一聴してとにかく驚いた。Lucie,Tooが12月8日にリリースしたファーストアルバム『Fool』は骨太なサウンドが印象的で、彼女たちのこれまでのイメージを一新するような漢気溢れる作品に仕上がっている。そして、歌詞はというとこれまで以上に赤裸々で、弱さや痛みもストレートに綴られている。尖った音とは一見相反するものに思えるが、弱い部分も臆することなく曲に昇華できたのはChisa(ヴォーカル&ギター)の強さがあってこそじゃないだろうか。
実際のところ、今作はどのようにして誕生したのか? そして、ずっと活動を共にしてきたメンバーの相次ぐ脱退を経て何を思うのか? 本人に会って話を聞いた。初めてインタビューをした時、彼女の人一倍落ち込みやすい性格を心配に思うほどだったが、久しぶりに会った彼女は、約2年の月日の中でこちらの想像以上に逞しくなっていた。それに、気弱さと反骨精神をあわせ持っているところが彼女の真の魅力だとようやく気づくこともできた。音源だけじゃない。何より、凛としたChisaの姿が〈Lucie,Tooはこれからもずっと続いていく〉という希望を感じさせてくれたのだ。
前にインタビューさせてもらったのが、ファーストEP「CHIME」をリリースした時でした(註:思春期の息苦しさを超えて今がある。Lucie,Tooに潜む光と影、新作に秘めた決意とは)。その頃の音に比べるとかなり攻めている印象で、すごくカッコいいですね。
「ありがとうございます。私たちって正直なめられやすいので、今回はとにかく音が細くならないようにとか、スカスカにならないように意識しながら作ったんです」
なめられるっていうのは?
「再生回数が多い〈LUCKY〉のMVだけを見ると、〈ああ、また女の子の可愛い感じのバンドね〉って思われやすいみたいなんです。なので、音の歪みを意識的に入れるようにしたり、声も今までは1本だったのを2本重ねたりしながら音圧を出すことで、漢気みたいなものが伝わったらと思ったんです。歌詞に関しては弱い部分も曝け出してるので、自分でも見ていてしんどいなぁって思うんですけど(笑)」
しんどい?
「今まではネガティヴなことを唄うのが恥ずかしくて……でも、今回は先行配信した〈シワの種〉っていう曲もそうなんですけど、とにかく何も気にせず思ったことを書いてみたんです」
このアルバムリリースに至るまでに、Chisaさんが自分と向き合ってきた時間や、心の機微がそのまま描かれてる感じがします。
「そうなんです。あまりにも正直に書いたので、いざ曲が出来上がったらリリースするのを悩んだくらいで。でも、周りのみんなが『もったいないよ。出したほうがいいよ』って言ってくれたことで出す決心がついたり」
「シワの種」の歌詞の〈これ以上後には引けなくなって/もつれた糸は想像以上に解けなくなってた/居心地の悪さを何かで埋めても/現実から目を背けてるだけ時間は過ぎてく〉とか〈どうして手に入らない物を/また追いかけてしまうの〉は、孤独感だったり、諦めの悪い自分に嫌気がさしている心情が伝わってきます。どんな思いで書いたんですか?
「この曲は、脱退したナホちゃん(シバハラナホ/元ドラム)のことを思って書いた曲なんです」
ああ、だから生々しさがあるのか。ちょっと話が前後しますけど、ナホさんの前にかなこさん(元ベース)が脱退されたじゃないですか。かなこさんに脱退したいって想いを告げられた時はどんな気持ちでしたか?
「かなこに関しては、結成当初にも『(Lucie,Tooを)辞めたい』って言われたことがあったんですよ。その時は私も周りも止めたんですけど、2回目はもう止めようとしなかったんですよね。それは、〈私にはナホちゃんがいるから〉って気持ちがあったからだと思うんですけど。もちろん落ち込みもしたけど、それよりどうやってお客さんが納得いく形で発表しようとか、そういうことを考えてました」
じゃあ、比較的すぐに前を向いて進めたんですね。
「うん、そうですね」
でも、ナホさんも脱退することになったわけで。その時はどういう気持ちでしたか?
「もう言葉が出ないというか……。ナホちゃんから脱退の申し出があった時って、ベースのヒカリが加入したてで、私は私でフルアルバムをリリースしたいって気持ちが強くて余裕がなかったんです」
どうしてフルアルバムを早くリリースしたかったんですか?
「うーん、ヒカリはヒカリで新メンバーとして緊張感とかあったし、バンド全体で活動を楽しめてない感じがしてたんです。でも、私が早く曲を作ってアルバムとして完成できれば、自ずとみんなが前向きになれるんじゃないかと思って……でも、結局それって周りが見えてなかったんですよ。アルバムを出すことに躍起になっていたのは私だけだったし」
ナホさんとヒカリさんにとっては、アルバムを出すこととは違う目標があったんですか?
「ナホちゃんはバンド以外でやりたいことを見つけてたんです。彼女はもともと自分のことを積極的に話すタイプじゃないし、私がアルバムを作りたがっていることも知ってたから、あえて黙っていた部分もあって」
お互いの優しさゆえに気持ちが通じ合ってなかったというか。
「そうですね。その時は本当に自己嫌悪に陥りました……ヒカリはヒカリで、そういうナホちゃんの想いだったり空気を察する子なので、〈ナホさんがバンドに対して前向きでなければ自分も続けられない〉みたいにネガティヴな気持ちになってしまって」
でも、フロントマンとして、しかもコロナ禍でどうにかバンドを進めなきゃって気負うのは仕方ないのかなと思いますけど。その後、ナホさんから辞めたいって申し出があってChisaさんはどう答えたんですか?
「どうにかLucie,Tooを3人で続けたかったので、悲しみとか怒りはもちろんあったんですけど、そういう感情を抑えて説得しましたね。感情を抑えるために曲を作った部分もあります。ちなみに〈Get Back〉って曲は、ナホちゃんのことを書いてるんです」
一見恋愛の曲に聴こえますけど、これも離れていくメンバーのことを投影してるんですね。それを理解した上で聴くと、より切なくなります。〈行方不明その心/あの想いもう一度/取り戻したいのにな〉の部分とか。
「そうですね。あとは〈ハミング〉もかなこのことを想って書いた曲だし……私が書く曲って、今までは前向きな内容とか恋愛をテーマにしたものが多かったんです。でも、今回は最初に言ってもらったように、自分と向き合った上で思ったことを正直に綴ってるというか。それはコロナ禍で自分と向き合う時間が多かったのもあるんですけどね」
でも、悲しみに直面しても曲を作り続けることはできたんですね。
「そうですね。周りの人の支えが大きかったんです。特に、たんこぶちんのドラマーのほのちゃん(前野ほのか)と、同じレーベルのCALENDARSとか。CALENDARSのTAKAHIROさんは、私たちを宇都宮時代から見てくれていたし、ずっとLucie,Tooを好きでいてくれて。ほのちゃんは私にとって憧れの存在だったんです。学生時代、ほのちゃんが上げていたSCANDALのコピバン動画をお手本に私も演奏していたので(笑)。そういう人たちが傍にいてくれるなら、弱音を吐いてらんないよなって思えました」