【LIVE REPORT】
音楽と人LIVE2019 東京アコースティック百景vol.3
2019.12.09 at EX THEATER ROPPONGI
2016年にスタートした「音楽と人」主催の弾き語りイベント〈東京アコースティック百景〉。三度目の開催となった今回は、このイベントのレギュラーアーティストであり、本誌の連載コラム「今夜はおごります」でお馴染みの山崎まさよしに加えて、阿部真央、澁谷逆太郎(SUPER BEAVERのヴォーカル・渋谷龍太による弾き語りソロプロジェクト)という3組の共演が実現した。
トップバッターは山崎まさよし。アコギにドラムの演奏を加えてポリスの名曲「Every Breath You Take」を披露すると、早くも会場の温度がじわじわと温まっていく。曲が終了するとドラムを叩いていた男性は足早にステージをあとにし、山崎が「ドラムス、樋口“チリ毛”靖幸! このイベントの主催者であり、音楽と人の編集部員です」と笑顔で明かした。事の経緯を説明すると、連載コラムの取材時に樋口がこのイベントへの出演をオファーしたところ、アルバムの制作に集中したかった山崎が「一緒にステージに上がるんなら考えてもええ」と交換条件として提示していたのだった。
その後、ループマシンを操りパンデイロの音を響かせると、「アレルギーの特効薬」へ。曲中ではギターやハーモニカまでも器用に奏で、多才っぷりと貫録をいかんなく見せつける。続く「One more time, One more chance」では、力強くも優しい歌声で観客を一気に曲の世界へ引き込んでいく。「今日、実は子供の幼稚園で唄ってきたのよ。『〈パプリカ〉って知ってる?』ってみんなに聞いたら、『知ってる~!』って。『おっちゃんも〈セロリ〉っていう野菜の歌があんねん』って言って」と微笑ましいMCのあとに披露されたのは「セロリ」……ではなく、新曲「影踏み」。哀愁漂うメロディによって会場の空気は一変し、観客は再び彼の歌声に酔いしれていた。「名残惜しいですが、次で最後です」と伝えると「え~」と大きな反応が。それに気を良くしたのか「えっへっへっへ!」と笑う山崎。「このあともあるんですから。最後の曲はコールアンドレスポンスもあるんで、一緒に唄いましょう」と呼びかけ、ラストは「晴男」で締め括った。
続いて登場したのは、紅一点の阿部真央。ギター1本で勝負を挑む彼女は、初っ端から「ロンリー」で聴く者を鼓舞させるようなパワフルな歌声を放つ。続けて「ふりぃ」を披露し、「元気な曲を2曲やりましたが、お仕事帰りの方もいるんですよね? 次の曲ではゆったりしていただきたいと思います!」と呼びかけてから披露されたのは、「貴方の恋人になりたいのです」。曲が始まる前、あべまは「夏の曲なんですけど」と季節外れな曲であることを気にしていたが、彼女の歌声は季節や時期を問わず、理屈抜きで心を震わせるパワーを秘めている気がしてならない。現に、この日はいつにも増して冷え込んでいたというのに、会場中が彼女の歌声に心酔しているように見えた。
「リハの時、実は〈貴方の恋人になりたいのです〉ではなくて別の曲をやっていたんです。それを急きょ変更して……スタッフさん、直前にすみません! でも素敵でしたよね? 曲に合わせて照明がホワーって点いて……本当にありがとうございます!」とスタッフに対して感謝の気持ちを語り、再びアップテンポな曲「どうしますか、あなたなら」を披露。観客のクラップで曲が彩られると、会場はさらに華やかな空気に包まれた。ラストは、彼女の代表曲でもあり、強烈なインパクトを備えた「ストーカーの唄〜3丁目、貴方の家〜」をキュートに唄い上げ、「次は澁谷逆太郎さんです! ……言って大丈夫ですよね? 私、失言しがちアーティストなんで(笑)」と茶目っ気たっぷりに語り、ステージを去っていった。
「なぜ私がトリなのか疑問ですが、精一杯楽しみたいと思います」と語ったのは、この日トリを務めた澁谷逆太郎。1曲目に選んだのは「世紀末は雨に降られて」。澁谷の場合、サポートピアノ(星英二郎/OverTheDogs)の伴奏も加わり、先ほどの2組とはまた異なる空気が会場を包み込んでいく。表現力が高く、一つ一つの言葉を丁寧に紡ぐような歌声もあいまって、彼のパフォーマンスは非常にドラマティックなのだ。続く「悲しみが溶けたときのブルー」、そして3曲目に披露されたBivattcheeの「紅茶の恋」のカヴァーもそうだが、曲ごとにその世界観が脳内に容易に浮かんでくるので、まるで短編映画を観ているような気分に陥ってしまう。
「観ててお腹いっぱいになるようなステージでしたね」と山崎まさよしと阿部真央のステージを振り返りつつ、「真央ちゃんとは13年来の出会いでして。そして、レジェンドである山崎まさよしさん……今日こうやって共演できて嬉しいです」と2人への気持ちを吐露する澁谷。「スペシャルな日なので新曲をやりたいと思います。打ち込みで音源を作ってみたんです……って、打ち込みって完全にルール違反ですね」と自虐的に語り、MOP of HEADのGeorgeをゲストに迎えて新曲を初披露。ラストは「baby」を情熱的に唄いあげ観客を魅了した。この日、澁谷の「ソロ曲は音源化していないので、いつかしたい」という言葉に対し、観客も声を上げて賛同していたが全くその通りだ。より多くの人に彼の歌声の素晴らしさが伝わるきっかけが増えていくことを切に願う。
アンコールでは3人が集結。おもむろに山崎が「音楽雑誌の取材って圧があるやん?」とあべまと澁谷に問いかけるも「これ……同意していいのかな?」と迷う2人。追い打ちをかけるように山崎が再び同意を求めるが、「ふうん」といった肯定にも否定にもとれる反応をし、「君、どっち派なん!?」と山崎に突っ込まれた澁谷は、自分は永世中立国のスイス的存在であると見事な切り返し。そして、そのやり取りに爆笑するあべま。この日限りの共演というのが非常にもったいないと思うほど、ステージ上には温かなグルーヴが生まれていた。ラストは3人で山崎の「セロリ」をセッション。あべまと澁谷の歌声も初披露とは思えぬほどスッと馴染んでいて、経歴も表現の形も異なるアーティスト同士が、三者三様のステージでぶつかり合い、音楽で一つになることの尊さが胸に込み上げてきた。最後に「楽しんでいただけたんじゃないでしょうか」という山崎の呼びかけに客席からは大きな拍手が沸き起こり、まさにこのイベントの成功を物語っていた。
文=宇佐美裕世
写真=石井亜希
【SETLIST】
■山崎まさよし■
01 Every Breath You Take(cover)
02 アレルギーの特効薬
03 One more time, One more chance
04 影踏み
05 晴男
■阿部真央■
01 ロンリー
02 ふりぃ
03 貴方の恋人になりたいのです
04 どうしますか、あなたなら
05 ストーカーの唄〜3丁目、貴方の家〜
■澁谷逆太郎■
01 世紀末は雨に降られて
02 悲しみが溶けたときのブルー
03 紅茶の恋(cover)
04 新曲
05 baby
ENCORE
■セッション■
01 セロリ