言ったら嘘くさくなるかなと思って言えなかった気持ちだったり、愛情とか優しさも、全部ぶつけられるのが音楽なんです
ですよね。だからこういう歌詞になるわけで……でもそんな人が、感受性の高い学生の頃とかはどうしてたんですか?
「中学の頃は、勉強をする気が起きなかったので勉強しなくても入れる高校に行こうと決めて、ずっとポケモンやってたんですよ。たぶん悩んでなかったですね、人生に関して。素晴らしい未来の選択肢がいくつかあるなんて思わず、もうなるようにしかならないっていう諦めで生きてましたから。友達もいなかったし、そもそも家族関係があんまり良くなかったんで、家族のことも考えたくなくて。目の前のことすべてから逃避してました」
家族関係、そんなに良くなかったんですか?
「うーん……周りが思うほど酷いわけじゃないと思うんですけど、母親しかいなかったんですよ。その母親が働いて、祖母と祖父、そして僕の生活を支えてて。そのストレスなのか、時々、家族のことを悪く言うんですよね。子供心に、聞いててあまり気持ちのいいものではなかったんですよ。家族を1人で支えてる人なので、悪く言わないでよなんて言えないし、ましてや何でお父さんがいないのかなんて、聞けるはずもなくて」
触れられないですよね。
「かすかにある父親の記憶って、母親と死ぬほどケンカしてる光景で。僕はベランダでずっと耳を塞いで、しゃがんで隠れてたんですよ。向こうは知らないと思いますけど。だから……辛かったんでしょうね、すごく」
誰かを頼ろうとは思わなくなりますね。
「あの時のまま育っちゃった感じがしますね。親に相談とかできなかったし。なんなら相談したい内容は、当人が揉めてることですから。でも、そんなことがあっても、死んじゃおうって思ったことは1回もないんですよ。疲れたから全部やめたいって思う時はありますけど、でも、自分に起こった悲しいこととか苦しかったことがなかったら、生きていなかったはずだし。なんか……ちょっとこれは言葉が悪いかもしれないですけど、悲しみとか苦しさって、酔えるものだと思ってるんですよ。こんなに苦しい自分、こんなに死にたい自分に酔って、ヒロイックになってる感じ。それがすごく苦手なんです。自分にももちろんあるんですけど、そういう感情になると、自分が嘘ついてるような気持ちになっちゃうんですね。いやいや、何自分に酔ってんだ……ごめんって気持ちになる」
自分がそうなってることを曝け出して「今俺はこうなんだ」って相談するのも苦手だし。
「できれば曝け出したいんですけど。それを、音楽でできるだけできたらな、って。自分の思ってることを曲にしたら、嫌な感じに聞こえない可能性もあるんですよ。音楽にすることで伝わらなくなる要素もあるんです、きっと」
取り方はいろいろできますからね。
「音楽にすることで、ただの作品だ、創作だって思う人も中にはいるんですね。僕がいくら本当に思ってることを書いても、届かない人や誤解する人がいることで、僕は助かってると思うんです。だから、本気であいつに死んでほしいって思ってても、そういう創作にも聞こえるじゃないですか。僕にとっては、本当のことを唯一話せる相手が音楽だったんです」
逆に、心の底に眠ってる、酷いことを吐き出しても、音楽ならフィクションとして許される、と。
「そうですそうです。自分の中のどんなにヤバい気持ちも、言ったら嘘くさくなるかなって思って言えなかった気持ちも、愛情とか優しい気持ちみたいなものも、全部ぶつけられるのが音楽……になってしまってたんですよね」
いつの間にか音楽しか、自分の何かを言える場所がなかったというか。家族でも友達でもなく。
「そうなっちゃってたんですね。あんまりいいことじゃないじゃないですか、人としては。できれば友達とかに話せたほうが良くないですか? インタビューとしてはカッコ良く聞こえますけど、人として考えたら駄目じゃないですか」
でもバンドマンとしては最高です(笑)。そういう欠落が。
「でも僕、100人に好きだって言われても、1人の人に嫌われたら、100人の人に好かれてることを忘れちゃうくらい辛い気持ちになるんですよ。だから1人に嫌われるくらいなら、100人に好かれなくていいって感覚になっちゃってるんです。僕が音楽を辞めたくなる理由って、完全にそれなんですよね。不特定多数の人に音楽を聴かせる上で、こういうタイプの人間が音楽やってちゃいけないと思うんですよね」
でもそれは、誰も置き去りにしたくないっていう誠実さの現れですよね。そしてその100人は、そういうところが好きなんだと思うんですよ。
「でも、僕のことが嫌いならいいんですけど、その人を音楽で傷つけちゃったんじゃないかって思うと、やりきれなくなるんですよ。狙ってないのに、自分の中でできた曲が、どう冷静に見ても誰かを傷つける凶器なんですよね。この曲で誰かと握手したら、そいつの手はズタズタになるなっていう」