【LIVE REPORT】
〈BUCK∞TICK TOUR 2025 -ナイショの薔薇の下-〉
2025.12.29 at 日本武道館
毎年恒例、ヤガミ・トールのMCによれば「今年で44回目」となる日本武道館公演。過去のインタビューを振り返れば「コンセプト自体はない。毎年楽しみましょうっていうくらいで、その時その時で何でもアリ」という今井寿発言も残っているのだが、今回のテーマはあまりにも明瞭だった。アルバム『スブロサ SUBROSA』である。

完全な再現ライヴというわけではない。アルバムの7曲目「雷神 ⾵神 - レゾナンス #rising」が一気にアゲていく二番手の役割を担っていたり、中盤以降の曲順が細かく入れ替わっていたり、「TIKI TIKI BOOM」だけは本編ではなくアンコールに配置される、などの違いはあった。随所に挟まれる今井のアドリブは慣れと遊びを感じさせたし、星野英彦が唄う「paradeno mori」は、櫻井敦司に捧ぐメモリアルソングでありながら、笑顔で踊れるエンターテインメントに昇華されていた。過ぎた時間のぶんだけ余裕が生まれているのだ。さらに言うなら、樋口豊が終始ずっと笑顔だったことも印象的。一年前のレポートでは、彼から〈かわい子ちゃん担当〉のキャラが消えていた、と書いたはずなのに。

アルバムが出たのは2024年12月だ。本格的なお披露目となった前回の武道館公演は、後半とアンコールに驚きのリアレンジ曲を次々と持ってくることで〈安直なイメージを断ち切り、つねに想像の先を行ってみせるBUCK∞TICK〉像を見せることに成功していた。あれはあれでビビるほどカッコよかったが、今回そのような驚きはない。あくまで、というか頑なに『スブロサ SUBROSA』主体でステージは進行する。過去に披露したリアレンジ一一たとえば「Villain」や「BOY septem peccata mortalia」「キラメキの中で...」などを挟めばアクセントになるだろうし、もっと強烈なスパイスとなる過去曲も多いはずなのに、それはやらない。だんだんと見えてきた。やれるのにやらない、ではなく、他に曲がない、という仮定の下にこのセットリストは組まれているのではないか。
それはまるでファーストアルバム一枚で大きな評価を得た新人の思考回路。期待値が高いから会場はパンパンに埋まるし、全員を満足させたいとバンドも望んでいるのだが、いかんせん曲数が足りない。これしかないとの思いを込めたアルバムはそう簡単に流れを変えられないし、EPやシングル曲を足したところで2時間に満たないショウとなる。だったらどうするか。

よくあるのはカヴァーを加える選択だ。お茶を濁すというより、自分たちがどこから来たのかを伝えるために名曲を拝借する。たとえば2025年のオルタナ界を席巻した若手kurayamisakaは、ツアーファイナルで特別にアジカンのカヴァーを披露。のちに世界的スターになるリンキン・パークの初来日も、アルバム一枚では持ち駒が足りなかったようで、アンコールにジェーンズ・アディクションの名曲が引っ張り出されていた。もう25年前の記憶だ。
そして今のBUCK∞TICKは、まさかと思う話だが、たっぷり出せるはずの過去曲をあえて封印することで驚異の大型新人となる。見せるべきはファーストアルバム『スブロサ SUBROSA』の存在意義。これが初めて4人で作った作品で、これしかないとの思いを込めた楽曲ばかりが、簡単には崩せないストーリー性をもって並んでいる、という事実である。

ラストは当然「プシュケー - PSYCHE -」「ガブリエルのラッパ」「黄昏のハウリング」の3曲だ。身近に起きた死を見つめ、故人に心を馳せながら、同時に圧巻のダークエンターテインメントに落とし込む。そして「3000年後の荒野で会おう、必ずだ」と今井が吠えたように、別れを永遠の約束として音にする。ギターソロの余韻に浸りながら、ようやく『スブロサ SUBROSA』が完遂したのだと思った。不純物なく、遠慮も配慮もなく、このファーストアルバムの曲だけで本編が成立していた。後半の流れを大胆に壊すことで〈B∞Tらしさ〉を印象づけた一年前とは大きな違いだ。言い方を変えるなら、『スブロサ SUBROSA』らしさだけでB∞Tが成り立つまでにこれだけの時間が必要だったのだろう。
アンコールは5曲。「TIKI TIKI BOOM」を挟んだ前後のセレクトが最高だった。「渋谷ハリアッパ!」と「風のプロローグ」は未来を示唆するシングル曲。特に今井のフロウが鮮烈な「〜ハリアッパ!」は、シンガーとしてまだ新人の彼が今後さらに面白い歌い手になっていくことを予感させる。そして後半は、このツアーで披露していた「Baby, I want you.」に加え、なんと「スピード」! 今井が先にサビを唄ってみせると客席が「マジで?」とどよめく、その反応も完全に名曲カヴァーのようだった。

もちろん実際はBUCK∞TICKオリジナル。名前も同じまま物語は続いているが、今とは微妙に違う世界観が〈みんな大好きだった、俺たちも当然夢中になったあのバンドの曲〉として共有されるところがたまらなかった。どこから来たのかを伝えるために。愛情や思い入れを抱えながら、さらに次へと進む意思を伝えるために。こんな過去曲の使い方があるのかと驚いたが、これも今だからできること。ピンチはチャンスとか、逆転の発想とか、言い方はいくつもあるが、前回と今回の武道館でしみじみとわかったことがある。選曲やテーマひとつでBUCK∞TICKのメッセージはここまで変わる。つまるところ、このバンドにはまだまだ可能性しかないのである。

文=石井恵梨子
写真=田中聖太郎
【SET LIST】
- 百万那由多ノ塵SCUM
- 雷神 風神 - レゾナンス #rising
- 夢遊猫 SLEEP WALK
- スブロサ SUBROSA
- From Now On
- Rezisto
- ストレリチア
- 冥王星で死ね
- paradeno mori
- 遊星通信
- 絶望という名の君へ
- 神経質な階段
- プシュケー - PSYCHE -
- ガブリエルのラッパ
- 黄昏のハウリング
ENCORE
- 渋谷ハリアッパ!
- 風のプロローグ
- TIKI TIKI BOOM
- Baby, I want you.
- スピード
