ロックバンドというのはつくづく奇跡的な集合体だと思う。他人同士が集まって、音楽と人生を共有しながら旅を続けていき、少しの綻びでその物語は途端に終わりを迎えることもある。帝国喫茶のアルバム『帝国喫茶Ⅲ ストーリー・オブ・マイ・ライト』は、4人がバンドを中心にして向き合い、自分たちを見つめたうえで制作されたバンド感あふれる一枚だ。特にラストに置かれた「ビフォア・サンライズ」では、音楽を鳴らす喜び、それを伝える意思、バンドを続ける覚悟、そういったものが瑞々しくも力強く響いている。今回は杉浦祐輝(ヴォーカル&ギター)と、「ビフォア・サンライズ」を作詞作曲した杉崎拓斗(ドラム)の2人にインタビュー。この制作過程で初めてメンバー4人で深い話し合いをしたという彼ら。バンドとしてひとつになり完成させたアルバムは、これからの帝国喫茶とリスナーの未来を明るく照らしてくれるだろう。
(これは『音楽と人』2025年4月号に掲載された記事です)
バンド感ある一枚になりましたね。2人はどんなアルバムになったと感じていますか?
杉浦祐輝「この1年くらい、帝国喫茶って何なのかをずっと考えてきてて。突き詰めると、人間が生きていくうえで大事にしたい普遍的なものというか。人に対する思いとか、自分を大事にする気持ちとか、それを表現するのが帝国喫茶だなと思ったんです。で、去年のツアーを通して、どうすればそれがもっと伝わるか考えるようになって。そういう気持ちが表れたアルバムになったと思います」
杉崎拓斗「僕もこのアルバムでやっと〈これが帝国喫茶だな〉っていうのが掴めた感じがしました。4人それぞれが帝国喫茶に向き合う機会が、この制作期間はけっこう多くて。その中で、4人共通して〈光〉っていうキーワードも出てきたんです」
いろんな曲で〈光〉〈輝く〉というワードが出てきますけど、最初からそれがテーマだったわけじゃないんですね。
杉浦「アルバムが出来上がった時に、4人がそろって見てたものは何だったかな?って考えたら、それが光だった。それでタイトルも『ストーリー・オブ・マイ・ライト』にして」
杉崎「去年、3人それぞれが作った曲を3ヵ月連続でリリースしたんですけど、その時のメインとなる曲が〈光を迎えに行こう〉で。そこからそういうモードがスタートした印象はあります。でも3人で示し合わせるわけでもなく、それぞれの曲に〈光(ひかり)〉っていうワードがすでに入ってて」
そうなったのは、どうしてだと思います?
杉崎「個人的に思うのは、バンドと向き合うと同時に、それぞれ自分自身ともすごく向き合ってたんですね。その中でそれぞれの大事なことに気づき始めて、明るい方向に向かって行こうとしたのかなっていう。特に制作期間は、ヒッキーさん(疋田耀/ベース)とかがめっちゃしんどそうやったもん」
バンドや自分と向き合う時間は、どういうものでしたか。発見があって楽しい時間だったのか、疋田くんのようにしんどい時間だったのか。
杉浦「僕は、しんどかったかもしれないですね。この1年はさっきも言ったように、どうやったらもっといろんな人にバンドや曲が伝わるか、初めての人に聴いてもらうにはどうしたらいいか、みたいなことをずっと考えてきてたんで。結局そこをやんないとあかんねんなっていう」
どういうことですか?
杉浦「あんまり人と関われないから音楽やってる、みたいなところもあるじゃないですか。言いたいことがうまく伝えられないから音楽にしてるのに、結局、音楽やってても人にどう思いを伝えるか、どう関わっていくかってことを考えないとあかんねんな、って。お客さんと向き合おうとすると、自分のそういう部分が見えてくるというか」
そこは切っても切り離せないものだと。
杉浦「なので〈うわ、結局か!〉みたいなしんどさはあったかもしれない。でもそういう中で少し意識も変わっていって。これまではわかってくれる人だけがわかってくれればいい、ってどこか思ってたけど、聴いた人が〈自分のことみたいだ〉って受け取ってくれるように、今まで以上にちゃんと物語を意識したし、その中で大事な瞬間とか、大切な気持ちに気づいてもらえたらいいなって考えて作ったので」
好きな曲を自由に作って鳴らすだけじゃなくて、より伝えることや届けることに意識を向けていったわけですね。4人でバンドや曲について話し合うことも多かったんですか?
杉崎「そうですね」
杉浦「もう話し合うしかなくなったというか」
杉崎「逃げてはないけど、今まではあえて話し合うこともなかったんですよ。でも今回はあらためて、それぞれが根本で大事にしたいこととか、帝国喫茶はどういうものかとか、何を伝えたいのかとか、そういうのを話し合う機会があって」
杉浦「4人とも似ていて、人と関わることが得意なタイプではないので、お互い気を遣って言えてないこととか、傷つけるかもしれないから言えないみたいなことを言わずにやってきたんですよ。それに演奏で会話してるというか、そういうロマンみたいなのもあって(笑)」
言葉じゃなくて演奏で通じてるんだ、みたいな。
杉浦「そうそう。だけど、いよいよそういうことじゃないんじゃないかって。お互い言いづらいことも言っていかないとひとつにならないというか。4人それぞれの違う部分をひとつにまとめていく時に、傷つく覚悟もやっぱり必要やから。それで、それぞれがバンドに対してどう思ってるかとか、これからどうしていきたいか、みたいな話をして」
杉崎「僕は『やれることは全部やろう』って話をしましたね。正直、このまま続けるかどうか、みたいなところまでいったんですよ。でも、やれることを残したまま終わるのは悔しいから、考え得る限りやれることはすべてやり切りたい。そこはストイックにやりたいって言って」
けっこうシビアな話し合いだったんですね。
杉浦「そうですね」
杉崎「それで〈ビフォア・サンライズ〉が生まれたんです」
なるほど! 「ビフォア・サンライズ」はバンドのことを唄った、めちゃくちゃいい曲ですよ。
杉崎「ありがとうございます」
それにこれまで杉崎さんが書いてきた曲って、ストーリー性が強かったり抽象的な表現が多くて。こういう泥臭いまっすぐな歌は書かないイメージだったので、かなり意外でした。
杉崎「初めてリアルを書きましたね。それまでは等身大ではあるんですけど、どっか架空の主人公を作って歌詞を書くパターンが多くて。だけど今回は完全に自分たちのことを歌にしました。話し合いをして、あらためてこの4人で帝国喫茶なんだって思ったから、その純粋な思いを歌詞に乗せて」
杉浦くんはこの曲を聴いた時、どんなことを思いました?
杉浦「すごくいいなって思いました。この曲があがったのが、アルバムの中でも最後だったんですよ。帝国喫茶としてこういうものを届けたい、っていうのが固まってきた中で、バンドの歌としてそれを体現してる曲というか。作った楽曲だけじゃなくて、僕ら自身の存在も輝きのひとつになる曲だなって」
杉崎「それは僕も思いましたね。聴いてくださる方が自分事としてこの12曲を解釈してほしいっていう思いはあるんですけど、最後にこの曲が入ったことで、それと同じように自分たちの物語でもあるっていう意味合いが表れたなと」
杉浦「それに、杉崎がこの曲を書いたんが意外だって言ってもらったじゃないですか。今回、他の曲でもその現象が起こってる気がして。今までは3人それぞれが自分の書きたい曲を書いてたけど、今作は帝国喫茶として表現するならってことを、それぞれがこれまで以上に意識していて。僕の歌にしても、曲が一番輝くためには何をすればいいか、みたいなのをより考えるようになりましたね」
そういう意識が強くあったから、これまで以上にバンド感があるって感じたのかもしれないです。4人がお互いのいいところを引き出してる感じもしますし。
杉崎「たしかに」

メンバーにとって帝国喫茶がさらに大事なものになってるのかなとも思いました。
杉浦「僕はそうですね。まあ、初めからそうなんですけど(笑)」
杉崎「僕は正直、なんとなくバンドを始めて、気づいたら本格的に動き出していたんで、最初から強い思いがあったわけではなくて。活動する中でだんだん思いは強くなっていきましたけど、今回のアルバム作りであらためて覚悟が決まりましたね。このメンバーが集まったのはたまたまやけど、今となってはこの4人で帝国喫茶だし、永遠なんて存在しないけど、それでも俺は永遠を信じて、この4人でやりきるところまで突き進んでいきたいって」
杉浦「僕から誘ってるから、他のメンバーはそこまで覚悟を持ってバンド始めたわけじゃないっていうのは、まあなんとなくわかってたんですよ。だから最初から『僕はこのバンドにこれくらいの思いがある』みたいな話もしてないし、みんなもやっていくうちにあとから覚悟はついてくるかなって思ってたし……そこから逃げてきたとも言えるんですけど」
逃げてきた?
杉浦「この4人でやりたいから誘ってるけど、他の3人がそこまで思ってなかった時に、メンバーが抜けたりバンドが終わったりすることもあるわけで。そうなるのが怖くて、覚悟あるん?って聞けなかったんですよ。答えを求めることが怖くて逃げてきた。でも今回話し合いをしながら、本当に3人とちゃんと向き合ったし、みんな覚悟持ってくれてるんやって思えたし」
それはうれしいことですよね。
杉浦「そりゃ……ありがたいなって(笑)」
杉崎「なんか、変な間ありましたよ」
杉浦「いやいやいや。ちょっと恥ずかしいというか(笑)」
ふふふ。人と関わることが苦手だけど、逃げずに向き合って、思いを伝え合って生まれたのが「ビフォア・サンライズ」で。この曲が持つエネルギーとか夢を追いかける輝きって、ちゃんと聴く人にも届くと思うんですよね。
杉浦「うん。人に対する思いとか、それを伝える難しさとか、生きているとやっぱりすごく感じることで。帝国喫茶は人生を唄っていきたいと思ってるけど、生きていく中で人との関わりは避けられない。今回はそれをメンバー間でも音楽でも体現してるからこそ、お客さんに届ける時にもやっぱり説得力が出てるかなって思います」
「ビフォア・サンライズ」には〈星に紛れそうな夢〉っていう歌詞がありますが、2人にとって今の夢は?
杉崎「陳腐な言葉になっちゃいますけど、この4人で永遠にバンドを続けて、その輪がどんどん広がって、たくさんの人に音楽を聴いてもらいたいなって。それだけです」
杉浦「僕もそうですね。普遍的なことをずっと唄っていきたいし、それを多くの人にちゃんと届けたい。この4人でそれがやれたら一番うれしいです」
文=竹内陽香
撮影=笹原清明_えるマネージメント
NEW ALBUM
『帝国喫茶Ⅲ ストーリー・オブ・マイ・ライト』
2025.03.19 RELEASE

- 光を迎えに行こう
- つもる話し
- sha na naなjourney
- なんとなく
- ハル
- ひとりぼっちの幸せの空へ
- グッバイ・コメット!
- 東京駅
- アップオールナイト
- 会いたいんだよ
- さよならより遠いどこかへ
- ビフォア・サンライズ
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〈ワンマンツアー2025「ストーリー・オブ・マイ・ライト」〉
5月16日(金)愛知 名古屋CLUB QUATTRO
5月23日(金)茨城 水戸ライトハウス
5月30日(金)北海道 ベッシーホール
6月6日(金)宮城 ROCKATERIA
6月8日(日)東京 LIQUIDROOM
6月15日(日)岡山 CRAZY MAMA 2nd Room
6月22日(日)福岡 DRUM Be-1
6月28日(土)大阪 Music Club JANUS
6月29日(日)大阪 Music Club JANUS