来年2月にデビューから30年を迎えるTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT。バンドの記憶を可能なかぎり永遠に残したいという思いのもと始動したプロジェクト〈THEE 30TH〉に呼応し、これまで彼らが発表したアルバムの記事からTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの歩みを振り返ってきた本企画。ラストは、アルバム『SABRINA NO HEAVEN』についての4人でのインタビューを『音楽と人』2025年11月号より再掲載いたします。本作のリリースから2ヵ月半後の9月1日、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの解散がアナウンスされました。

※下記記事のオリジナルは、『GbM Vol8 / 2003年9月号』(ソニーマガジンズ刊/発売当時)掲載のものになります。
『SABRINA NO HEAVEN』の、レコード会社の宣伝文句は「ふたつでひとつ」。『SABRINA HEAVEN』と同時に制作されていたのだが、CDに収録できる時間を超えていたので2作になった、というのがその理由。ミッシェル・ガン・エレファント自身は、この2作をどう捉えているのだろう。
『SABRINA NO HEAVEN』が、ようやく出ましたが、2作を同時に出しても良かったじゃないですか。
チバ「うん、まあでも、ずらしたほうがいいんじゃないのって」
クハラ「いろんな案を話し合ったんだけど、これがいちばんいいねっつーことに落ち着いて」
3か月の不思議な間合いで。
クハラ「間合いとかはあんま考えなかったんですけどね、分けて出すっていうか……同時に出そうかっていう話も出たし、なんとか1枚にっていう話もなかったわけじゃないし」
それで、ふたつでひとつと?
チバ「両方合わせてひとつ……ではないんだけどね。別のものなんだけど、でも、録った時期が一緒だったから、まあひとつっちゃあひとつだし、違うっちゃあ違うし」
もし1個のアルバムにしようとしたらどうなってたんでしょうね。
チバ「収拾つかないもん。収拾つかないから2枚にしたんだから」
それも移籍のなせる業ですか?
チバ「移籍のおかげっつーか、移籍したから時間が空いてて、そのレコーディングに関して、それまでに時間があったから、そりゃあ曲も増えるわ……。だから移籍のなせる業っつったら移籍のなせる業だけど、こっちは時間的な問題だけだよ」
合わせて90分だから1枚に収まらないのは確かで。この2作からマイ・ベストを作ってもいいし?
チバ「あー。それはヤだな」
クハラ「だってCDに焼くときに洩れるのが数曲あるわけでしょ?」
チバ「かわいそうじゃん(笑)」
ずっと『SABRINA HEAVEN』を聴いていたあとに『SABRINA NO HEAVEN』を聴くと、「ずいぶんコンパクトだなあ」って思ったりするんですよ。
クハラ「逆よりはいいんじゃない?」
アベ「2年ぶりだから、ちょっとぐらいたくさん入れとかないと(笑)」
『SABRINA HEAVEN』を出す前と、出したあとのツアーとでは、やる側として意識の違いみたいなのはありました?
クハラ「まあ、あとのツアーは人前で演奏してない曲をやるわけですから。そりゃいろいろ、『間違えちゃいかん』とか思いました(笑)。間違えたりするんですけどぉ」
(笑)歌詞も間違えないように?
チバ「いやあ、関係ないよ、間違っても。その日の気分だもん」
クハラ「アレンジですから。気が利いた(笑)。裏表ひっくり返るのも気が利いたアレンジですから(笑)」
(笑)笑っちゃいけない。
クハラ「笑いごとじゃないです(笑)。ま、だんだん染み入ってきて、染み入ったところからまたなんか……」
ウエノ「『SABRINA NO HEAVEN』の曲も、出る前から全部やってたから、お客さんは知らない曲もあったんじゃないの?」
そうなんですよ。だからツアーで、まだ音源として出てない曲をやることで、何か違うニュアンスの空気を作ろうとしてるのかなと思ったりしたんですけど。
チバ「ああ……。そこまで考えてなかった」
ウエノ「でも昔から、曲出来たらもう、やりたがりだからねえ」
チバ「『SABRINA NO HEAVEN』に入ってない曲もやってるからね。だからあの曲は今回入ってるんだろうなと思った人もいるんじゃない?」
あの曲は録ってないんですか?
チバ「録ってない」
いつ出来たんでしょう?
チバ「ツアーが始まる前。3月の終わりぐらいじゃない?」
ウエノ「たぶんツアーのリハやってる途中とかじゃないかな」
あの曲のタイトルは?
チバ「〈デビル・スキン・ディーバ〉」
ウエノ「〈DSD〉(笑)」
クハラ「妖しくない?(笑)」
(笑)ところで、なんで『SABRINA NO HEAVEN』なのか聞きたいんですけど。
ウエノ「それはもう、チバ先生に」
チバ「……なんとなく(一同笑)」
天国かと思ったら違った、と?
クハラ「いったいどっちなんだろうって?」
チバ「ん、だからなんか、どっちでもあるっていうかね。“NO”でもあり、ホントの“HEAVEN”でもあり……。人によってはそれは天国とは思わないかもしれないけど……。だってSMとかの人でさ、すげぇいじめられるのが好きな人っているわけじゃん」
クハラ「たしかにそうだ。知らない人にとっちゃ『やめてーっ! そんな、いじめないで!』っつーことだけど、ヤツらはあれで快楽ですから」
チバ「昇天だよね」
それでHEAVEN?(笑)。真面目に考えると例えば、イラクに住んでる人たちにとっては、フセイン政権下と今は、どっちが天国かなとか。
チバ「ああ、そうだねえ。ちょっと違うけどね」
クハラ「真面目な話、半々だろうね」
日常的な部分でも、これはいいことなのか悪いことなのか、これは幸せなのか不幸なのかとか?
チバ「うん、まあなんか、とにかくいろんなことがあるんじゃないかなあと思ったから」
答えはひとつじゃないと。
チバ「そうそう、そういう感じ」
ということもあって「ふたつでひとつ」なんですか?
チバ「うん? べつになんかこう、対になってるわけじゃないんだけど。『ふたつでひとつ』って、べつに俺らが言ってるわけじゃないもん」
失礼しました……。『SABRINA HEAVEN』は曲のスタイルがいろいろで長尺な曲があったりしたのに対して、『SABRINA NO HEAVEN』は直球な感じの曲が多いなと思ったんですけど。
チバ「エイトが多いのかな? なんとなくだからなあ。こう、選んでみて、『あ、これハマったかな』って」
前作は「太陽をつかんでしまった」みたいなジャムって長くなるって感じの曲が中心だったから、そうじゃない面が出てるんですかね?
ウエノ「まあそうだね。この中でも〈水色の水〉とかはやっぱ、古いというか、出来たのが前という。短いのは、後のほうが多いかもね。言われりゃあね。でも『なんでか』って言われたらわからんもんねえ」
「水色の水」もライヴで聴いてたのより、ソリッドになってる感じがしましたが、シングル「太陽をつかんでしまった」初回盤のDVDとの差別化を考えたり?
ウエノ「この曲はライジングサンでもやってたもんね」
クハラ「だから、さっきも言った染み入ってる感はあるけど、そのままでいいのかっていうと、テンポとか、レコーディングするときは、一回チャラみたいな感じで白紙に戻して、もう一回取り込むっつう」
アベ「例えばやってることは同じだとしても、アタマの中が日によって違うから。基本的なものはひとつあったとしても、そこにいろんなものが入ってくるから、そういう違いはテイクごとにあるよね。だから、テイクごとに毎回新鮮だったよ、どの曲も。テイク重ねると疲れるけどね」
『SABRINA HEAVEN』の最後に入ってる「NIGHT IS OVER」が、別テイクでタイトルも変わって今回も最後に入ってるじゃないですか。それともう一個、ライヴ会場限定販売のシングル「GIRL FRIEND」。同じ曲を3パターン作ってみたのは?
チバ「最初は、ギターとピアノだけでやろうと思ってたんだけど、4人でやってみてカッコよかったから……んで歌を思いついてしまったので、それも録ろうと……。そうだね、1曲で3パターンもあるんだね」
ウエノ「昔アナログ・バージョンとかやってたけどね。『Chicken Zombies』の〈COW 5〉とかそうじゃない」
ああいうのとまたちょっとニュアンスが違う気がしたんですけど。っていうことは、『SABRINA NO HEAVEN』に入ってるのが最初のテイク?
チバ「じゃないかって噂なんだけど」
ウエノ「当初の形はあれじゃない?」
チバ「うん、最初に考えてたのはギターとピアノだけだったから」
あれはアベさんのギターとふたりいっぺんに録ったんでしょう?
チバ「うん」
ウエノ「〈夜が終わる〉も、〈NIGHT IS OVER〉も1回しかやってない」
じゃあ、「GIRL FRIEND」は?
ウエノ「これ(〈NIGHT IS OVER〉)だもん。これに歌を乗っけたんだもん。まあミックスとかは違うけど」
「GIRL FRIEND」は、最初から自分たちのレーベルで出そうと?
チバ「アルバムに入れようと思ってなかったよ。ま、最初っからじゃないかもしれないけど、そういう形でいいんじゃないかって」
ウエノ「まあでも、歌ないのもいいし、歌入ったのもいいし、『SABRINA NO HEAVEN』に入ってるバージョンもいいし、っつーと、必然的にこうなるよね。まあ歌が乗るとは最初思ってなかったからねえ」
じゃあ、あの詞は曲が出来てから書いたんですか?
チバ「同時。だから最初にインストとしてもう出来上がって。で、2番でメロと歌詞を作って。ちょっとやってみようかなあと。で、全部その日の予定が終わってて、メンバーもみんないたから、『ちっと一回歌ってみるから聴いてみて』つって……。そういう感じだったけど」
“世界は下らないから”と言い放ってますけど、あれは何か思うところがあって書いた詞でしょうか。
チバ「まあでもずっと前から考えてたことだったから」
あの詞こそ“NO HEAVEN”なんじゃないですか?
チバ「うーん、いやあでも、天国な感じするけどね」
それは周りは“NO HEAVEN”でも、自分とその“あの子”は天国だよっていう?
チバ「うん、っていうときもあるだろうし」
「夜が終わる」は、ピアノとギターだけでやったテイクですけど、どんなふうに録ったんですか?
アベ「いやもう、自然に頭に浮かんだものを、自分で勝手に解釈して。速さとかこう……リズム的な速さが最初こう……初めてじゃない? ああやってピアノとふたりでやるって。そのへんはけっこう気ぃ使ったけどね。微妙なリズムの取り方が、お互いおもしろかったり」
お互いの顔色を見ながら?
チバ「いや、見えない。離れてるから。ピアノと被っちゃうから。だから、ドア閉めてたんだよね」
ピアノは別ブースみたいなとこにあって、こっちにギターがあって、お互いに音だけ聴きながら?
チバ「そうそう。クリック聴いて」
クハラ「クリックのやつもアテにならないからねえ(一同笑)」
チバ「ホントにおまえ、正しいのかあ?って(笑)」
アベ「おもしろかったよ。入るところが微妙~にリズムの取り方が……合ってるんだけど、微妙にこう、クセとか取り方とかあるじゃない、それが出てて、なんかおもしろい」
音を頼りに手探りのような?
アベ「リズム的にはね。手探り」
チバ「『いつ終わろうかなあ』(笑)」
アベ「『もっかい行っとこうかな』とか(笑)。『もういいだろう、これぐらいで』って」
ホントはもっと長かったとか?
チバ「いや、これだけ」
アベ「このまんま」
チバ「それがやりたかったから」
アベ「アルバムの最後の曲に合ってるなと」
ところでチバさん、ROSSOのときに鳥と魚の話をして、あのときは鳥という結論で、『BIRD』になったんだけど、「マリオン」では魚だったんで、ROSSOが鳥だとしたら、ミッシェルは魚なのか、と思ったんですが?
チバ「ううん。そういうことではなくて。伝わってねえなあ、歌詞(笑)。だからー、魚には羽が生えた。だから飛べる。だけど、人には羽が生えなくてそのまま落ちてく。歌詞そのまんま。直訳だよ(笑)」
(笑)理解力なくてスミマセン。で、結論は出たんですか。
チバ「いや、結論は出ないよ」
ともあれ続けて2作を出して、気が済んだ感じですか?
チバ「でもまた曲作っちゃったしね」
で、またツアーしたり?
チバ「いや、しない」
ウエノ「そりゃ次の取材だよ(笑)」
文=今井智子
8th ALBUM(LP)
『SABRINA NO HEAVEN』
2025.10.01 RELEASE

・LP1枚組 180g重量盤
・UMJK-9156 ¥4,400
https://tmge.lnk.to/sabrina_no_heaven_lp
【DISC 1[SIDE A]】
01. チェルシー
02. ミッドナイト・クラクション・ベイビー
03. デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ
【DISC 1[SIDE B]】
01. 水色の水
02. PINK
03. 夜が終わる (inst.)

・リマスター及びハイレゾ配信
https://tmge.lnk.to/sabrina_no_heaven_remastered
01. チェルシー
02. ミッドナイト・クラクション・ベイビー
03. デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ
04. 水色の水
05. PINK
06 .夜が終わる (inst.)
