昨年3月より食道ガンの治療に専念するため活動休止をしていた武藤昭平(勝手にしやがれ、武藤昭平 withウエノコウジ)が、自身の50歳の誕生日である12月28日に下北沢GARDENで行われたライヴ〈武藤昭平50誕生祭 ~SMILE~〉で完全復活を果たした。
勝手にしやがれ、武藤昭平 with ウエノコウジのステージを軸に、さまざまなゲストを迎えて進められたこの日のライヴ。アルバム『JUST ANOTHER DAY』の制作に参加した藤井一彦(THE GROOVERS)、堀江博久を迎えて本来なら昨年5月に行われるはずだった武藤ウエノのバンドセットでのステージもようやく実現し、また闘病中の彼の空席を埋めるため各地のライヴに参加した、百々和宏(MO’SOME TONEBENDER)、佐々木亮介(a flood of circle)、渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)らも駆けつけ、武藤の復活に華を添えた。そして、ドラムに歌にギターにとずっと出ずっぱりの武藤だったが、久々の3時間近いライヴにも関わらず、終始、この日集まったミュージシャンやオーディエンスらとの再会を心の底から楽しみ、喜びを全身から漲らせながら活き活きとステージに立っていた。 まさしく〈完全復活〉を遂げた、この日のライヴ本番前に行った復活インタビュー。3月からは、ツアーを飛ばしてしまったお詫びと、これまで待ってくれていたお礼をするために、武藤昭平with ウエノコウジで全国各地の酒場を廻り、歌を届けにいくという。2019年は病人扱いしない、と誕生祭ライヴの打ち上げでスタッフも言っていたが、勝手にしやがれも含め、今後精力的にライヴ活動をしていくであろう武藤昭平の元気な姿を、ぜひどこかで目撃してもらえたらと思う。武藤さん、本当におかえりなさい!
「(おもむろに帽子を脱ぎ)髪も徐々に元に戻ってきまして(笑)」
おお! スタッフの方から、抗がん剤の影響で一時期まるっきり髪が抜けたという話も聞いてましたが、ほぼ以前と変わらない毛量じゃないすか。
「まあ、毛髪も人間も生まれ変わって(笑)、50代を迎えますっていう感じですかね」
はい(笑)。今日の誕生祭ライヴで完全復活となるわけですが、ライヴ前にお時間いただきありがとうございます。
「こちらこそありがとう」
2018年、武藤さんにとってかなり激動の1年でしたよね。
「2018年の漢字が〈災〉だったでしょ。まさしく俺の1年もそうだよね。あはははは」
こうやって笑って話せることが、何よりも喜ばしいことではあるのですが(笑)。
「そうだね。でもやっぱ参りましたよね、正直」
3月に闘病のための活動休止を発表されたわけですが、前の年の暮れぐらいから異変はあったんですよね。
「まあ異変と言っても、ちょっとした違和感があったくらいで。ただ喉を使う商売をやってるから人より敏感だったし、それで気づけたのはあったよね。周りでポリープの手術した人間も何人かいたし、武藤ウエノの長いツアーが始まったばかりなのにポリープできてたら……と思って早めにやれることはやっておこうっていうので検査してもらったんだけど。そしたら、喉じゃなくて食道、しかもちょっと大変なことになってしまったというね」
それが、2018年の3月上旬のことで。武藤ウエノの新譜『JUST ANOTHER DAY』がリリースされて、そのプロモーション活動をしながらツアーもスタートした時期でしたよね。
「その日、昼過ぎから収録があって、夜にもラジオの生放送が入ってたから、朝イチで病院に行って検査受けたら、先生の顔色が変わって『今から大きい病院に行けますか?』って言われてね。いやいや、このあと仕事入ってるんで、って返したら『武藤さん、たぶん食道にガンがありますね』っていきなり言われて。ええっ!?っていう(笑)」
その診断を受けて、収録の前にウエノさんとスタッフに告げたんですよね。で、そのまま夜の生放送はどうにかするから、すぐ大きい病院に行ってくれと言われ。
「そうそう。そこで『今すぐ入院してもらったほうがいいです』と言われて。でも武藤ウエノのツアーが7月まで続くし、『何かしらの治療をしながら7月末に入院じゃダメですか?』って聞いたら『命に関わりますよ』って即答されて。このままほっといたら、すぐにご飯が飲み込めなくなって、水も飲めなくなりますよと」
それだけ食道のがん細胞が大きくなってたと。
「体力も落ちてガン治療どころじゃなくなるし自殺行為ですねって。『夏までもてばいいですけど』とも言われて、どーしようかなぁ……って」
いきなり〈ガン〉という2文字を告げられても、なかなか実感って湧かないものかなと思うのですが。
「もしそれを言われたら死ぬ時なんだろなとは思ってたけど、いざ実際に言われてみるとねえ……同じ歳の友達だったり、親父や同世代の先輩ミュージシャンがガンで亡くなってて、〈死〉というものを身近に感じて考えるようになったところで、俺かよ!とは思ったよね」
まさか自分が、と。
「で、亡くなった友人は同じ食道ガンで、手術してある程度復活したけど、やっぱ食道をとって胃袋を喉まで繋げているから元のように食べれずで。それで免疫力が低下して再発して亡くなってしまって。で、親父がガンになって、どういうふうに弱々しくなっていったのかも知ってるから……手術とかいろいろ治療しても助かる見込みがないなら、死ぬ覚悟で決まってるツアーはやらしてくれっていう選択肢もあるかもなって。今ある曲だけでも無理矢理にでもレコーディングしたいとか。いつダメになるかわからない、でもギリギリまで頑張って生きたよってことをしたいなとか」