【LIVE REPORT】
PEDRO「GO TO BED TOUR IN YOUR HOUSE」
2020.06.14(無観客ライブ生配信)
ライヴが始まった瞬間から終わりに向かうに連れて、解き放たれるようにアユニの表情や歌声が伸びやかになっていくのが印象的だった。BiSHのアユニ・DによるPEDRO初の無観客ライヴは、音楽やライヴが、アユニ自身にとってどういう存在なのかを、あらためて見せつけられるようなライヴとなった。
4月29日にEP「衝動人間倶楽部」をリリースしたPEDRO。新作にあわせて予定されていた全国ツアーが中止となり、クラウドファンディングが行われ、当初の目標金額を大幅に上回る支援金によって無観客ライヴが実現した。会場はツアーファイナルを予定していた新木場スタジオコースト。PEDRO単独としては過去最大規模の場所で、バンドセットでライヴするのは約7ヵ月ぶり。BiSHで2月に無観客ライヴを経験してるとはいえ、普段とは違う雰囲気が漂う中でのプレイだ。
始まりは紗幕に映る影と日常を切り裂くような轟音から。パッと紗幕が落ちると3人の姿が顕わになり、ローファイなサウンドとともに、アユニが「WORLD IS PAIN」を唄い出す。が、彼女の声が震えている。声にかかったエフェクトでそう聴こえるだけかとも思ったが、張り上げた声もノドがしまっているのか苦しそうで、顔もどこか不安の色が滲む。久々のライヴで、身体が硬くなっているのだろう。
「猫背矯正中」「玄関物語」と続くが、なかなか歌が安定しない。よく考えれば、彼女がベースを手にして、バンドとして始めてステージに立ってから2年ほどしか立っておらず、届けるべき相手が目の前にいないという特殊な環境に戸惑うのも無理はない。真面目な彼女のことだから、クラウドファンディングで支援してくれた人たち、このライヴを実現してくれたスタッフ、一緒にステージに立ってくれる2人――自分を支えてくれる人たちに対して、何ができるのか、どうあるべきなのか、そういったことを考えすぎる場面もあったかもしれない。そんなアユニを支えるように田渕ひさ子の野太いギターと毛利匠太のパワフルなドラムが炸裂し、ヒリヒリとした緊張感ある演奏が序盤は続いた。
一方、ステージ後方に設置された巨大スクリーンには、映像ディレクターの山田健人による演出が展開。「猫背矯正中」でアユニの目からビームが飛び出したり、「STUPID HERO」「アナタワールド」でサイケデリックな映像が投影されたりと、強烈なインパクトでライヴの世界観を彩っていく。
メンバーと演出が作り出す空気に背中を押されたのか、8曲目の「ハッピーに生きてくれ」の頃には、アユニも堂々とした顔つきで低音を響かせ、〈マジでつまんねえなあ〉と伸ばした声にもグッと感情がこもり始める。その後の「うた」は、間違いなく前半のハイライトだった。内省的な歌詞に込められたひとりぼっちの憂鬱と〈叫んでみるよ どうにかなれ〉というフレーズが、無観客のライヴハウスで声を張る今のアユニに重なる。アウトロの田渕のエモーショナルなギターにアユニのベースが合わさると、それはPEDROというひとり人間の叫びのようにも感じられた。
後半は、自分を解放するように、好きな音楽を自由に演奏していくアユニがいた。「衝動人間倶楽部」の中でもとりわけロマンチックで情緒的な「生活革命」は、アユニの切なさを含んだ歌声に寄り添うように2人が優しく音を紡ぎ、〈ひとりで四角い部屋に収まってたけど/君となら宙を舞いどこへでも行けた〉というフレーズに合わせてLEDスクリーンに花火が打ち上がる。いろんな人と出会い、自分の世界を広げてきたアユニが描いた歌を、ライヴという場所でまたいろんな人と一緒に形にした瞬間に胸がぎゅっと締めつけられるようだった。
「無問題」のアグレッシヴさ、「ゴミ屑ロンリネス」のささくれだったつぶやき、「感傷謳歌」のポジティヴィティ――曲を通してひとつひとつ自身の殻をやぶるように感情を解放していくアユニ。前半は彼女を引っ張るようだった田渕と毛利も、アユニの感受性豊かな歌に乗っかり、時に胸ぐら掴むようにギターをかき鳴らしたりと、伸びやかなプレイが曲に色をつけていく。フロンマンのアユニがアユニらしくいられるようになったことで、メンバーとのグルーヴが生まれ、PEDROが一番輝く瞬間になっていた。PEDROはアユニ・Dのソロプロジェクトであり、同時に3人で成り立つバンドになっていると感じられる。
「ここに来るまでいろいろ思うことも考えることもあったんですけど、ライヴしてる瞬間は何も考えなくてよくなって、ライヴってすごく気持ちいいなと思いました」
「皆さんこれからも強く生きてください。私もなんとか強く生きていきます」
ライヴ終盤、アユニが一生懸命に今の思いを伝えると最後の「NIGHT NIGHT」へ。やはりいろいろ考えていたんだな。アユニ、田渕、毛利と順番に画面が切り替わり、目配せをし合う3人は、少し微笑んでいるようにも見える。つきものが落ちたようにベースを鳴らすアユニ。自分のことが嫌いで、世の中はつまらないことだらけだと思っていた彼女はBiSH、PEDRO、そして音楽を通して、自身の喜怒哀楽に気づき、生きていることに希望を見出していった。この日もアユニに自由と強さを与えたのはやはり音楽だった。純粋さと情熱を持って彼女が音楽と向き合うことこそが、メンバーやスタッフ、そして我々の心を打ち、PEDROというものを作り上げていく。アユニのそばに音楽があって本当によかった。ライヴを見終わって、あらためてそう思ったのだった。
文=竹内陽香
写真=外林健太
【SET LIST】
01 WORLD IS PAIN
02 猫背矯正中
03 玄関物語
04 STUPID HERO
05 アナタワールド
06 GALILEO
07 ボケナス青春
08 ハッピーに生きてくれ
09 SKYFISH GIRL
10 MAD DANCE
11 うた
12 ラブというソング
13 NOSTALGIC NOSTRADAMUS
14 生活革命
15 おちこぼれブルース
16 無問題
17 自律神経出張中
18 ironic baby
19 ゴミ屑ロンリネス
20 甘くないトーキョー
21 感傷謳歌
22 EDGE OF NINETEEN
ENCORE
01 Dickins
02 NIGHT NIGHT
FIRST EP「衝動人間倶楽部」
NOW ON SALE
01 感傷謳歌
02 WORLD IS PAIN
03 無問題
04 生活革命
〈LIFE IS HARD TOUR〉
9月3日(木)@名古屋・DIAMOND HALL
9月4日(金)@大阪・なんばhatch
9月8日(火)@広島・LIVE VANQUISH
9月9日(水)@高松・オリーブホール
9月11日(金)@福岡・DRUM LOGOS
9月16日(水)@仙台・RENSA
9月18日(金)@札幌・PENNY LANE24
9月22日(火・祝)@新潟・NEXS NIIGATA
9月24日(木)@東京・Zepp Tokyo
PEDRO オフィシャルサイト https://www.pedro.tokyo/