【LIVE REPORT】
UNISON SQUARE GARDEN〈TOUR 2021-2022『Patrick Vegee』〉
2022.01.26 at 東京ガーデンシアター
「ルールを守った上で、声を出せなくてもマスクをしていても、こんなにめちゃくちゃ楽しいライヴができるってことを僕らは知ってるので、こんな楽しいものを手放すわけにはいかないと思ってるんです」
アンコールでそう語った斎藤宏介。窮屈な日々の終わりはまだ見えないけれど、ロックバンドとして当たり前にライヴを続ける。去年夏のリバイバルツアー〈CIDER ROAD〉でも、できるだけ普通にライヴを続けるバンドでいたいと話していたが、その変わらぬ姿勢を改めて宣言したのだった。
2020年9月にリリースされた通算8枚目となるアルバム『Patrick Vegee』を携えて、昨年10月より全国20カ所を廻った〈TOUR 2021-2022『Patrick Vegee』〉。コロナ禍の状況を鑑みつつ、約1年越しに開催することとなったアルバムツアーの最終公演が、東京ガーデンホールで行われた。
暗転した場内に響き渡るSEの「絵具(r-r ver.)」とともに、鈴木貴雄、田淵智也、斎藤の3人がステージに登場すると、彼らを出迎えるべく大きな拍手が沸き起こる。そこからひと呼吸おいて、ギターストロークとともに〈全部嫌になったなんて簡単に言うなよ〉と斎藤の声が会場いっぱいに放たれ、まさかのサビ始まりという意表をつくアレンジが施された「Simple Simple Anecdote」で、ライヴは幕を開けた。「ようこそ!」という言葉を挟み、アルバムのオープニングを飾る「Hatch I need」、「マーメイドスキャンダラス」と一気に畳み掛け、『Patrick Vegee』の世界に誘っていく。
最初のMCで、ほぼ1年越しとなるアルバムツアーとなってしまったことに触れたあと、「そのぶん何回も聴いてしっくりきてる作品になっているかと思いますが、今日はそのイメージをぶっ壊したいと思います!」と不敵な言葉を投げかける斎藤。ここからさらに新たな『Patrick Vegee』の世界を見せていくのかと思いきや、「フライデイノベルス」、「カラクリカルカレ」と久々となるナンバーを続けざまにプレイ。それこそ、ファーストアルバム収録の「カラクリカルカレ」をライヴで聴くのは一体いつぶりだろうか! そこからユニゾンの最新モードといえる、このツアー初日に配信リリースされた新曲「Nihil Pip Viper」に繋いでいく展開しかり、意表をついたオープニングしかり、こちらのイメージをいい意味で裏切り翻弄していく内容に、心が躍らされていく。
アルバムの中でもとりわけヘヴィなサウンドを持つ「摂食ビジランテ」から始まった中盤。ダークな音像が、それまでの晴れやかな雰囲気を一蹴し、真っ暗なステージに射し込む真っ赤なスポットライトが3人を照らし出す。一転して青く染まるステージ。そこからエモーショナルな演奏とともに切なさがぐっと迫りくる「夜が揺れている」が放たれ、続く「夏影テールライト」では、涼やかなサウンドに潜むセンチメンタリズムがクリアに浮かび上がっていく。そして、壮大なサウンドを鳴り響かせる「オーケストラを観にいこう」が、カタルシスを引き寄せた。
音源では、「摂食ビジランテ」のダークネスと「夏影テールライト」の爽やかさが並ぶことで、場面がグイッと切り替わるような感覚にハッとさせられたが、そこに「夜が揺れている」や「オーケストラを観にいこう」が差し込まれることによって、まるで明け方の空のようなグラデーションを描いて曲が響いてきた。それは最初の斎藤のMCじゃないが、作品のイメージが心地よく壊された瞬間であり、音源だけでは味わうことのできない音楽体験だ。思えばユニゾンのライヴには、こんなワクワクさせられる音楽体験がこれまでいくつもあった。こんな楽しいものを手放すわけにはいかない――それを改めて確認した瞬間だった。
〈魅せるドラマー〉へと進化し続ける鈴木のドラムソロから、田淵、斎藤が加わってのスリリングなセッションを経て、『Patrick Vegee』の中でもひときわアグレッシヴで変態性の高い「世界はファンシー」へ。ここから怒涛の後半戦に突入。ギターが前面に出ることで音源以上にオルタナ味がアップした「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」、さらに「天国と地獄」「シュガーソングとビターステップ」とライヴ定番曲を連続投下し、場内のテンションはMAXに。そして「どうもありがとう。楽しかったです!」と告げ、アルバムでも最後を飾る「101回目のプロローグ」を本編のラストナンバーとしてプレイした。大サビで、斎藤がマイクを外しアカペラで〈君だけでいい 君だけでいいや こんな日をわかちあえるのは〉と丁寧に唄い、このフレーズに込められたバンドの思いを、会場に集まったオーディエンス、すなわち田淵の言葉を借りれば、UNISON SQUARE GARDENが好きな〈物好き〉たちに、まっすぐに届けたのだった。
アンコールでは、メンバーを代表して斎藤がツアーファイナルを迎えての率直な気持ちを語り、そして冒頭の言葉を伝えた。そして、鈴木が鳴らすカウントからの「crazy birthday」、「オトノバ中間試験」とユニゾン流パーティーチューンを続けざまに披露。縦横無尽にステージを徘徊する田淵、上着のフードを目深に被り、変幻自在に怒涛のビートを繰り出す鈴木や、ジェットコースターのようなメロディを軽やかに乗りこなす斎藤の熱量の高い演奏に呼応するように、エネルギーを全身に漲らせながら、その場でジャンプしたり、両手を挙げビートに合わせて振ったり、それぞれのやり方で楽しんでいるオーディエンス。この空間をとことん楽しもうとする両者が共に生み出した高揚感が会場いっぱいに充満していく。最後は、もうすぐやってくる春という季節に、またコロナ禍の先にあってほしい、明るい未来への思いを馳せるかのように「春が来てぼくら」が鳴らされ、ライヴは幕を閉じたのだった。
アンコールでのMCの最後、斎藤はこうも伝えていた。
「たぶん、行くのをやめておこうとか、今日来れなかった人もたくさんいると思うけど、そういう人が安心できた時にフラッと来たライヴが、めちゃくちゃ楽しいものであったらいいなって思いも含めて、当たり前にライヴをやり続けるバンドでいたいなって思ってます」
当たり前だったことが、当たり前ではなくなって早2年。ライヴを開催するバンドにも、会場に足を運ぶオーディエンスにも、大きな労力が必要となっている状況は、今なお続いてる。しかしそれでも、ロックバンドとして当たり前にライヴを続ける。それがこの2年近く、配信を含めコンスタントにライヴやツアーを行ってきた彼らの〈通常営業〉であり、コロナ禍の前から変わらずにあるUNISON SQUARE GARDENというバンドの矜恃だ。だからこれからも、何の憂慮もなくロックバンドを楽しめるようになるまで、当たり前のようにUNISON SQUARE GARDENは、ライヴを続けていく。こんなにも楽しいと思えるものを手放さないために。
4月13日には、通算17枚目となるニューシングル「kaleido proud fiesta」をリリースする。これは彼らと縁の深い作品である、Netflixアニメ「TIGER & BUNNY 2」オープニングテーマとなっている。また4月1日より全国7カ所を廻る自主企画対バンツアー〈fun time HOLIDAY 8〉がスタート。2022年もまた、UNISON SQUARE GARDENという最高の〈遊び場〉に集えることが楽しみでならない。
文=平林道子
写真=Viola Kam (V'z Twinkle)
【SETLIST】
01 Simple Simple Anecdote
02 Hatch I need
03 マーメイドスキャンダラス
04 Invisible Sensation
05 フライデイノベルス
06 カラクリカルカレ
07 Nihil Pip Viper
08 Dizzy Trickster
09 摂食ビジランテ
10 夜が揺れている
11 夏影テールライト
12 オーケストラを観にいこう
13 Phantom Joke
14 世界はファンシー
15 スロウカーヴは打てない(that made me crazy)
16 天国と地獄
17 シュガーソングとビターステップ
18 101回目のプロローグ
ENCORE
01 crazy birthday
02 オトノバ中間試験
03 春が来てぼくら
〈UNISON SQUARE GARDEN presents「fun time HOLIDAY 8」〉
2022年4月1日(金)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール) GUEST:女王蜂
2022年4月5日(火)広島県 JMSアステールプラザ GUEST:SUPER BEAVER
2022年4月6日(水)福岡県 福岡市民会館 GUEST:sumika
2022年4月10日(日)宮城県 東京エレクトロンホール宮城 GUEST:Base Ball Bear
2022年4月12日(火)大阪府 オリックス劇場 GUEST:TK from 凛として時雨
2022年4月13日(水)愛知県 日本特殊陶業市民会館フォレストホール GUEST:マカロニえんぴつ
2022年4月23日(土)東京都 日比谷野外大音楽堂 GUEST:My Hair is Bad
UNSON SQUARE GARDEN オフィシャルサイト