最後に取材したのが2003年11月号。ほぼ20年ぶりの登場となる松岡充(SOPHIA)。自分とは付き合いが長く、写真集の撮影でアイルランドを5人と旅したこともあった。その後、多少距離が生まれている間に、バンドは2013年活動休止。音楽活動を続けるメンバーもいれば、足を洗ったメンバーもいて、再始動は困難を極めた。しかし昨年、日本武道館で活動再開。その1年後の10月10日、デビューしたトイズファクトリーと契約し、新曲「あなたが毎日直面している 世界の憂鬱」を配信リリースした。新曲の話はもちろんだが、改めて聞きたかったのは復活の経緯とライヴのこと。この20年の様々な経験は、彼の価値観を大きく変えていた。そしてそれが、再始動の端緒になったのは間違いない。でもその印象は、初めて会った時から同じ。彼の素顔は、不器用で真っ直ぐなバンドマンだ。
(これは『音楽と人』2024年1月号に掲載された記事です)
トイズファクトリーでまた取材する日がくるとは思いませんでした。
「僕がアプローチしていたことはかなりシークレットにしてましたからね。一番驚いたのはメンバーだと思いますけど(笑)」
メンバーにも言ってなかったんだ(笑)。
「〈獅子に翼〉(註:SOPHIAが節目ごとに行ってきた大規模なライヴ)寸前まで具体的な話にたどり着いてないのに、話途中で変な期待をさせるのはね……活動休止して、10年近くファンをほったらかしていたバンドが、作品創りをするには、ここしかないと思ったんです」
今さらですが、活動休止、長かったね。
「そもそもは2年くらいの予定だったんですよ。再始動の時にもしできないメンバーがいるなら、できるメンバーだけでやることも視野に入れてた。でも、もちろんできれば5人がいいよな、って気持ちが拭えなくて。メンバー誰も決断できずにいたらコロナになって、さらに時間がかかっちゃった」
で、ようやく決断した、と。
「僕は10年待たせるわけにはいかないな、と強く思ったし、コロナもようやく落ち着いて、ちゃんとライヴをやれるようにもなってきたから、宙ぶらりんじゃなくて、せめて復活か解散か、はっきりさせる場所になればいいと思って、去年の日本武道館を僕が押さえたんです。それでメンバーに声をかけたら、全員が揃うことができたんです」
そうみたいですね。
「で、SOPHIAとして、順番に約束を果たしていこうと思って。また絶対会える、と約束した武道館をやって、次に地元の大阪城ホールでライヴをやり、活動休止前に都(都 啓一/キーボード)の病気があって中止せざるをえなかった〈獅子に翼〉も開催した。ずっと心に引っかかってたことは果たしたけど、じゃあそれが終わったら、SOPHIAをどうしていくのがいいのか、イメージが湧かなかったんですよね」
ヴィジョンが見えなかった?
「うん。もちろん約束を果たしたら、曲を創って、アルバムを形にして、今の時代にSOPHIAという存在を問いかけよう、と思ってましたよ。でもそれなら、一緒にタッグを組むパートナーが必要だな、と思ったんです。ありがたいことに、いくつかレーベルから声もかけていただいたんですけど、10年近くブランクを作ってしまったバンドが、ここからまた未来を築いていくなら、デビューしたトイズファクトリーとやることに、いちばん意味と可能性があると思ったんですよね」
で、新曲を創ってリリースした、と。
「そう。自分たちの気持ちも含めて、このモヤモヤを晴らすには、スーパーヒーローが必要だな、と思って」
スーパーヒーロー?
「僕も、SOPHIAとして活動ができないことへのモヤモヤがずっとあったけど、今の時代、みんなどこかで、誰かが現れて、このモヤモヤを変えてくれることを期待してる。たったひとりのスーパーヒーローが世界を変えることができるとは思ってないけど、モヤモヤした場所に、必ずそういう存在は現れるはずじゃないかな、って。求められているなら、その人がスーパーヒーローになればいいと思う。だから僕らは、SOPHIAを聴いて育った人のモヤモヤを晴らす役割になりたくて」
新曲でも〈神様聞こえてるんだ 弱きを助けるんだ〉と唄っていますね。
「そう。不義理をしてしまったファンへの感謝と謝罪は、この1年で精一杯やったつもりなので。ここからのバンド人生は、これから先も生きていく彼女らや彼らに対して、僕らが何か手伝えることができれば、って思っていて。その気持ちが、やけに長いタイトルの新曲に込められてます(笑)」
SOPHIAらしい曲です。でも、復活まで10年はかかりすぎじゃないかと。
「じゃあもうちょっと説明すると、まず10年前、自分の人生を考え、この先続けられないって言い出したメンバーがいて、脱退するかどうかまで話が進んでたんですよ。それもあって休止という選択をしたけど、彼はそのあと音楽から足を洗って、連絡が取れなくなっちゃったんです。5人でできないことの喪失感が、これだけ長くかかった理由のひとつですね。ジル(豊田和貴/ギター)とは一緒にバンドをやってたけど」
都とトモ(赤松芳朋/ドラム)もそうだったの?
「今話を聞くと『俺はずっとやりたかったで』って言うんです(笑)。でも当時、いくら連絡しても返事こなかったですからね。みんな、俺とやることに疲れてたんじゃないですか(笑)」
最初、そうじゃないかと思ってた(笑)。
「そんな横暴なリーダーじゃないんだけどな(笑)。これは想像ですけど、お互い守るものも増えて、自分たちの人生を考えたら、よし再始動だ!って無邪気に喜んで集結するわけにもいかなかったんじゃないかな。都はRayflowerをやっていて、他にもサポートやプロデュースで軌跡を創っている。じゃあ来年からSOPHIAやろうってなっても、いろんな意味でそう簡単には動けない。で、音楽の世界から足を洗ったメンバーもいる。そうなると、他のメンバーも躊躇する。なかなか5人でひとつになれなかったんですよね」
コロナで音楽が何もできなくなって、逆に今だからこそやりたい、と思えたのかもね。
「そうかもしれない。でも、ようやく再集結できたんだから、それでいいんですよ。だって最後は、やれるやつとだけやろうと思ってたし、誰もやらないなら、やりたい俺が武道館をひとりでやって、SOPHIAとしてのケジメをつけるつもりだったから。5人でやることがベストだったし、それが今実現できててうれしいけど、5人じゃなきゃ意味がない、とは思わなかった。それぞれの人生に意味があると思うから」
でもずっと、5人であることに誰よりもこだわってたのは確かでしょ? 毎年メンバーだけで旅行して絆深めるとかやってたじゃん。
「だって、最初に4人を集めたのは僕だから。それから1年後には全国ツアーをやって、武道館をやって、あれよあれよと15年駆け抜けて……まあ、休止直前、みんな疲れてたのは確かですよ。あのまま無理して走っていたら、もっと壊れ方がひどかったような気もするし」
そんな気もします。
「前までは全部の役割は僕がやるもんだと思い込んでた。でもひとりでケリをつけて終わるなら終わらせてもいい、と思っていたSOPHIAが、5人集まって復活してから、それは止めようと思いました。武道館と大阪城と〈獅子に翼〉は、僕が言い出した話だから、先頭に立って旗振って引っ張るけど、4人に言って進むものであれば、必ず話をしてから決めるようにしてます。もうひとりで背負うのはやめようと思って」
じゃあ、ちょっとは楽になりましたか。
「そうですね。今のベクトルは、リスナーとファンに向いているので。僕たちは、音楽の神様にもう一度チャンスをもらったバンドなんですよ。〈このメンバーで天下獲る〉みたいな野望はもうなくて。僕らを求めてくれている人たちに何を手渡せるのか。それをちゃんとやれれば、幸せになれるから」
不特定多数に広く伝えていこうとするより、SOPHIAに興味を持ってくれた人に寄り添っていきたい、と。
「そうですね」
でも、だったらもっとバンドがひとつになってる姿を見せようと思いません? こないだの〈獅子に翼〉で、ゲストとのトークに長い時間を割くより、みんな、5人で音を鳴らしてる姿を見たいんじゃない?
「いや、ただの賑やかしゲストだと思うなら、それは違う。自分を責めるしかない人生のどん底を這って、周りの慕う仲間たちが身をもって押し上げ、頭を下げながらも諦めず、地道に復活した極楽とんぼの山本(圭壱)さんが来てくれたことは、俺、すごくうれしかった。それに夢に迷いながら、現実との葛藤の中でただただ命を燃やして踊る10代の若者たちを入れたことも、SOPHIAを待ってくれてた人たちだったら本質が伝わると思うの。そこには軽いものじゃない深いメッセージがあるから。ていうかSOPHIAは、今までもずっとそういう表現をしてきたから(笑)。なんでこの人を呼んでくるの?とか、なんでこの人とコラボするの?って。その都度、今でいう炎上しながらやってきたのがSOPHIAだから。でもそれが、このSOPHIAに繋がってきたし。あと、僕たちのために何かやってあげたい、と思ってみんなきてくれてるから」
それはわかるけど、長いな、とは思った。
「うれしかったんだよね、きっと(笑)」