぎ「あります」
和田「でもJ-POPという核だけは死守します。ハードコアJ-POP」
田中「そう、J-POPなんですよ。ハードコアって言葉は便宜上使ってますけど、うるさくて大きな音でバンドでJ-POPをやるってこと。そこだけは変わらないと思う」
でもJ-POPなんだから、この目の前のキャラクターをもっと出して下さい。SNSの運用の仕方、間違ってる(笑)。
うつぎ「それは狙い通りではないんだ」
田中「そこは違ってたね。もうちょっとオープンにしたい。リスナーから距離を取りたいっていうのは思ってたけど」
和田「ああ、そうね。あと、他のバンドとめっちゃ仲良くなるとか、先輩のバンドにおべっか使って迎合とかは絶対しないっていうのは、なんとなくみんなの中にある気がします」
田中「フェスに、ライヴハウスや事務所に推されて枠に入る、みたいなやり方は嫌だなって」
和田「嫌っていうかできない(笑)。でも、そこまで隔絶してやっていきたいなんて思ってないですから! 取材もウェルカムです」
『mutist beach』というタイトルはどこから?
田中「僕、地元が福岡なんですけど、姪の浜って街で育ったんですよ。10分くらい歩いたところに小戸公園って海沿いの公園があるんですけど、そこで見た海が原体験なんです。そのビーチの、誰もいない砂浜が脳裏にこびり付いてて。それが一番うら寂しいかなって。画として」
その寂しさを曲にしたかった?
田中「タイトルはその寂しさみたいなところからきてます」
自分の根っこにそういうところがあると思いますか?
田中「まあ、寂しがり屋ではありますね。だからバンドやってるんだろうし。よく言われますけど、ロマンチストだと思います。うつぎもそういうところがあるし」
和田「俺はエンタメです」
わははははは、めっちゃわかります。
和田「でも俺が唄うと、そんなに寂しい感じしないんですよね」
うつぎ「ちょっと明るく変換してくれるんですよね(笑)」
和田「ポップでキャッチ―になっちゃう。最初、これでいいのかなって思ったけど、まあもう気にせずやっちゃおう、って」
田中「和田が出した結果がベルセデスの結果なんで(笑)。でもこういう取材もほぼ初めてなんですけど、いい反応ももらえるようになって、ちょっと自信もついてきたから、どんどん外に出ていきたいなとは思ってます」
文=金光裕史
NEW ALBUM
『mutist beach』
2025.01.08 RELEASE
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