【LIVE REPORT】
ピーズ〈35周年豊洲PIT〉
2022.06.08 at 豊洲PIT
2022年6月8日水曜日、つまり初ライヴ記念日(6月9日)の1日前。ピーズが、東京・豊洲PITにて、ワンマンライヴ〈35周年豊洲PIT〉を行った。
30周年の2017年6月9日には、キャリア初の日本武道館で、〈Theピーズ〉としては最後のライヴを開催した。2019年6月8日には、はる(大木温之)がひとりで、上野水上音楽堂にて32周年ワンマンを行い、アンコールでアビさん(安孫子義一)が飛び入りして、バンドへの復帰を示唆した。今回は、その二回に続く、アニヴァーサリーライヴである。
最初のMCではるは、この体制 (はる/ヴォーカル&ギター、アビさん/ギター、岡田光史/ベース、茂木左/ドラム)になってからだいたい3年ぐらい経っているが、4人が揃ったところで自分が病気になってしまい、それが終わったと思ったら今度は世の中が病気になっちゃって……と、現体制のピーズが本格的に動き始めるのが遅れた理由を説明した。(そのあたりの、日本武道館から本格再始動までの流れを、4人の発言を交えて総括したテキストが、以前にこのサイトにアップされています)
「舟が出るぞーえー! こんな我々の舟だ! 35年! ドロ舟ぇー!」というはるの雄叫びから、1曲目「ドロ舟」でライヴが始まる。その「ドロ舟」と、続く「プリリヤン」の2曲が終わったところで、最初のMC。はる、「今日は35周年だから、35曲、やれるもんならやってみろ。まあ誰も数えてないだろうから、適当にやっちゃいますけど。まあ、さすがに40曲はやれないだろうから、こういう記念は、今日で最後」と宣言してから、3曲目「さらばボディ」へ。
以降、本編を「生きのばし」「焼めし」「ブラボー」の三連発で締め、アンコールで「氷屋マイド」から「グライダー」まで8曲を追加。結果、35曲どころか37 曲。弾き語りでワンコーラス唄った「ラブホ」と、そこからバンドサウンドに切り替わった「ギア」を切り離してカウントすると38曲だ。尺は、全部で2時間45分強。
もともと、ワンマンの際の曲数は多いバンドだが、以前は、日本武道館みたいな特別な時じゃないと、こんな曲数はやらなかった。なお、武道館は36曲、2007年6月9日にSHIBUYA-AXで行った20周年ライヴの時は、(ゲストが多数出演したとはいえ)31曲。あ、でも、2022年明けに行った4本のツアーのうちの東京公演(1月23日@渋谷クラブクアトロ)も、全部で38曲やっていた。じゃあ関係ないんじゃないか、35周年とか。やりたいだけ、やれるだけやると、これくらいの曲数になるってことか、今のピーズは。という気も、しないでもありません。
昨年11月にリリースした『2021』収録の「サバーイ」「さらばボディ」「充電音頭」「ベロチュー」「新型コアラ」は、全曲披露した。はるが療養に入る前に、揃ったばかりの4人で急遽レコーディングした『Summer Session 2019』収録の「フォーリン」「プリリヤン」「パーリー」「氷屋マイド」も、全曲プレイした。新曲の「ドサクサ」も合わせると、38曲中10曲が、このメンバーになり、〈Theピーズ〉から〈ピーズ〉に改称してからの曲だったわけだ。
ただ結成35周年を祝うだけのライヴなら、現体制で作った曲をすべてやる、というふうにはしなかっただろう。35周年ライヴなんだから、歴代の外せない曲も聴かせるけど、それ以上に、〈今のピーズはこうです〉ということを表したい。周年だし、いつもよりでかい会場だから久々に来た、という人にもそれを伝えたい、という気持ちが表れているように、僕には感じられた。日本武道館以来、5年ぶりにピーズのライヴに来た、という人もいただろうし。
2021年10月以降、今のピーズのライヴを観るのはこの日で6回目だが、観るたびに、岡田光史&茂木左の出す音は、〈ピーズのリズム隊〉としての精度が上がっている。茂木左は、他のバンドで叩いているところを観ると、音もアクションも含めて絶賛発狂中みたいな、暴れドラムが魅力の人だが、最初、ピーズでは、きっちり精密に叩くことを心がけているように見えた。はるのリクエストに応えるとそうなるんだろうな、と思っていたが、ここ数回のライヴでは〈きっちり精密〉と〈狂い暴れドラム〉との、素敵に矛盾する要素が、演奏に表れてきているように感じる。
はるが自分で弾いていた頃のピーズのベースは、ちょっと独特だった。説明が難しいが、なんというか、〈唄いながら弾く人〉特有のベースというのがあるのだ。世間一般にそう認識されているのかどうかは知らないが。歌とベースのタイム感がぴったり合っているのは当然としても、それだけじゃなくて、音の運びがしなやかで流麗だったり、音を置いていく位置がちょっとトリッキーだったり……やっぱり難しいな、説明。でも、同じようなものを、たとえばSPARKS GO GOの八熊慎一や、LOST IN TIMEの海北大輔が弾くベースにも、僕は感じる。
で、それが大きな魅力になっているだけに、その持ち味を引き継ぐことは、他のベーシストには難しいのではないか、と思うが、〈みったん〉こと岡田光史のベースは、その〈唄う人としてのはるのベース〉と、〈曲のボトムを支えるオーソドックスなベース〉の中間の、絶妙なポジションで鳴っているように思う。
きっとはるに鍛えられているのだろうが、もともとピーズを長年聴いてきた熱心なファンだけに、ピーズの曲のキモや、ベースラインのキモを、身体でわかっているんじゃないか、それも大きいんじゃないか、とも思う。
爆音でガーンとぶちかまして、それぞれの音がぴったり合ったらOK、というような演奏のしかたをするには、もう限界がきている。もっとヴォリュームを絞って、お互いの音をしっかり聴きながら、アンサンブルを考えてしっかり演奏する、そういう方法に変えないと、ノドや耳といったフィジカルの問題で、この先長く続けられないと思っている──というのも、日本武道館以前/以降で、はるが切り替えたいと語っていたポイントだが(先にリンクを貼ったインタビューでも、その話をしている)、この4人になってから、着実にそれを実行に移していることが、ライヴに通っているとわかる。
ギターが2本になったことも含め、それぞれの音の重なり方や、それに乗っかる歌の転がり方などが、しなやかに、グルーヴィーになっていく実感がある。それから、何よりも、そう変わったことによって、シンプルに言うと、はるが元気になった。いきいきと唄い、演奏するようになった。新しいアンサンブルの妙を楽しんでいるとか、そういう理由もあるかもしれないが、それ以上に、肉体的な負担が軽くなったことが大きいのだろうと思う。
アビさんは、中盤のMCで「いいね! まさかね、俺ここにいると思わなかったけどね。いれてよかった。幸せかもしんない」と言った。そうだった。日本武道館のステージで、「これ、夢じゃないよね? こんなに気持ちいいと思わなかったよ、1曲目からさあ!」と、笑顔全開で幸せを噛み締めていたアビさんが、内心では〈今日が最後〉と思っていたことを、あとで明かされて驚いたんだった。その時は、そんなことを感じていたなんて、全然気がつかなかったし。
それはともかく、今のアビさんは本当に楽しそうである。愛犬と共にツアーで各地に行ったり、ギターやアンプのセッティングを工夫したりしているさまを、まめにツイートで報告していること自体が、〈ああ、楽しいんだなあ〉と思わせてくれるし、ステージ上の姿を見ると、もっとそう感じる。若い頃から誰もが一目置くロック・ギタリストだったが、爆音に頼らなくなったぶん、そのキレや鋭さが、さらに増しているようにも思える。
ちなみに、音の出し方を切り替えたとはいえ、爆音でドカーンとやるライヴの楽しさも味わいたいようで、アンコールの「どっかにいこー」が終わったところで、はるは足元のエフェクトボードをいじり、「ちょっと俺、ギターの音、上げちゃった」と言った。そこからの「脳ミソ」「YEAH」「グライダー」は、4人とも爆音モードでプレイ。そういえば、1月23日の渋谷クアトロでも、ラスト2曲は爆音モードだった。
「我々には、40周年の前に還暦がある」とMCでアビさんは言っていた。そうか、あと3年か。はるも、「なかなかね、この5年間は、死ぬ死ぬ詐欺を繰り返して、まんまとここまで辿り着いたわけで。さすがに40周年とかは、欲張っておりません。もうこれぐらいにしときたいと思ってますけど。まあ、知らないうちにまた5年ぐらい平気で経っちゃうんだと思うけど」なんてことも言っていた。それにしても「死ぬ死ぬ詐欺」って。ただ、思い起こせば、食道がんなど予想だにしなかったことだったし、デビューの頃から、ピーズは「いつ終わってもおかしくないバンド」であり、はるは「いつ死んでもおかしくない人」だった。
もちろん終わってほしくないし、死んでほしくないけど、いつかその時が来るならば、最後まで追い続けて、見届けたい。そんな気持ちをその頃から持ちつつ、ピーズを追って来たが、このたびの危機を乗り越えた今、「そう見えて、めっちゃしぶとい人たち」であることがわかってきた気がする。むしろ逆に、最後を見届ける前にこっちがくたばることもあるなあ、と思った、この日。
35曲目に「脳ミソ」をやる前、はるは「ほんとにみんな、元気でいてくれてありがとね。元気じゃないのかもしんないけど、まあお互いさまでしょう」と言った。そう言われても、うつむかなくてすむよう、今後も元気でいなければ、こっちも。
文=兵庫慎司
写真=新保勇樹
【SETLIST】
01 ドロ舟
02 プリリヤン
03 さらばボディ
04 実験4号
05 初夏レゲ
06 脱線
07 充電音頭
08 3度目のキネマ
09 無力
10 キャロ
11 ハニー
12 異国の扉
13 リサイクリン
14 サバーイ
15 ドサクサ
16 フォーリン
17 サマー記念日
18 絵描き
19 ベロチュー
20 でいーね
21 サイナラ
22 使いのこし
23 底なし
24 新型コアラ
25 体にやさしいパンク
26 日が暮れても彼女と歩いてた
27 生きのばし
28 焼めし
29 ブラボー
【ENCORE】
01 氷屋マイド
02 パーリー
03 ラブホ〜ギア
04 赤羽ドリーミン(まだ目は醒めた)
05 どっかにいこー
06 脳ミソ
07 YEAH
08 グライダー
ピーズ オフィシャルサイト