姉のMonaと妹のHinaから成る、ピアノ連弾ユニットKitri。繊細で美しい楽曲を、一糸乱れぬピアノの掛けあいでみせるさまは圧巻だ。春に開催予定だった、全国ツアーは延期に。表立った活動ができない期間を経て、ついに新曲が到着。配信限定でリリースされた「Lily」は、初めてピアノとストリングスだけの編成で奏でられた、壮大なバラードだ。そこには、会えない人へ思いを巡らせ、悲しみに浸る主人公の姿が描かれている。だが、悲しさの中にも、安らぎや穏やかさが漂っているのだ。それはなぜか探るべく、「Lily」配信リリース日に開催された、初のYouTubeライヴを終えたばかりの姉妹に、リモート取材を敢行。すると見えてきたのは、人と人との間に横たわる、ある感情だった。大切な人、モノ。それは自分の中心に残り続け、乾いた心を潤してくれるのだ。
YouTubeでの配信ライヴ、とても素敵でした。やってみてどうでしたか?
Mona「配信をするまでは、緊張感が生まれるのかどうかもわからなくて、お客さんがいると思って演奏できるのか不安だったんです。でも、実際にやってみると、思った以上にファンの方が待ってくださっていたんだなと伝わってきて、普段のライヴのような緊張感と集中力を持って臨めたかなと思います」
Hina「普段のライヴだと歓声でみなさんの反応がわかるんですけど、今回はチャットの書き込みで盛り上がってくださったので、それがすごく新鮮で面白かったです。しかもたくさんの方が応援してくださっていると目に見えてわかったので、すごくうれしかったですね」
演奏の合間に、チャットのコメントを読み上げたり、その場で演奏してほしい曲を募って、リクエストに応える場面も印象的で。ファンの方とコミュニケーションをとって、繋がろうとしていましたよね。画面越しとはいえ、お2人が近くにいるような感じがしました。
Mona「ああ、よかったです。リモートでも音楽を通して、みなさんとひとつの空間を作り上げることができるんだなっていう喜びをすごく感じました」
お2人にとって新しい挑戦であり、発見もあったライヴだったというか。そうやって誰かに向けて演奏される機会は、これが久々だったかと思うのですが、それまでの間、どんなふうに過ごしていましたか?
Mona「2人ともほとんど自宅で過ごしていましたね。ライヴやイベントが中止になってしまったり、いろいろと思うようにいかなくなってしまったことで落ち込みそうになった時もあったんです。だけど今こそ新しい曲をたくさん生み出したいなと思って。私が作曲をした、できたてほやほやの曲をHinaに渡して、この曲の歌詞書いてもらえるかな?といった感じでやりとりをしながら制作を進めていました」
Hina「一番はKitriを応援してくれているファンのみなさんのことをすごく考えていて。きっと待ってくださっているだろうから、何かを届けたいなって、Monaとたくさん話しました」
この状況を悲観することなく、今できることをひとつずつ取り組んでいたんですね。
Mona「はい」
そういった時期を経て、新曲「Lily」を配信リリースされました。ピアノとストリングスというサウンドに、Kitriとしての新しい挑戦を感じたのですが、歌詞には、自然とこの状況を重ねてしまう部分もありまして。これも自粛期間中に作られた楽曲なのでしょうか。
Mona「この曲のデモというか、一番始めの素材はだいぶ前からありまして。本格的に作っている過程でコロナが流行ったんです」
Hina「歌詞を書いたのは、去年でした」
そうだったんですね。今回、作曲はMonaさん、作詞はHinaさんが手掛けていますが、まずHinaさんはこの曲を聴いて、どういうイメージが湧きましたか?
「最初に聴いた時、すごく厳かな白い世界をイメージしたんですね。サビの音を聴いてパッと〈Lily〉っていう言葉が浮かんだんですけど、この曲にあうんじゃないかなと思ったのでタイトルにして。で、どういう歌詞を乗せようかと考えている時に、自分の過去を振り返ったり、今、会いたいけど会えない人を思い出すようなイメージだなと感じたんですね。それをMonaにも話して、この曲は、もう会えなくなってしまった人と夢の中で会えるような内容の曲にしたいね、ということになったんです」
この曲の主人公は、会いたい人に会えず、悲しみや喪失感を抱いていると感じました。ですが、どこか穏やかで。そう感じるのは、幻想的なストリングスの音色も影響しているのではと思ったのですが、今回初めてピアノとストリングスだけの編成でアレンジされた理由を教えてください。
Mona「この曲を、まずピアノと歌だけで作った時に、弦の音色があると深い味わいが出るんじゃないかなと直感的に思ったんです。弦を入れたほうが重厚感というか厳かなイメージをより表現できると思ったので、ストリングスの方にご参加いただきました。ただ、このアレンジを入れていただく前に、自粛期間に入ってしまったんです。本当なら、ストリングスのみなさんがレコーディングされている現場に私たちも行って、そこでこういう音色がいいです、と話したり、音についてやりとりをしたかったんですが、今回はそれが叶わなくて。代わりに、レコーディング現場をZoomで見せていただいて、曲のイメージを画面越しにお伝えして、質問しあったりしながらやりました」
リモートでやりとりをしてみてどうでしたか?
Mona「ちゃんとイメージが伝わるかなっていう不安はあったんですけど、演奏とアレンジをされた方が、曲のイメージを瞬時に理解して、対応してくださったんです」
具体的にどういうイメージで弾いてほしいと伝えたんですか?
Hina「この曲は寂しいとか悲しいっていう感情があるんですけど、その中に温もりのようなものがあるとお伝えして。会いたい人に会えない悲しさや寂しさがあるけど、その人と過ごした思い出だったり過去の記憶は温かいものだっていうようなイメージですね」
だから悲しさの中に穏やかさを感じたりするんでしょうし、〈見えない眼差しから切々と漂う安らぎ〉という歌詞にも繋がるというか。お2人が、悲しいけれど温かいな、という気持ちになるのは、どんな時でしょうか。
Mona「私は自分にとって思い出の場所に行くと、〈あの時のものは、もうなくなっている〉みたいな悲しさの中に、懐かしさというか温かさ、その両方を感じることがありますね」
もともとあったものがなくなってしまった悲しさはあるけれど、そこを訪れたことで当時の思い出がよみがえるから、懐かしい気持ちや温かい感情になれるというか。
Mona「そうですね」
Hinaさんはどうです?
Hina「人と別れたり離れてしまう時に、悲しい寂しいっていう思いがあるんですけど、例えば、離れてしまった人からもらったモノを家で見て、〈これはあの子がくれたものだな。なかなか会えないけど元気にしているかな〉みたいに温かい気持ちになります」
そういう悲しさや寂しさがあったとしても、大切な記憶を思い出した時に、相手と繋がっていることを感じられると。だから、温かい気持ちになるんでしょうね。
Hina「なのでこの曲には、人から愛された記憶や人を思う気持ちだったり、そういう愛情みたいなものがあるなと思っていて」
人との関わりや繋がり、それがすなわち愛情みたいなものと呼べるというか。
Hina「そうですね」
その愛情はどんな時にふと感じたりします?
Mona「例えば、街で通りすがった人だったり、お店で会った店員さんでも、何かひとつの言葉を交わした時に、元気をもらえることがあって。そんな名前も知らない方との間にも、愛というか大切なものは存在していたんだなって、それこそこの自粛期間で考えさせられました」
確かに街中で偶然出会った人とコミュニケーションがとれた時は、気持ちが通じたんだなって嬉しくなりますし、心が温かくなりますよね。でも、今はそういう機会が減ってしまって。
Mona「そうですね。ここ最近しばらくの間は、殺伐としたムードを感じた時もありましたし、つらい思いをした方もいらっしゃるだろうなって。ひとつの言葉で元気をもらうこともあれば、傷つくこともありますし、人と人ってすごく繊細なものなんだなと感じる時間でもありました。だから、この曲が、どこかで悲しみや寂しい思いを感じている方に届いたらいいなって。そういった方の心を癒せるようなものになったのではないかなと思っています」
どんなに大変な状況でも、自分の心の中にある大切なモノや人、それを思い出すことで安心したり、また頑張ろうと自然になれることってあるような気がしていて。「Lily」は、そういう大切なものを思い出すきっかけになるのでは、と思っています。
2人「ありがとうございます」
この曲でKitriの世界がさらに広がったと思うのですが、8月と10月にも配信リリースを予定されていますよね。今度はどんな作品になりそうですか?
Mona「〈Lily〉は、これまでのKitriとはまた違う新しい世界観だったかなと思うんですけど、次の2曲も全く違うタイプの曲なので、おもちゃ箱のように色々な世界観を楽しんでいただけるかと思います。今回を含めた3作が、それぞれ違った世界観なので、みなさんにぜひ聴いていただきたいなと思います」
文=青木里紗
DIGITAL SINGLE「Lily」
2020.06.24 RELEASE
01 Lily
Download/Streaming https://nippon-columbia.lnk.to/LHiJ1
YouTubeライヴ〈キトリの独演会 #1 ~remote ver.~〉
期間限定公開
Information
6月リリースの「Lily」を皮切りに、3作連続となる配信シングルを隔月でリリース!
第2弾、第3弾の詳細は、続報をお待ちください。
Kitri オフィシャルサイト https://www.kitriofficial.com/