2018年はsumikaにとって飛躍の1年だった。テレビや映画館で彼らの音楽が流れるようになり、日本武道館を含むバンド史上最大規模のホールツアーも大成功。その勢いをさらに加速させるセカンドアルバム『Chime』が届いた。今作もゲストミュージシャンをたくさん招き、さらに新しいエッセンスをふんだんに盛り込み、全14曲それぞれがまったく違う表情をしている。それでいながら、一枚の作品としてブレることなく、ちゃんと芯が通っているのだ。バンドが意欲的であると同時に、全員が同じ方向を向いて、一枚岩で作り上げたことがよくわかる。どんなことをしてもsumikaの音楽になる。そんな自信が溢れているし、閉じこもってないで家の外に出ておいでよ、そんなふうに誘い出してくれるような、ワクワクとドキドキが詰め込まれた一枚だ。なぜここまで前向きな作品が作れたのか。本誌に掲載した4人それぞれのソロインタビューの中から、ここでは片岡健太のインタビューをお届けする。バンドと君を繋ぐ、確かな覚悟がここにはある。
(これは『音楽と人』2019年4月号に掲載された記事です)
お忙しそうですね。
「ありがたいことに。今は目の前のことに精一杯なんで、意外と忙しいっていう実感はないんですけどね」
ふふふ。そういうバンドの充実さが新しいアルバムから溢れ出てますが、どういうイメージで作っていったんですか?
「もともと『Chime』っていうタイトルを最初に決めたんですよ。ゴール地点を決めておいたほうが、回り道だったり道草も自由にできるみたいな感じで。着地点がないと、いろんな場所に行けて楽しいけど、結局自己満足になり過ぎちゃうんで」
チャイムっていうワードはどこから?
「前の『Familia』は、sumikaをずっと大事にしてきてくれた方に対して、『お帰りなさい』や『行ってらっしゃい』って言える場所になれたらっていうことをテーマに作ったアルバムで。そういうスタンスでツアーも廻って、やってきたことは間違いじゃなかったなって思えたんですけど、今回は、『Familia』の時の気持ちを大事にしながらも、自分たちの足で、sumikaに関わってくれる人の家のチャイムを鳴らしに行こうっていう思いがあって」
こちらから会いに行こうと。
「去年1年で自分たちの曲がいろんな人に届いてるなっていう感覚を持てたことが大きくて。一番わかりやすいのは自分の親からの連絡が増えましたね。『テレビで曲流れてたわよ』みたいな(笑)。自分たちの音楽に足がついて外に歩き出して届いてるんだって実感できた。今ならちゃんと自分たちの足でも会いに行けるっていう自信が生まれてきたんですよね。それは去年のいろんなプロジェクトを経てメンバー間の結束が高まったり、スタッフチームがパワーアップしてたり、新しいスタッフが入ってくれたことで足りなかった部分を補えたからこそなんですけど」
前はそこまで確信的に思えてなかった?
「そうですね、まずは外に行くより家の中のことをしっかりやろうっていう。sumikaのメンバーって、人を誰でも彼でも信じられる属性じゃないと思うんですよ。信じるにはけっこう時間がかかるんで。だけど『Familia』のツアーを経て、やっと人間を信じられるようになったというか(笑)。バンド組んだところから考えるともっと長い時間なんだけど、一段上がってはその人の雰囲気を見て、また一段上がっては癖を見てって、ひとつも見逃さずに身近な人たちと向き合えたので、今のチームでなら家から出ても大丈夫かなと」
そういう信頼感は、アルバムからとても感じます。ここまで幅広い楽曲をやるのって、周りを信じられてないとできないと思うので。
「うん。去年はホールとライヴハウスでツアーを廻って、やっぱりあれだけの日数を一緒に過ごすと、スタッフとかメンバーっていう垣根を超えて、どんどん家族に近付いていく感覚はありますからね。今のメンバー、スタッフチームとの関係性があるからこそ、この14曲が並んだなと思います。小さいことかもしれないですけど、例えば、言葉を矢継ぎ早に叩き込むような曲って、大きいライヴ会場だと言葉が重なったりして飽和しちゃう可能性があるじゃないですか。10曲目の〈Flower〉みたいな細かい譜割で歌詞を叩き込むってリスキーだと思うんですよ。だけどライヴ制作のチームを信じているからこそ、こういう曲も今のアルバムに入れられたので。その自信や信頼がないとできなかったと思う」
だからこそ「Familia」みたいな曲も生まれるわけですよね。片岡さんがここまでストレートに永遠を歌にするなんて、意外でした。
「やっぱり、前作のアルバムを作った時とはまた違うスタッフも入ってるし、この2年弱の間でsumikaを知ってくださった方も多くいると思うんで。そういう人たちにもあらためて、たとえ他人でも家族になれるんだよっていう気持ちを伝えたいなと思って。生まれて目の前にいる――父親、母親、兄弟、姉妹じゃなくても、自分が選んだ人とは家族になれるんだなっていう気持ち。血が繋がってなくても、心と心で繋がれる感じ。それは『Familia』を作った時よりも、今のほうがものすごく研ぎ澄まされてきていて。それが対sumikaじゃなくてもいいんですよ、聴いてくださった方にとっては。恋人でも友達でも。ただ、大事だなって思った人とは、家族になれる可能性があるし、なったらなったで人生が楽しくなるなっていうのは間違いなく言い切れるので」
どう楽しくなりますか?
「泣いたり笑ったり本気でできるようになりますね。大人になっても本気で泣けるし、本気で悔しくなるし、本気で笑える。それは家族と思える人と一緒にいるからだなって思う。結婚して家庭を持ったりすると、笑いの質が変わるとか言うじゃないですか」
感覚が変わるって言いますよね。
「それってどういうことか僕はわからなかったんですけど、今だったらこういうことなのかなって思えるんです。だから今、大家族が羨ましいなと思っていて(笑)。もちろん人数が少ないからいけないってことはないんですけど、やっぱり1人より、2人のほうが嬉しいし、3人いたらもっと嬉しいっていう。悩みもあるだろうけど、それよりも圧倒的に幸せだなとか満たされるなって気持ちのほうが強いので。こういう感情を持って、人と接していけたら、これから先の人生もっと楽しくなるんだろうなってことは言っておきたいなって」
さっきおっしゃってましたけど、片岡さんはどこか人をすぐに信じられなかったり、永遠なんてないだろみたいな感覚を持ってる方じゃないですか。だからこそ、ここで唄っている永遠とか人と人との繫がりって、覚悟を感じるというか。
「まあ、これは僕の願いでもありますけどね。結論から言っちゃうと永遠なんてものはないんですよ。ないんですけど、生きてる限りはずっと一緒にいたいっていう気持ちなんですよね。そこで全世界の人とっていう考えも、僕はまったくないんで……。自分が大事にしたい人だったり、自分たちの音楽に触れてくれる人とは、おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいたいし、その人に家族や子供ができたら、その幸せがずっと続いてほしいなって、今は本気で思えてて。sumikaを組む前とか、そんなこと思ってなかったんで(笑)。今振り返ると、この感覚を知らずに人生を終えてたら、きっと一生後悔しただろうなって思いますね。だからこの感覚を、5年経っても、10年経っても忘れないように、曲にして残しておくっていう」
永遠なんてないってわかってるけど、それでも願ったり歌にして残したいと思うほど、大切な人や時間、感情が増えてきたっていうことですよね。
「増えちゃいましたね~。大事な人が増えれば増えるほど人間って弱くなるなって思うんですけど、そういう意味では前より弱くなりましたね(笑)。この人に言われちゃったらなぁ……っていう人がいっぱい思い浮かぶようになったんで。その人がいなくなったら僕は泣くし、その人が辛い顔をしてると僕も辛くなるし。でもそう思える人がたくさんいるっていうのは、本当に幸せだなって思いますね」
文=竹内陽香
撮影=神藤 剛
ヘアメイク=URI
※『音楽と人』2019年4月号には、メンバーそれぞれのインタビューを掲載中!