生きることは地獄かもしれないけど、その地獄で、一緒に話がしたい。僕ができるのは誰かを救い上げるんじゃなくて、そういうことだなって
でもそういう手を差し出さざるを得ない。
「それが本当の俺ですから。出さなかったらそれこそ嘘つきになっちゃうんで。今回のアルバムに〈地獄に落ちろ〉って曲が入ってるんですけど。この中止期間、曲作んないでいようって思って、作らない時期があったんですけど、ほんと禁断症状みたいになっちゃって」
相談する相手がいなくなっちゃったんですもんね。
「そう。で、久しぶりに作った曲のひとつがこれで。僕の中で生きることって、考え方によっては地獄だなって思うんです。こうやってバンドを続けてみて、けっこう信頼されるみたいで悩みとか相談されたり、僕の曲を聴いて救われたって言ってくれる人もいるんですけど、僕は誰かの力になれた感覚がまったくない。でも、もう1回音楽やるんだったら、生きることは地獄かもしれないけど、その地獄で一緒に、隣で話したいなって」
地獄で隣?
「僕はバンドを辞めて、曲作らなかったら、もう夢も希望もないなと思ってた。そんな僕ができることは誰かを救い上げることじゃなくて、地獄の底で待ってるから、そこで一緒に隣で話がしたいなって。何かあればいつでも地獄で待ってるからって」
〈笑って生きよう〉って歌詞が出てくるのは、そこで一緒に笑えたらいいな、と。
「そう。僕みたいなヤツが率先して、いやいや俺たちだって笑っていいでしょって、そう言いたかった。そう言ってくれる人が僕も欲しかったし。例えばシロップの五十嵐さん(五十嵐隆/syrup16g)のような人にこそ『死にたいなんて思わねぇよ』って言ってほしかったから。死にたいって思うけど、最初から思ってたんじゃないよって。死ぬほどきつい目にあったから、誰かに沈められたからここにいるだけで、最初から沈みたくて望んでここにいるんじゃないんだって、そう言ってほしかった。僕は誰かに沈んでてほしいなんて思ったこと一度もないから」
みんな最初はそのはずですもんね。
「うん。僕は聴いてる人と対等になりたいんですよ。誰かのためにしてあげてるんじゃない。音楽を聴くのもやるのも対等になりたいだけ」
でも今日は話してて、このバンドの奥にあるものがわかった気がします。
「暗いバンドだって思われるのはぜんぜんいいんですよ。僕が根暗なんだと思うんですけど、だけど、バンドを暗く見せたいとか、暗い人って思われることをカッコいいでしょとか、そういうことを僕は1ミリも思ってない。今、メンバー含めて、周りが僕のことを暗く見せようとか考えてないし、ほんとに素直に僕の気持ちを受け取ってくれてる人がいるので、すごく助かってます」
そうですね。僕が悪徳プロデューサーだったら、ヴィジュアルも作り込んで、インタビューも重たくして、どん底に落ちてる暗いバンドみたいにしてます(笑)。
「そういうのってありますよね。友達がいないっていう設定でいけって言われたりとか」
うわあ、嫌ですね。でもバレますからね、一瞬にして。
「そうなんですよ。そういうのってわかっちゃうっていうか、見抜かれてると思ってて。やめたほうがいいですよね。もうみんなやめようよ、キャラ作りとか」
はははははは。最後に「彼女はまだ音楽を辞めない」って歌がありますけど、この曲はどこか救いというか、そういうものが見えてくるような感じがします。
「その曲はタイトルをどうしようかすごく悩んでたんですよ。ドラムのカレンちゃんも、ドラム辞めようと思ってたって言ってましたけど、僕の周りにも、音楽やってる女の子は何人かいて。でもバンドマンって、圧倒的に男のほうが多いから、ライヴハウスでも打ち上げでも、あの女の子がどうのこうのって、下ネタを話したがるじゃないですか? 僕そういうのが苦手だから、その話題で盛り上がってる空間って居辛いんです。そんな環境の中で、音楽やってる女の子たちって強くあろうとしてるんです。平気で下ネタに付き合えるように自分を変えたり。なんで女の子たちが頑張って男社会みたいなものに対応して生きるのが当たり前になってるんだろう……マジでくだらねぇな、と思って。これが音楽の世界だったらこっちから願い下げだわ、ってずっと思ってるんです。それでもあの女の子たちは音楽辞めないし、僕たちのところにはカレンちゃんが入ってきて。バンド向いてねぇわと思うけど、待ってくれてるメンバーも、好きだって言ってくれるファンの子もいる。だから自分に自信はないけど、あの子たちが強くあろうとしてるんだったら、自分もやろうかなって思った。そういう歌です。カレンちゃんは『一緒にバンドやりたいです』って言ってくれたんですよ。絶対バンドやるほうが辛いのに。ドラムは叩きたいかもしれないけど、そこが楽しいだけじゃない場所なのも知ってるのに。俺、マジでバンド辞めようとしてたのに、なんで一緒にバンドやりたいなんて言ってくれるんだろうって。その子がやりたいって言ってくれてるんだから、辞めるわけにはいかねぇなって。情けない話だけど、そう思ったんです」
文=金光裕史