【LIVE REPORT】
sumika〈sumika Live Tour 2021『花鳥風月』〉
2021.11.03 at さいたまスーパーアリーナ
「今日、〈来る〉という選択をしてくれて、本当にありがとうございました」
ライヴ中、目の前に広がる景色を噛みしめるように、片岡は何度かそう口にしていた。ライヴができること、そしてそこに人が集まることは当たり前じゃない。誰もがそれを強く実感した1年半だった。心が沈んでしまうことも多いけれど、音楽を求める者同士がひとつの場所に集まって、同じ時間を過ごす――こういう夜があるから、少しだけ心が軽くなったり、その日だけはぐっすり眠れたりする。そんな当たり前で、特別な感情を取り戻すような一日だった。
sumikaはこれまでに2度、さいたまスーパーアリーナでのライヴを中止にしていた。2020年3月から始まる予定だった〈sumika Arena Tour 2020 -Daily’s Lamp-〉は、コロナ禍により各地が延期・中止となり、振替公演として今年1、2月に5日間にわたって開催を発表していたさいたまスーパーアリーナ公演もすべて中止に。2月にはチケットの払い戻しを希望しない人を対象に、同会場から無観客配信ライヴは行ったが、いっぱいになるはずだった会場にいるのはもちろんメンバーだけ。その真ん中で唄う片岡は、笑顔はあるものの、どこか悲しそうで寂しそうに見えたし、実際、「お客さんの残像が見えて、すごく怖かった」と、当日の心境をインタビューで話してくれていた。
だからこそ、キャパシティの制限やさまざまなルールはあれど、きちんと人を入れた形で今日を迎えられたことが、まずは喜ばしかった。SEが流れる中、幕が落ちてメンバーの姿が現れる。1曲目はパッと視界が開けるような「Jasmine」、そして「祝祭」へと続く。〈新世界 雨の向こう側/人影が見えるなら/やっと出会う時だろう/君と出会う時だろう〉という歌詞が飛び込んでくる。やっと会えた。この日を待っていた。まさに今日を祝福するような幕開けだ。
アリーナというデカイ会場に臆することなく、安定した演奏でフロアとの距離をぐっと近づけていく4人。さらにこの日は、4名のゲストメンバーを迎えた大所帯のステージ。ふくよかなコーラスや、細かいライヴアレンジが楽曲を引き立て、盛り上げていく。7月に有明ガーデンシアターで同ツアーを観た時よりも、演奏や照明や演出など、どれもがアップデートされており、大切な人たちと一緒の時間を過ごし、一緒に作り上げてきたツアーの充実がうかがえる。
片岡は途中、最近怒ることがなくなったこと、それは人に期待することをやめ、自分の心を保っているからだ、と語った。しかし、メンバーには本気で怒れる。そこに信頼や縁が生まれるし、ライヴに来てくれる人ともそうでありたい、と。そのあとに演奏された「溶けた体温、蕩けた魔法」。本気でぶつかることは怖い。相手を傷つけるかもしれないし、自分が傷つくこともある。でも、大切な人とはそういう関係でいたい、という片岡のわがままな愛の歌だ。片岡の切実な歌と小川のピアノが絡み合い、黒田のコーラスが重なり、深いところで繋がっていく。むき出しだけど愛おしさが滲む演奏。そこには、今日来てくれた人とも確かな関係を築きたい、という意思が感じられた。
その後は、「Shake & Shake」「絶叫セレナーデ」「Late Show」といったアップテンポな楽曲が続き、ぐっと熱量をあげていく。荒井の丁寧なドラミング、黒田の伸びやかなギター、小川の弾けるようなピアノ、そして熱っぽくなっていく片岡の歌声。客席側も声が出せない代わりに、手をあげたり手拍子をしたり、全力でそれを受け止める。音楽を通じて、互いに高揚し合い、笑顔にあふれるスタージとフロア。こうやって心を通わせて感情が爆発するような瞬間を、みんなずっと待っていたのだ。
最新アルバム『AMUSIC』は、2020年に音楽を失った気持ちになったメンバーが、そんな自分たちを奮い立たせるように、楽しんで作ったアルバムだ。落ち込んだ自分を励ますように、前向きな言葉が多く詰め込まれ、ポジティヴなエネルギーに溢れていたが、その思いはこうして人を前にして演奏することで、何倍にも膨れ上がっていた。いつも以上に聴く人の背中を押すような、あるいはそっと肩を貸すような逞しさがあった。それは、何度もつまずいたり傷ついたりしても、音楽と仲間に救われて、諦めずにやってきた彼らだからこそ、放つことのできる強さだろう。
本編ラストは「センスオブワンダー」。一歩ずつ足を踏み出すような前半から、次第に身体が軽やかになるようにリズムが躍動していく。ポジティヴな音色と、〈進め 誰かの手じゃなく自分で〉〈諦めかけていた運命の向こうへ〉というフレーズが、さらに心を弾み、会場中に笑顔が広がる。この1年半くらい、足がうまく前に進まなくなるような日も、心が締め付けられるような瞬間も多かった。美しい景色を美しいと思えなかったり、顔が上げられなかったり、外に出るのが怖くなることもあった。でも、こういう日をひとつひとつ積み重ねていくことで、少しだけ〈また明日も頑張ろう〉と思える。それは聴く人だけじゃなく、メンバー自身もそうなのだろう。互いにもらったり返したりしながら、少しずつ前に進んでいく。その実感があるから、彼らのライヴには特別な輝きが生まれるのだ。そして、その輝きが美しいと思えるのは、時にはむき出しで、時には優しく音を奏でてくれる4人がいるから。美しい景色を美しいと思うには、心が豊かじゃないと感じられない。この先も苦味が心を支配していくことはあるだろうけれど、立ち止まってしまったら、気持ちをリセットして、また大切な人と新しいスタートを切ればいい。ステージにいる4人がここまでそうやって来たように。そんなことを強く思う、ラストだった。
冷えた身体に温かいシチューが染み渡るような、幸せな2時間半。「ものすごくしんどい時に作った、会いたい歌」という言葉のあとにアンコールラストの「晩春風花」が優しく響いた。住処(sumika)は住んでくれる人がいないとただの空き家、と片岡は言っていたが、安心や温もりを感じられるのは、そこに人がいるからこそ。会えなかった時間は戻ってこないけれど、ここからまた次の景色を一緒に見に行こう。そんな未来への温かい希望が、じんわりと心に残った。
文=竹内陽香
写真=Tetsuya Yamakawa
【SETLIST】
01 Jasmine
02 祝祭
03 Flower
04 ふっかつのじゅもん
05 イコール
06 わすれもの
07 Jamaica Dynamite
08 溶けた体温、蕩けた魔法
09 願い
10 本音
11 惰星のマーチ
12 Shake & Shake
13 絶叫セレナーデ
14 Traveling
15 Late Show
16 ライラ
17 明日晴れるさ
18 センス・オブ・ワンダー
ENCORE
01 Babel
02 ファンファーレ
03 フィクション
04 晩春風花
NEW SINGLE「SOUND VILLAGE」
2021.12.01 RELEASE
■初回生産限定盤(CD+Blu-ray+Photo Book)
■通常盤(CD)
〈CD〉 ※初回生産限定盤、通常盤共通
01 Babel
02 アンコール
03 一閃
04 Marry Dance
〈Blu-ray〉 ※初回生産限定盤のみ
sumika Film #9~Documentary of SOUND VILLAGE~
〈sumika Live Tour 2022『花鳥風月』-第二幕-〉
1月15日(土) SENDAI GIGS 開場16:00/開演17:00
1月16日(日) SENDAI GIGS 開場15:00/開演16:00
お問い合わせ:ノースロードミュージック 022-256-1000
1月25日(火) Zepp DiverCity(TOKYO) 開場18:00/開演19:00
1月26日(水) Zepp DiverCity(TOKYO) 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799
2月5日(土) BLUE LIVE HIROSHIMA 開場17:00/開演18:00
2月6日(日) BLUE LIVE HIROSHIMA 開場15:00/開演16:00
お問い合わせ:夢番地 広島 082-249-3571
2月17日(木) Zepp DiverCity(TOKYO) 開場18:00/開演19:00
2月18日(金) Zepp DiverCity(TOKYO) 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799
2月21日(月) Zepp Sapporo 開場18:00/開演19:00
2月22日(火) Zepp Sapporo 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:WESS 011-614-9999
2月28日(月) Zepp Nagoya 開場18:00/開演19:00
3月1日(火) Zepp Nagoya 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
3月7日(月) Zepp Fukuoka 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424
3月9日(水) Zepp Osaka Bayside 開場18:00/開演19:00
3月10日(木) Zepp Osaka Bayside 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-288
3月14日(月) Zepp Nagoya 開場18:00/開演19:00
3月15日(火) Zepp Nagoya 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
3月17日(木) Zepp Fukuoka 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424
3月30日(水) Zepp Osaka Bayside 開場18:00/開演19:00
3月31日(木) Zepp Osaka Bayside 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-288
4月11日(月) Zepp Haneda 開場18:00/開演19:00
4月12日(火) Zepp Haneda 開場18:00/開演19:00
お問い合わせ:キョードー東京 0570-550-799