【LIVE REPORT】
SKY-HI〈We Still In The LAB〉
2020.06.17(無観客ライヴ生配信)
「世の中は息苦しいものなのかもしれない。だけれども自分のことを愛してほしい。そのための息抜き、そのための心を育てるもの、そのために愛を交換しあうツールとしてエンターテインメントや芸術は常にあるべきだと思うし、俺はその誇りを持って今後もやっていきます」
8年前、初のワンマンライヴを行った日である6月17日。本来なら、これまでのキャリアの一つの集大成、また音楽と人7月号のインタビューでの彼の言葉を借りるならば「偶像としてではなく人間として評価してもらうラストチャンス」という位置付けとなるベストアルバムが発売され、そのリリースパーティーをこの日、初ワンマンと同会場で行う予定だった。だが、ベストアルバムのリリースが9月23日に延期となり、当初予定されていた形ではなく、無料生配信という形で行われたライヴ。そのアンコールラストで、SKY-HIこと日高光啓はそう語った。これまでの道のりの中で掴んだ思いと今伝えるべきメッセージ、そしてこれからへの強い決意が込められたライヴとなったのだった。
「OKはじめようか」という声を合図に、覗き穴のようなアングル越しの映像と、フィンガースナップのビートに合わせたフリースタイルラップによるオープニングから、メジャー・ファーストシングル「愛ブルーム」でスタート。SKY-HIという存在をオーバーグラウンドへと表出させた楽曲から「スマイルドロップ」へとつなげていく。ここから、新旧織り交ぜたナンバーをDJ HIRORONが繰り出すトラックやビートにのせてノンストップで11曲披露した前半。
「Doppelganger」から「フリージア」の流れでは、偏見や嘲りを受けることによって生まれた葛藤や自問自答が、「ネガティヴなことが消えないのは確かだ。でもそこから目を背けるものを俺はエンターテインメントだとは思わない」というメッセージを挟んだあとの「Name Tag」からのセクションでは、先入観やバイアスのかかった視点による揶揄や攻撃に対する怒りや憤り、闘争心が、カットアップされたリリックから鮮烈に浮かび上がってくる。まさにこの8年のSKY-HIがたどってきた道のりであると同時に、コロナ禍によって世の中に充満するネガティヴな空気が誘引したのであろう、ネットリンチや差別問題が表出している今を生々しく表現しているような、そんな気がしてハッとする。
日本語ラップのオリジネーターのひとりであるECD の「ECDのロンリーガール」とのマッシュアップで届けられた「Young Gifted And Yellow」(この曲のオリジナルトラックはRHYMESTERのMummy-Dによるもの)が終わっても止まないビートの中、「俺たちが、どこから来たか教えよう」という言葉とともに、初ワンマンにも参加したラッパーKEN THE 390とTARO SOULが登場し、8年前と同じ選曲でまるで当時を再現するかのようなステージに。ただ、3人がソーシャルディスタンスを保ったままパフォーマンスしているのはあの頃と違うのだが。また8年前と同様、6月17日が誕生日であるKEN THE 390へのサプライズもこれまた成功し、「Lego!」へ。まだアンダーグラウンドで活動していた頃からSKY-HIを知る2人との邂逅は、この日のライヴタイトル〈We Still In The LAB〉にあるように、あの頃の気持ちと変わらずに今もあるということを、また人との繋がり、共に何かを行う楽しさを確認する、そんなタームとなった。
「改めて出会いに感謝!」という言葉とともにゲストの2人を送り出し、ふたたびDJ HIRORONと2人きりとなっての後半戦。鍵盤の前に座り、「ネガティヴな要素が増えているからといって、楽しむことは罪じゃない。楽しむことって生きてる人間の特権なんだから」と前回の自宅ワンマンでも繰り返していたメッセージを改めて口にした。その言葉に込めた思いを、逆説的に伝えるかのように〈死んでしまった友達の歌〉である「Luce」をプレイ。さらに「そこにいた」、「アイリスライト2020」を鍵盤で弾き語り、ラップだけではなく、歌の表現力の高さをみせつけ、死や心の奥底をみつめることによって生を求め、前を向くことを見出す、SKY-HIの表現の根底にあるものを提示していった。そして、STAY HOME期間中に、彼のライヴクルーであるSUPER FLYERSの面々とリモートセッションで完成させた「#Homesession」をロングヴァージョンで披露したのだった。
新作MVを挟んで、「カミツレベルベット2020」から始まったラストスパート。そこから続けざまにライヴチューンを3曲連続投下し、普段ステージとして使われている場所も含めたフロア中を自由に駆け回り、画面の向こうのオーディエンスを煽っていく。本編を終え、少し開放されたのか、オンラインだからこそ可能なリアルタイムの投票形式で事前に用意された4曲の中から選ばれた「Blue Monday」では、フロアに寝そべったり、スタッフから渡された投票結果の紙をチラ見せしたりと、実に屈託のない姿をみせていたのだった。
また、8年前はオーディエンスで埋め尽くされていたフロアをステージとし、その広い空間を縦横無尽に動き回りながらキレのよいダンスをみせる彼自身と、そんな彼を追うカメラワーク。随所に入れられた画像エフェクトによって、観ている側にもライヴならではの躍動感やドラマ性を伝えていった。5月に行われた自宅ワンマンでも、ショウアップするには難しい自宅という空間を逆手にとり、シンプルかつ親密な空気の中で音楽を発信していたのだが、今回もまた、制約のある状況を逆手にとった魅せ方をしていた。逆手にとる、ひっくり返す。それはこの8年の間にいろんなことをひっくり返し続けてきたSKY-HIだからこその発想力の賜物といえるだろう。
「Blue Monday」に続き、「Thanks To You」「I Think, I Sing, I Say」で、愛と感謝を表わし、この日のラストナンバーとなる「Marble」へ。フロントに〈NO HATE〉、バックに〈MORE LOVE〉とプリントされた黒地Tシャツの彼の姿と、この日放ち続けてきたネガティヴをみつめ、ポジティヴなものにひっくり返していくためのメッセージの数々が、この愛に溢れたラストナンバーへと集約されていく。曲のラスト、画面の向こうでこのライヴを楽しんだ多くの人たち、またライヴに携わったスタッフたちへの感謝を述べたあと、冒頭に挙げたこれからの決意の言葉を真摯に伝えた。そして最後に、両手を広げターンし、背中の〈MORE LOVE〉という文字が画面に写し出されたと同時に配信が終了するという見事な幕引きとなった。
8年前、〈Welcome To The LAB〉と銘打って初ワンマンを行ったSKY-HI。ここから彼の実験は始まった。最初は、自身に向けられたネガティヴなものをポジティヴにひっくり返していくための実験だったかもしれない。しかしその中で得た確信をもとに、今の彼は、自分と似たような人たちの人生をひっくり返すための実験を続けているような気がする。さらに、今、コロナ禍によって既存のエンターテインメントが提供しづらくなっている状況の中、いかに新たなエンターテインメントのスタイルを生み出していくか、というテーマも彼の実験室には加わったようだ。
7月には、有料配信という形でのオンラインライヴを開催する。3月に開催されるはずだったライヴハウスツアーのリベンジとして、この日のライヴにも参加しているDJ HIRORONに加え、SUPER FLYERSのドラムとギターによる〈SUPER FLYERS SQUAD〉と一緒にステージに臨むという。次は果たしてどんなパフォーマンスをみせてくれるのか、これもまた楽しみだ。 We Still In The LAB――8年前と変わらぬ気持ちのまま、これからもSKY-HIの実験はまだまだ続く。
文=平林道子
写真=ハタサトシ
【SET LIST】
01 愛ブルーム
02 スマイルドロップ
03 Chit-Chit-Chat
04 Doppelgänger
05 Persona
06 何様
07 As A Sugar
08 フリージア
09 Name Tag
10 Walking On Water
11 Story Of J
12 F-3
13 Young Gifted And Yellow
14 What's Generation (feat. KEN THE 390)
15 PONR (feat.TARO SOUL)
16 Critical Point(feat. KEN THE 390、TARO SOUL)
17 Lego! (feat. KEN THE 390、TARO SOUL)
18 Luce
19 そこにいた
20 アイリスライト2020
21 Don't Worry Baby Be Happy
22 #Homesession
23 カミツレベルベット2020
24 Double Down
25 Snatchaway
26 Seaside Bound
27 Blue Monday(投票曲)
28 Thanks To You
29 I Think, I Sing, I Say
30 Marble
information
初の試みとなる有料配信LIVE開催!!
有料配信LIVE 「Round A Ground 2020 -RESTART-」
日付:2020年7月19日(日)
詳細は、後日発表。
DIGITAL SINGLE「カミツレベルベット 2020」
2020.06.17 RELEASE
01 カミツレベルベット 2020
Download/Streaming https://sky-hi.lnk.to/kamitsure_pre
BEST ALBUM『SKY-HI's THE BEST 』
2020.09.23 RELEASE
【形態】
CD3枚組
LIVE盤
お名前入り受注生産限定盤
【収録内容】
CD
DISC1 : POPS BEST
01 カミツレベルベット 2020 ※New Version
02 Snatchaway
03 Blanket ※再Vo.REC
04 キミサキ ※再Vo.REC
05 創始創愛
06 アイリスライト 2020 ※New Version
07 愛ブルーム
08 スマイルドロップ '16
09 Chit-Chit-Chat
10 朝が来るまで
11 Seaside Bound ※再Vo.REC
12 Over the Moon ※再Vo.REC
13 クロノグラフ ※再Vo.REC
14 そこにいた ※新曲
15 Marble
16 ナナイロホリデー
DISC2 : RAP BEST
DISC3 : COLLABORATION BEST
※全品番共通
◆RAP BEST, COLLABORATION BEST 収録楽曲は追って発表します
DVD/Blu-ray
SKY-HI Round A Ground 2019 ~Count Down SKY-HI~(2019.12.11 @ TOYOSU PIT)
※全品番共通
MUSIC VIDEO集&オリジナル特典映像(副音声/SKY-HIによるMUSIC VIDEO解説)
※AVZ1-96497~9/B~E, AVZ1-96500~2/B~Cのみに収録
ご予約はこちらから→https://avex.lnk.to/SKY-HIs_THE_BEST
SKY-HI オフィシャルサイト https://avex.jp/skyhi/