【LIVE REPORT】
マカロニえんぴつ〈マカロックONLINEワンマン〜豊洲から愛を込めて〜〉
2020.09.03 at 豊洲PIT（無観客生配信ライヴ）
目に見えない人。遠くにいるあなた。どうしているかも、何をしているかもわからない。でも、どこかわかり合えた気がした。きっとみんな同じ気持ちだったはずだ。この日、マカロニえんぴつが鳴らした愛が、遠く離れた場所と場所、人と人を繋ぎ合わせてくれた。その関係はこれからもずっと変わることはないだろう。
アルバム『hope』を引っさげたツアーが開催見合わせとなり、そのツアーファイナルを予定していた豊洲PITで行われた無観客生配信ライヴ。バンドにとってワンマン史上最大規模の会場は、本来であればお客さんでいっぱいになるはずだったが、この日はがらんどう。それでもこの場所でライヴするのは、誰もが楽しみにしていた日をみんなで迎えよう。この日に後悔や無念を残さないようにしよう、という思いだったのではないだろうか。
時間になって映像が切り替わると、円陣を組んだメンバーがステージに向かい、紗幕越しに４人のシルエットが映る。1曲目はストリングスの壮大な音色から始まる「hope」で、バンドの音が重なると紗幕が落下。〈手を繋いでいたいのだ／僕らは結局 それぞれだったよね／それでも、それでも／君が好きだ〉と、はっとりがデカイ口で唄う。目の前に誰もいない状況の中、それでも「君が好きだ」と必死に伝える姿は、いつもよりも力が入っている様子だが、この日にかける思いを強く感じる。
最初はシンプルな照明でメンバーのアップが多かったが、3曲目「トリコになれ」以降はステージ後方に設置されたスクリーンに映像が投影され、カメラもグッと引いてステージ全景を映す。温もりあるギターが広がる「ワンルームデイト」では、外を望む窓が映し出され、昼から夜へと時間が流れるような照明演出。映像とライティングによって、曲の情景が彩られる。「ブルーベリーナイツ」の前のブルージーなセッションからソロで繋いだ場面を見てもあらためて思ったが、音大出身の彼らは、高い演奏力とどんな曲も自分たちのものにしてしまう豊かな表現力を備えている。今回、そこに空間を活かした演出が加わったことで、ポピュラリティーが増し、より広く大きな場所で演奏するマカロニえんぴつを、容易に想像させてくれたのがうれしかった。
フロアに用意されたグランドピアノを使って披露された「春の嵐」「ハートロッカー」は、楽曲制作においても、何か面白いことができないか、と積極的に探求する彼ららしさがあったし、まるでスタジオで遊びながら音楽を鳴らすように、自由に動き回るメンバーたちからは、バンドが、音楽が好きなんだという思いが溢れていた。その楽しさのピークとも言えたのが「洗濯機と君とラヂオ」。ベースの高野が陽気なステップを踏み、気持ちよさそうに長谷川はキーボードを弾き、ギターの田辺もいい笑顔だ。それでも、その曲のあとに、はっとりはこう言った。「物足りない」「悔しいな」と。
はっとりが作る曲、マカロニえんぴつが鳴らす音楽には、「愛したい／愛してほしい」「必要とされたい／必要としたい」という、執着とも言えるほどの感情が込められている。でも不器用だから、うまく思いを伝えられなかったり、上手に生きれなかったり、いつもどこかに後悔や絶望がついて回る。「本当の意味ですがってくれる人がいてくれればそれでいい」というのは以前インタビューした時のはっとりの言葉だが、そういう人たちと心の傷を舐め合うように、お互いの痛みを分かち合うために、マカロニえんぴつの音楽はあるのだ。
「好きなものだけは手放すな」「聴いてくれる人、観てくれる人はいつもどこかにいますから」と続けたはっとり。8年間地道に続けてきて、やっとたどり着いた豊洲PITという大会場。そこに愛してくれる人、愛したい人はいない。けれど、どこかで必要としてくれる人は必ずいる。そう思えたのは、たくさんの愛を伝えたりもらったりしながら、今のマカロニえんぴつがあると実感できたからだろう。好きなもの（人）を手放さないためにも、後悔しないように音楽を鳴らし続ける。それが今のバンドにできることなんだ。
「絶望の裏側にある希望を、あなたが見つけ出してください」と言って唄われた「ヤングアダルト」。〈僕らに足りたいのはいつだって／才能じゃなくて愛情なんだけどな〉〈誰も知らない優しい言葉で／あの子の孤独を殺せてたらな〉〈明日もヒトでいれるために愛を探してる〉。世の中がこんなことになるなんて想像していなかった頃に作られた曲なのに、こういう日のために作られたかのように歌詞のひとつひとつが、画面の前でひとりぼっちでライヴを観ている今の状況に響いた。ドラマチックでエモーショナルな演奏が耳の中に広がる。寂しいのは、辛いのは、孤独なのは自分ひとりじゃない。愛を強く求めるマカロニえんぴつの曲を聴くとそう思えるし、そう思えることが、なによりも希望になる。遠く離れているからこそ、この日はいつもより強くそれを感じた。たしかに、画面の向こうとこちらは音楽で繋がっていた。
最後、告知されていた重大発表として、2020年11月4日にファーストEP「愛を知らずに魔法は使えない」をトイズファクトリーからリリースすることが発表された。遠く大きな存在になるのではなく、聴いてくれる人の「もっと近い逃げ場所であるため」に、彼らはメジャーという場所へ行く。最後はバンドとファンの関係を唄った「OKKAKE」。これからのマカロニえんぴつは、もっと大きな会場でライヴするようになるだろうし、ライヴハウスだけではなくお茶の間でも聴かれるようになるだろう。でも、〈ずっと歌っていてあげるね〉〈ずっと歌っていてくれよな？〉という歌詞は、〈本当の意味ですがってくれる人〉との約束だった。遠く離れていたって繋がれる。音楽と愛があれば、必ず。
文＝竹内陽香
写真＝ヤオタケシ
【SET LIST】
01 hope
02 遠心
03 トリコになれ
04 girl my friend
05 ワンルームデイト
06 溶けない
07 ブルーベリー・ナイツ
08 恋人ごっこ
09 春の嵐
10 ハートロッカー
11 愛のレンタル
12 洗濯機と君とラヂオ
13 ヤングアダルト
ENCORE
01 OKKAKE
MAJOR FIRST EP「愛を知らずに魔法は使えない」
2020.11.04 RELEASE
■初回限定盤 CD＋DVD
■通常盤CD
〈CD〉 ※初回限定盤、通常盤共通
「生きるをする」（アニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」オープニング主題歌）
「溶けない」（グリコ「セブンティーンアイス」WEB CMタイアップソング）
他4曲／全6曲収録
〈DVD〉 ※初回限定盤のみ
マカロックONLINEワンマン〜豊洲から愛を込めて〜
（LIVE映像を完全収録、さらに特別LIVE映像を2曲追加収録）
『愛を知らずに魔法は使えない』特設サイト http://macaroniempitsu-mahou.com/
マカロニえんぴつ オフィシャルサイト http://macaroniempitsu.com/
