宇都宮発のガールズ・スリーピースバンド、Lucie,Too。約2年前にリリースされたデビューミニアルバム『LUCKY』は、同作に収録されている「Lucky」のMVが再生回数250万回を突破(しかもいまだに伸び続けている)するなど、バンドの名が瞬く間に拡散されていくきっかけとなった1枚だ。
彼女たちの曲は、この「Lucky」を筆頭に1曲あたりの尺が非常に短い。それに加えてメロディは突き抜けるように明るく、聴き終えたあとは心の中になんとも言えない爽快感が漂っている。しかし、同時に違和感も感じるのだ。それは歌詞の中の人が明るい曲調とあまりにも真逆なタイプだから。好きな人がいても積極的になれず、〈どうせ私なんて〉と卑屈になる。しかし、諦めることも思いを完全に掻き消すこともできず、自己嫌悪に陥る。1曲の中にある光と影、その2つに触れていくうちに、作詞作曲を担うヴォーカルChisaに話を聞いてみたくなった。彼女の人となりを紐解くには恋愛観を探ることが大きな鍵となるのではないか? そんな思いをもとにインタビューを敢行したのだが、華やかなワンピースを身に纏い朗らかに受け答えする彼女の姿は、やはり消極的で不器用な歌詞を書く人物と同じとは思えず、頭の中を何度もなんで?が飛び交っていた。しかし、話を聞き進めていくうちに彼女の口から語られたのは、学生時代の意外過ぎるエピソードの数々だった。
そして、インタビュー前からもう一つ気になっていたのは、新作EP「CHIME」のこと。今作も、歌詞に出てくる主人公には心の中に大切な人がいる印象を受けるのだが、どうも恋のことだけを唄っているわけではなさそうな気がした。収録されている4曲すべてに、バンドとして突き進んでいく覚悟みたいなものが感じられるのだ。恋一色の『LUCKY』から今作に至るまで、Chisaの中に一体どのような変化があったのか。その点についても話を聞いた。
まずはバンドを結成した経緯から聞かせてください。
「もともと高校生の時にガールズバンドを組んでいたんです。そのバンドは1年ぐらいやったんですけど、受験もあったりして自然と解散して。でもドラマーの子は『続けたい』って言ってくれたので、スリーピースのバンドをやるためにベーシストを探すことにしたんですよ。そしたらライヴハウスの人から『いいベーシスト』がいるよって紹介されて、それが今のベースのかなこだったんです。実は、かなことは知り合う前に対バンをしたこともあったみたいで……私がGO!GO!7188のカヴァーを演奏してるのを、かなこが観てる映像とかも残ってるんですよ」
なんか運命的ですね。
「そうなんです。後日、ファミレスで『ベースをやってもらえませんか』って話をして。ただ、当時かなこは高校3年生だったので、受験のために1年間待った上で初ライヴを開催したんです。でも、その2ヵ月後にドラムの子が妊娠をしまして」
急展開ですね……。
「バンドを続けるか続けないかの判断はその子に委ねたんですけど、その2ヵ月後くらいに脱退して。そこからは、かなこと2人でアー写を撮ったりもしたんですけど、その頃に今のドラムのナホちゃんを紹介してもらったんです。もともと、かなことナホちゃんが友達同士で。ナホちゃんはSUNNY CAR WASHでも叩いていて、最初はサポートとしてお願いしていたけど、正式メンバーとしてルーシーもSUNNY CAR WASHもどっちもやってくれることになって……。ナホちゃんのプレイが好きだったので、嬉しかったですね」
結成した当初から恋愛のことを中心に唄ってきたんですか?
「いや、最初は真逆でしたね。Lucie,Tooってバンド名はNow,Nowっていうアメリカのオルタナティヴバンドから取っているんですけど、Now,Nowってけっこうダウナーなバンドなんです。それの日本語ヴァージョンをやったら面白いんじゃないか?っていう話しになって最初は暗い曲もやってたんですけど、私がスーパーカーとかHomecomingsを好んで聴くようになってからポップ路線の曲も作るようになりましたね。そもそも、自分自身がダウナーでもないしなぁって思ったりして(笑)。そこから自然と恋愛の歌詞になっちゃいました。私が恋愛気質なのもあって……。思い返してみると、ずっと好きな人は絶えなかった気がします。小学生の頃から人知れず片思いをしてたけど、相手に思い伝えることはあんまりなかったですね」
Chisaさんが書く歌詞に出てくる人って、確かにずっと片思いしているというか、報われない恋をしてる感じはあります。あと、不器用で自己肯定感が低い印象というか。「キミに恋」という曲の〈これっぽっちの勇気もない私なんかってすぐ塞ぎ込んで〉とか、「リプレイ」の〈誰かに媚びて浅はかな言葉を並べる/そんな自分が嫌い〉とか。
「間違いないですね(笑)」
歌詞の中の人と自分を完全に切り離してるわけではないんですよね?
「自分の気持ちはけっこう乗せちゃってますね」
でもこうやってお話ししてると、Chisaさん自身は明るくてほのぼのとした方だなって思います。歌詞の印象とは真逆というか。極端に言うと、歌詞の中の人は〈石橋を叩いて渡る前に叩きすぎて壊しちゃう人〉みたいな印象がありますけど。
「私自身、めちゃくちゃ慎重で超ネガティヴなんです。〈こんな私なんかが好きって言っちゃっていいのだろうか〉とか〈相手は困らないだろうか〉みたいな。ずっとそんな考え方だったんですけど、中学3年生の時に初めて告白をしたんです。そしたら『そういうのじゃないじゃん。友達じゃん!』みたいな感じであしらわれて。その出来事があって、〈好きって言ってもどうせ付き合えないなら、逆に好きって言っちゃおう〉って思えるようになれたんです」
なんで〈自分なんか〉って思ってたんですか?
「自分に全然自信がなくて、昔からすぐにふざけちゃうんですよ。女としてあまり見てもらえないしって思って。しかも高校生の時はめちゃめちゃ太ってて、70kgくらいあったんです」
Chisaさんがですか!? 全然想像つかない。
「ケンタッキーでバイトしてたんですよ」
ああ、それは……。
「(笑)家でも学校でも、1日中余ったやつを食べたりしてて。『ザ!世界仰天ニュース』のダイエット企画の痩せる前みたいな感じでした」
じゃあ、自己肯定感が低いのは見た目が関係していたんですね。
「はい。でも、性格もですかね……。小学校の頃はサッカーをやってて、全然女の子らしくなかったし。〈こんな私より可愛い子なんていっぱいいるじゃない。申し訳ない〉みたいに思っちゃうんです。今でもそう思うことはありますね。友達と普通に遊んでても〈こんな私でいいのかな?〉って」
え、同性の友達に対してもですか?
「思っちゃいますね。根暗というか、完全に心を開くようになるのにわりと時間がかかるほうで。高校生の頃の友達でいまだに連絡取るのは2人だけとか、人付き合いに対して慎重で……」
そこまで慎重になったのはどうしてですか? 同性にもそこまで慎重になるのは、さっきの告白のこと以外に何かあったんじゃないかと思いますが……。
「うーん……あ、今思い出したんですけど、中学生の頃けっこう勘違いされることが多かったんです」
勘違い?
「私は物事をはっきり言うタイプで、デリカシーがないって言われることがあったんです。悪気は一切ないんですけど、ポロっと言っちゃった一言が相手の地雷だったりして」
中学生って特に多感な時期ですしね。
「あと、自分の後ろの席の男の子と普通に話しをしてたら、同じクラスの女の子に呼び出されて『あの人のこと好きなんでしょ? 私も好きなんだけど』って言われたり」
めんどくさいですね……(笑)。
「『ごめん、私聞いてなかったんだけど』って言ったら、『絶対あの男の子のこと好きなの隠してるよ』みたいに陰で決めつけられたこともあって」
それに対してChisaさんは反発したりするんですか?
「いや、私は呆れて放っておくことにしましたね(笑)。あと、そういう嫌なことを発散させるために、ポエムを書いてました。今見たらめちゃくちゃ恥ずかしくなるような内容ですけど、当時好きだった人のことも書いたり」
その延長線上にあるものが、今Chisaさんが書かれている歌詞なんでしょうか。
「そうですね。今となっては、昔からそういうふうに言葉にして発散することが必要だったんだなって思います。自分を知ってもらうための大事な方法というか。そういう経験もあったので、いまだに言葉選びには慎重ですね。メンバーに対してもそうだし」
でも他の2人のメンバーもそうですけど、この2年間でChisaさんを受け入れてくれる人や愛してくれる人は増えたんじゃないかと思います。それによって、自分の中にあった慎重さが緩和されていった実感とかはないですか?
「そうですね。そういう人たちの存在はすごくありがたくて……バンドとしてもっと頑張ろうって思います。メンバーに対しても喜んでほしいって気持ちはありますし」
フロントマンである以上、2人にもいろんな景色を見せたいって思いとかありますよね。それがプレッシャーになっちゃう瞬間はないですか?
「めちゃくちゃありますね。そういう時に、今作の〈CHIME〉ができたのかもしれないです」
今作も恋愛のことは唄われているけど、恋一色って感じはしないんです。どの曲にもバンドとして進んでいく決意を感じるというか。
「そうですね。前作『LUCKY』は、恋愛面で女の子の気持ちに寄り添っていきたいって思いのもと無邪気に作って、通称〈片思い盤〉って呼んでるんです。でも今作は自分の人生だったり、内省的な部分に焦点をあてようと思って。今作に至るまで、バンドとして思うようにいかないなって悩んだり、これからどうやって道を切り拓いていくかって考えた時に、大好きなYUKIさんの歌に助けられたんです。もともと、YUKIさんは母親の車の中で昔から聴いてて大好きだったんですけど。自分もそういうふうに誰かを助けたいじゃないですけど、そういう存在でありたいって素直に思いました」
3曲目の「ゆらゆら」の〈退屈なイメージ重ねて/過ぎてゆくだけの日々なんて/そんなの私らしくないじゃない/醒めない夢を追いかけて行くわ〉とか、特にたくましさを感じます。
「〈ゆらゆら〉は、まさにYUKIさんに向けて作った曲なんです(笑)。憧れに人に近づきたいなって思いを込めていて。できあがった曲はたったの4曲なんですけど、でも未来への前向きな希望を綴っているっていう点では、全部まとまってるなって自分でも聴いていて思いました」
「CHIME」は、Lucie, Tooの新たな可能性を感じさせてくれる作品だと思います。
「そうですね! 恋愛だけじゃなくて、違う引き出しもあるんだってことを知らしめる1枚になってほしいです」
文= 宇佐美裕世
NEW EP「CHIME」
NOW ON SALE
01 Chime
02 あなたの光
03 ゆらゆら
04 カラー
〈Lucie,Too presents 『CHIME』Release Party!〉
12月15日 下北沢DaisyBar
12月20日 心斎橋Pangea
12月22日 新栄RED SEVEN
Lucie,Too 公式HP https://lucietoojp.tumblr.com/