最初期に出会い、期せずして同じ釜の飯を食う仲、つまり同じ事務所になって約15年近くとなる怒髪天とthe pillowsによる東名阪ツアー〈B.M. I LOVE YOU〉。これまでお互いの作品への参加や主催ライヴでの対バン、また昨年2月には、山中さわお&怒髪天名義で、コラボレーションEP『グッドモーニング東京』のリリースもあったが、実はスプリットツアーは、今回が初となる。その開催を記念して、両バンドのフロントマン、増子直純と山中さわおの対談記事を再掲載。the pillowsの14thアルバム『Wake up! Wake up! Wake up!』リリース時、2007年6月号の表紙巻頭特集内にて掲載されたこの対話では、主に2人の札幌時代のことが語られているが、30年以上経ってもなお、変わりなき両者の関係性は、7月15日から始まるツアーで、ぜび確認してもらえたらと思う。
(これは『音楽と人』2007年6月号に掲載された記事です)
この特集をここまで読んできた方ならわかるだろうが、ピロウズ、というバンドにとって非常に大きな存在であり、その場面場面においてキーマンだったのは怒髪天・増子直純である。彼の人生そのものが破天荒で、汗と涙と男気にあふれた物語なのだが、ここでは山中さわおという人間像を深く掘り下げるためにご登場いただいた。まだピロウズ結成前夜に、増子が山中に注いでいた優しさは、今、山中が若いバンドを気にかける姿とどこか似ている。
増子さんとさわおくんの最初の出会いは?
増子「ポールタウンっていう札幌の地下街だったよ」
山中「高校の同級生が、専門学校で増子さんと一緒で。あの増子さんと歩いてくるから驚いて。すでに増子さんは札幌で有名で、いろんな恐ろしい情報が飛び交ってるわけです(笑)。絶対に揉めてはいけない人だって」
増子さんはその時のことは?
増子「その時会ってたっていうのは、あとからわかったの。認識するのは、コインロッカー(ベイビーズ/山中がthe pillowsの前にやっていたバンド)観た時だ。最初、新人パンクナイト、だっけ?」
山中「そうですそうです!」
増子「そういうイベントを当時、ブッチャーズ(bloodthirsty butchers)やイースタン(eastern youth)とやってたんだけど、もう新しい世代にイベント任せたほうがいいんじゃねえか、ってことで、デモテープを募ったんだけど、その中の一つが山中のバンドで。一番クオリティ高かった」
ペルシャ(註:ギターの真鍋吉明がthe pillowsの前にやっていたバンド)は、もうちょっと上の世代なんですね。
増子「そう。俺はいまだPeeちゃんに頭が上がらない。多大な迷惑をかけているから。当時のPeeちゃんのバンドはすごくモテるバンドで、なんだよ!って思ってたけど、Peeちゃんのエフェクターだけは壊さなかった(笑)。他にもいくつか嫌な先輩バンドがいて、俺らが襲撃に来るってわかってるから、強いヤツを集めてるんだけど……全部弱かったね」
山中「増子さん、クリーンなイメージが(笑)」
増子「ソフトケースに金属バッド入れて歩いてたね。バーストシティの影響で(笑)」
はははは。でもさわおくんとの関係性は良好で。
増子「当時の札幌は、すごい熱量はあったけど、そんなにクオリティが高いバンドはいなかったんだよ。でも、山中の書く歌詞と曲はすごい良かったから、みんな好きだった。俺も吉野(寿/eastern youth)も大好きだった。よく呑みながら聴いて泣いてた。〈いい曲だなぁ〉って。その頃から何も変わってないよ。嘘がなかった」
山中「すごく僕ら、変な位置にいましたよね。パンクといっても元々ヤンキーのほうにいたし、ノリも違う。でも、最初からすごいかわいがってもらった」
増子「やっぱりいい音楽をやってたからな。ジャンルは違っても、それぞれに尊敬しあう部分が、昔の札幌時代にはあったんだよ。いいものはいい、どんなにいいヤツでもダメなものはダメ。音楽が良くないヤツとは対バンはできないから」
さわおくんがウエケンさん(上田健司/the pillows結成時のメンバー、ベース)に誘われた時、増子さんに相談されたんですよね。
増子「山中が言ってたことは今でも覚えてるよ。メンバーを裏切ることになるんじゃないかって。それは自分にはできないって。でも、それは違うぞ、と。せっかく目の前にやれることがあるのに、裏切る裏切らないはねぇ、と」
背中を押した、と。
増子「コイツには可能性ないなって思ってたら止めたかもしれないけど、曲も良かったし、絶対にチャンスだと。自分たちの仲間からそういうヤツが出るのは誇らしいし、やったほうがいいと思った。当時、俺たちも吉野もヨウちゃん(吉村秀樹/bloodthirsty butchers)も、メジャーでやるなんて一回も考えたことなかったからね。街の嫌われ者で終わるだろう、って(笑)」
はははははは!
増子「それがパンクだと思ってたから(笑)。だけど、山中なら絶対に行けると思ったんだ。たぶん吉野も、ヨウちゃんも、同じ気持ちだったと思う。俺たちの光、というか。こういうシーンにいるヤツが、東京で成功する、って。俺たちも夢見てたのかもなぁ」
山中「増子さん『俺だったらメンバーに土下座しても絶対に行く!』って言ってたけど、あれ本当は嘘ですよね?」
増子「ああ、嘘だよ。絶対に俺は行かない」
山中「ですよね。俺が言われたいのを察して言ってくれた。あれはかなり重要なきっかけでしたね」
増子さんはピロウズの活動を気にしてました?
増子「もちろん。Peeちゃんを紹介した時も、Peeちゃんって優しいからいいかな、と思ったもん。山中ってすごい頑なで真っ直ぐだから、そういう部分で型にはまれる柔らかい人がいいなって思って。上田さんって厳しい人だから。きっと山中とぶつかることもあると思ったから、絶対柔らかい人を入れたほうがいいなって」
ちゃんとバンドをプロデュースしてますね。
増子「バンド名考える時だって参加したんだから!」
山中「え、あの時いましたっけ!?」
増子「いたよ。俺はホワイツっていいと思ったんだ」
山中「あ、そうだ! 俺すげぇいいと思ったんだ! 今、思い出したよ! 正直、ピロウズよりもホワイツのほうがいいかもって、ちょっと今思った(笑)」
でもバンド名決める時って、普通メンバーだけで決めますよね。
増子「そう。なぜか俺、いる(笑)」
山中「まだPeeちゃんと馴染んでなかったから。会ったの4回目だったし」
ピロウズは東京でけっこう苦闘している部分が長かったじゃないですか。
増子「時間はかかると思ってた。山中の性格上ね」
山中「ははははははは」
増子「絶対うまい話に飛びつかないから、どんなバンドよりも時間がかかるだろうと。だけどどの音源を聴いても、ずーっと山中は山中だったから、これは絶対わかると思ったね。ちゅうか、リスナーがその存在を知らないだけなんだ、とね。だから時間はかかるだろうけど、いつかは理解されるし、みんなに支持されるものになる。共感じゃないからね。ピロウズを好きになるのは、山中さわおの人格を受け入れるってことだから。他のバンドみたいな共感じゃない。山中と実生活で会った時にも友達になれるかどうか、ってとこがピロウズは大事なんだ。それには時間がかかるからさ」
なるほど。
増子「結局音楽って人間がやるもんだから、人間が面白くないと絶対に面白い音楽はできない。やっぱりすごい面白かった。山中の考え方自体が。誰よりも頑なだった。大丈夫か、おい、っていうぐらい真っ直ぐだった。上京する時に迷うところも、山中だなって思う。自分が誰かにひどいことをしてしまった経験、あるでしょ。それを素直に言える人間ってなかなかいない。涙ながらにね。俺、牧師じゃないから、懺悔されてもって感じだけど(笑)」
ははははははは。
増子「人間的に真っ直ぐで、鋭いんだけどかわいげがある。チャーミングで人間味がある。すごい魅力的だよ。だからピロウズも面白いに決まってんだ」
文=金光裕史
怒髪天 × the pillows〈B.M. I LOVE YOU〉
2022年07月15日(金) 名古屋 DIAMOND HALL
2022年07月17日(日) 大阪 なんば Hatch
2021年07月21日 (木) 渋谷 Spotify O-EAST