ここからたぶん何年もかかる。復興にはすごい時間かかる。1年や2年じゃ終わらない。だから、みんながやっぱり手を差し伸べないとって思うよ
許可証って、そんな簡単に取れるもんなの?
「簡単には出ないけど、やっぱり俺の友達ってガラ悪ぃからさ(笑)。警察行っても初めは相手にしてもらえなかったらしい。でも、キレて。トラックの中身を全部見せて『これ見ろよ! お前らが何もしねぇから俺たちがやんなきゃいけないんだよ』って言ったらくれたって(笑)」
さすがTOSHI-LOWの友達(笑)。
「だから高速はまだ通行止めだったけど、俺らは通れたのね。で、北茨城に持ってくことをツイッターで告知してたら、移動してる途中で〈北茨城の下の市で避難してます、助けてください〉みたいなつぶやきが届いて。そこはもう市役所の機能がマヒしてて、全然物資も届かない、と。だからツイッターで連絡取って。ここから東京戻るより、水戸で物資を募ったほうが効率いいな、と思ったから〈明日水戸にTOSHI-LOWが13時から21時まで居るから救援物資持って来い。場所はここ〉って広めてもらったんだよ。ずっとその場所に立ってたけど、4トントラックが1台と、2トントラックが2台の物資が集まった。物資を集めてた場所の前の喫茶店が対策本部みたいになって」
目に浮かぶようだ(笑)。
「ふたりでパソコン広げて、全部の市役所に電話して。他にも行ってないところや見落としてるところがあるんじゃないか、調べて。県に聞くと『大丈夫です、物資は十分にあるんで』って言うの。でも県はバカだから、各市役所に『ここに物資が来てるから取りに来い』ってなるんだよ。取りに行けるわけねぇじゃん! ガソリンなくて、道があんな状態なのにさ。だから県の物資も持って行くから、って話もして。その間も情報集めて。各避難所でいる物いらない物をチェックして。初め飲料水を集めてたんだけど、高萩はさっき備蓄が行ったからいらないって話になって。そしたら茨城交通が、宮古周辺に臨時でトラックを動かす。行く時空っぽだからそっちに持っていくぞ、って話になって。飲料水はそっちに回して」
集めた物資を無駄なく送れた、と。
「だぶんね。その夜はもう友達に任せて。俺は東京戻って、次の日リハやって、江南(愛知県)でライヴやって、戻ってきてここにいる、って流れですね」
で、今日はほうれん草大作戦、と。
「はははは。ほうれん草はね、放射能が規定値を越えたとかなんとかで、出荷停止になったでしょ? そしたらテレビでババアがさ『もう怖くて買えません。原子のアレがついてるんでしょ?』って答えてて(笑)。原子のアレって何だよ!」
笑えない風評被害だなあ。
「ライヴに行きながら考えて……あ、でも1回安心してた。物資行ったし、自分の手が届く中では、これで餓死するような子供はいないだろうと」
自分の繋がりの中で、やることをやって。
「うん。でも、物資運びました、安心しました、終わりです、っていうのは違う気がしてきて。〈震災の記念にボランティア参加したぜ?〉みたいな。でも帰ってきたら、物資、俺も運ぶ!みたいな人たちがどんどん増えてたから、大丈夫かな、と思った。でも物資以外で、やっぱり被害が出てきて。福島も茨城も、原発のことで誰も行かなくなるかもしれないし、ちょうどニュースで、畜産農家の人が牛乳を泣きながら捨ててるのを見てさ」
あぁ、あったね。
「何が出来っかなって。で、ウチの実家はそういう関連だから。『出荷停止になって、捨てるしかないほうれん草ある?』って聞いたら、そりゃ近所に腐るほどある、って話で。そしたらちょうど、トラックで水戸に帰って、また東京戻ってくるヤツがいたから。空いてる荷台にほうれん草積めるだけ積んできて、ってお願いしたんだよね。それをどうするかは何も考えてなかったけど」
とりあえず持って来よう、と。
「最悪みんなで一生ほうれん草パーティだよ(笑)。で、考えて。〈風評やデマを気にしない方は、事務所でほうれん草を無料で配ってます。自己責任で取りに来てください〉ってツイッターで告知したの。その結果がこれ」
盛況だねえ。もうほうれん草なくなりそう。
「自分でさ、そんなの平気だよって人だけ来ればいい。食べないことが俺は悪だと思わないから。でもこうやってほうれん草を持って帰ってくれた人たちがさ、家で食べて、全然平気だったよって言うことによって、風評被害も少しは、ほんの少しは早く直ると思うから。それが重なっていけばいいんじゃない? 大事なのは、自分の手が届く範囲でやるべきことだと思う」
君はその範囲が強烈に広いけどな。
「でも友達を助けたい気持ちの延長だからね。自分が出来る最善のものをチョイスすればいいんだよ。それが募金だけだったら募金でもいいし、ツイートしてくれるだけでも全然いいだろうし」
人を助けるのに、自分の足元崩したってしょうがないからね。
「そう。人を支える為には、自分の足腰がきっちりしてなきゃしょうがないから。働ける人は働いて、お金稼いで回せばいい。それを無理に止めてまでチャリティとかする必要はないと思う、やれることはやってもらいたいけど……」
こういう動きをして、自分にめんどうくさいことが降りかかってくると思いませんでしたか。
「思ったよ。やんわり止める人もいたし。でもそんなことを気にしてたら、もっといろんなことが手遅れになると思ったから。もう今は、善だ偽善だ言ってねぇで、まずアクションするべき、という判断だった。なんでツイッターで広げたかというと、それでみんな知るじゃん。あ、北茨城まで行けるんだって思ったら、物資持って行く人も増えるだろうから、それをわざと公表したわけ。公表し続けてるというか。そうすれば輪が広がると思ったから」
自分の名前をいい意味で使って。
「いい意味かどうかわかんないけど、それで広がったからいいんじゃない。まだ忘れられないうちで良かったよ(笑)。『へー、そんなバンドいたんですか?』って言われる頃だったらさ(笑)」
ははは。しかしこの自粛ムードも嫌だよね。
「ほんとにクソだよ。やれることがあるんだとしたらやるべきであって。西日本は今、電気とか全然平気なわけじゃん。なのになんでライヴ自粛してんの? 西日本は西日本でどんどんやって、そこに募金箱置くとか、売り上げを寄付とかすればいいじゃん。なのに自粛して。だいたい普段、愛だ平和だ唄ってるヤツらに限って、自粛してんだよ!」
わははははは。
「そういう人たちが何も動かねぇ……クソだと思うよ、ほんとに。『出来ることが僕らなくて、どうしていいのかわかりません』って、アホか。考えろよ、動けよ! あと『3月中は事務所が止めてるから出来ません』ってさ、やりたいならやればいいだろ。事務所クビになったっていいじゃん。じゃあお前、何の為に唄ってんだ? バンドやってんだ?って聞きたいよ。『唄えることしか出来ません』なんて言うな。じゃあ唄えよ。それを失ったら何の為に生きてんだって話でしょ?」
そうだね。だからミュージシャンが問われてると思うよ。
「そうだよな。みんな無力じゃないんだよ。ここからたぶん何年もかかる。復興にたぶん、すごい時間かかる。1年や2年じゃ終わらない。だから、みんながやっぱり手を差し伸べないと……って、俺がこんなこと雑誌で言うと思わなかったよ!」
本当だ(笑)。
「ただ今回知ったけど、協力すれば、こんなに物事がスムーズに動くし、まだまあそういうふうに動いてくる人たちもたくさんいるから、日本も捨てたもんじゃねぇなってほんとに思うよ」
そういうことをやって、こんだけしか出来ないんだなって思うのか、それともやっぱり……。
「や、まだまだ何でも出来ると思ってる。必要とあれば別にどこでも行くし。役に立つんだったら原発直しに行ったっていいよ、俺」