NITRODAYのヴォーカル&ギター小室ぺいが、自身が気になったものを独自の視点で綴っていくWEB連載。今回は、先日発表となった、ぺいくんにまつわる、とある出来事と、そこから彼自身が気づいたことについて。
#15「海の世界」
はじまりは1年ほど前に遡り、前作の『少年たちの予感』のプリプロ(REC前の確認)作業のため、みんなでいつもの月桃荘スタジオにいた。
何度やってもなかなかいいテイクが取れず、時間も目減りしていく一方。部屋のオレンジのライトが重い空気を暖めている。一度気持ちを入れ替えようと休憩をとることにした。
その時だった、一件のメールがバンド宛に届いていることに気がついた。内容は、ある映画のキャストの候補に僕の名前が上がっている、だから一度監督と会って話してみてほしい、とのことだった。驚いた。この僕が、演技できるのか!? ボーイズ・オン・ザ・ランできるのか!? 稲妻に打たれたような気で作業を再開し、終わるころには……雲の上に浮かんでいるような気分だった。
その後、原作の小説をもらったので(いつものように狭いロフトに布団を敷いて)、読み、読み、読んだ。思い出したのは忘れかけていた自分の高校時代だった。
ずっと退屈で、独りで平気なような顔をして、本当は他人に嫌われるのが怖かった。誰かの声が聞こえてくるたびにヘッドホンで耳を塞いで。そこに確かな手触りはなかった。なんのために生きてる? ――その球をずっと空振っていた。自分だけがいるような教室で、ただただ過ぎていく時間に、ぼんやりとさみしかったのだ。結局3年はそのまま経ってしまい、今になる。
全て読み終えた後、心のうちにあったのは彫り出された空白とそこに流れ込む溶けた熱い鉄だった。
それから半年後、いざ始まった撮影では制服を着て、自転車を漕ぎ、ボールを蹴り、そこにいた人たちと色んな話をしたり、話をしなかったりした。その間ほんとうに17歳に戻ったようだった。それはあっという間で流れ星みたいに過ぎていってしまったけど、僕は紛れもなく、もうひとつの高校時代を体験していた。
約数名の一瞬の交じり合い、それはナリヒラ(演じた役名)としてではあるが、確実に、台詞の中に嘘のない気持ちがあったし、シーンとして他人と目があった瞬間が存在した。そこで(仮想的に)生身によって体感し、今改めてパラレルな地点から見つめられるのは、なんというか、海である世界=誰のものでもないようで、誰のものでもある世界だった。流木も、渚も、海鳥も、潮風も、砂もただそこにある。だからこそ、それぞれは時々ぶつかり、傷を分け合い、おだやかな波に浸る。僕もその中にいた。さみしさをぶつけ、やさしさをまき散らす海の中に。重たくなった服は脱ぎ捨て、目の前の温度をかき分けて泳ぎ出す。
そんなような(少なくとも僕にとっては希望といえる)この世界の泳ぎ方を教えてくれたのが『君が世界のはじまり』という作品です。回りくどくなったけど、僕はこの作品が好きです。関わることができてよかったと心から思います。とにかく、ひとまず、祝・公開決定です。この場をお借りして作品の成功を願いたいと思います。
Information
ミニアルバム『少年たちの予感』が発売中。
NITRODAYの楽曲はこちらをチェック→ https://ssm.lnk.to/nitroday
小室ぺいが出演する映画『君が世界のはじまり』(ふくだももこ監督/松本穂香出演)が2020年夏に公開決定!
https://kimiseka-movie.jp
NITRODAY オフィシャルHP https://www.nitroday.com/