NITRODAYのヴォーカル&ギター小室ぺいが、自身が気になったものを独自の視点で綴っていくWEB連載。今回は、自身が抱える悲しみと、この季節を迎えて感じることについて。
#17「夏from四季」
ようやく長すぎる梅雨が明けて、チクチクと汗をかく季節がやってきた。早速、初夏(書架)から引っ張り出してきた「オーデュボンの祈り」「インストール」などを読んで過ごしている。
「夏への扉」じゃないけれど、今年の夏はいつにも増して待ち遠しかった。僕の心の中で降り積もる雪を融かし切ってくれる夏を、待っていた。
ほとんどの悲しみはかつてあったことだ。僕の心はたぶん、さらに将来に対して悲しみを抱けるほど大きくはない。一体何がそんなに悲しいのか、欠けっぱなしの月のような心(寂しさ・空白・虚)、もはやそれさえ、悲しみを持つことで埋めようとしている、すると次に、衛星・月の表面はじわじわと蝕まれていく。とめどない。そういえば、僕は写真でしかみたことがないけれど、月にも海があるらしい。いつかそこへ行ってみたいなと思う。朝もない、夜もない、波のない海。そうだ、夜が来るから影がさす。日々に波が生まれてしまうのだ。その細かい波を打ち消すには、大きい波がいい。四季。僕は場所というものに大してなんの気持ちも持たずに過ごしているけれど、育ってきたところ、いま住んでいるこの町に季節があって本当によかったなと思う。自転の波に飲まれないためには、公転に思いを馳せるしかないんだから。
春になったら春風が吹き、夏になったら海が輝く、秋になったら影は伸びるし、冬になったら暖かくする。これだけのことがなにより素晴らしいと思う。なんだろう、山や海を眺めて、晴れやかな、細々としたことなんて忘れ去ってしまえるような気持ちになるのとよく似ている。それは、地球という星を感じることができるからだろう。さすがに(銀の河と書いて)銀河の単位で言えば、誰も彼も区別はない。多くの人が、そこらを歩いている蟻の1匹や2匹になんのこだわりもないように。「自分の人生に意味があるかないか、そんなことはどうでもいいさ」と言って欲しくて宇宙、季節にすがる。できればそう言ってくれるのが同じ蟻同士ならもっといいのだけど。義理深いアリさん。
そして、夏は炭酸ジュースの季節だ。いろんな色で泡を弾けさせる、一粒一粒が限りなく生きている、僕の喉を猛烈に燃やしてくれる。色水の中からひとつの色だけを取り出せないように、悲しみだけを葬り去ることはできない。既にペットボトルの中にある悲しみと、容れ物に新しく流れ込んでくる色たちとを混ぜ合わせて生きてゆかなくてはならない。だけど新しい季節、人との出会いを加え、振り混ぜてみる。うす紫、黄色、透明、エメラルド。色は変わっていく。悲しみは、シュワッと、無くせないけれど、かつて悲しみだったもの、として抱えていくことはできる。だからその、蓋は開けておいた方がいい。炭酸は抜けていってしまうけれど、それが大人になるということなのかもしれない。
最後にひとつ。
―― 夏は夜、月のころはさらなり。波ぎわに残る真昼の足跡を、こばるとの海がさらひてゆけり。手のひらに張りつく砂の限りなき、心ならずも、握りしめらる。今はいずれ昔、この島のかけらかけらに成りはてぬべし。――
最近、夏が好きだ。
Information
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小室ぺいが出演する映画『君が世界のはじまり』(監督・ふくだももこ)が、テアトル新宿ほか全国上映中
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