気取らない歌声に耳を奪われた。鳥取の漁港で働きながら、音楽活動をしている24歳のアーティスト、jo0ji。仲間内で遊ぶように楽曲を作り始めたという彼の音楽は、インターネットを通してじわじわと広がっていき、昨年EP「475」をリリースし、今年の夏にはSUMMER SONICにも出演を果たした。「駄叉」「Nukui」、そして「眼差し」という新曲を立て続けに配信リリースする中、初めて彼にインタビューする機会を得られた。彼の楽曲は、ストリングスやホーンを使う曲もあるが、華やかさを演出するというより、ぬくもりのある曲にどれも仕上がっている。友達に語りかけるような穏やかな歌声と肩にポンと手を置いてくれるような優しさが滲む歌詞も興味深い。この親しみやすさは一体どこからくるのか。気さくで笑顔のすてきな彼は、話が苦手と言いながらも丁寧にいろんなことを語ってくれた。
(これは『音楽と人』2024年10月号に掲載された記事です)
普段は鳥取の漁港で仕事をしているんですよね?
「そうです。魚を売るセリを手伝ったり、セリで仲買いの人が買ったやつを配達したり。手伝いで魚屋もやってます」
学校を卒業してからは今の生活をされているそうですが、上京したいと思ったことはないですか?
「一回もなくて。もともと都会が合わないんですよ。人がいっぱいいると落ち着かなくて」
じゃあ昔から港で働きたいと思っていたんですか? それとも何か他になりたいものがあったりしました?
「あんまりなかったんですけど、でも小学校の卒業式で将来の夢を発表することがあって。男の子はだいたいサッカー選手か野球選手か博士の3パターンで。人と違うことを言いたくて、ミュージシャンって言ったんですよね」
おお!
「なりたかったかと言われたら、あんまりなんですけど(笑)。昔から人と違うことがやりたい子供だったんで」
逆張りだったわけですか。
「そうですね。みんなが楽しんでることはあんまやんなかったり、クラス一丸で頑張ろうっていう空気になったら、『あ、僕大丈夫です』みたいな。けっこうあまのじゃくな子供でした」
田舎でそれだと生活しづらくないですか?
「ああ、だから小4ぐらいまでめっちゃ浮いてました。その頃、偉人の自伝映画ばっかり観てて、偉人ってだいたい幼少期から異端児として描かれるじゃないですか。それに憧れてたんでしょうね(笑)。でも小4の終わりぐらいから今も仲いいやつらがその偏屈な感じを面白がってくれて。そこからは友達ができました」
なるほど。逆張りとはいえ卒業式でミュージシャンになりたいと言うくらい、当時から音楽は好きでしたか?
「そうですね。ちっちゃい頃から中島みゆきさんとか吉田拓郎さんを聴いてて。家でよく父親が酒を呑むんですけど、その時にレコードをかけてて。それでずっと流れてたもんで、必然的に好きになっていきました」
自分から興味を持ち始めたのは?
「たぶん小3とか小4ぐらい。『グーニーズ』っていう映画でシンディ・ローパーが唄ってて、その曲が気に入って。それからいろんな音楽を聴くようになりましたね。でもずっと聴く専門だったんで、曲を作るとかはなかったです」
ミュージシャンになりたいっていう夢を追うこともなく。
「そう。言ってはみたけど目指してたわけではなかったんで。ほんとになんにも考えてなくて、高校卒業してからもボーッとダラダラ生きてました」
そこから曲を作り始めるきっかけは何だったんですか。
「21とか22の頃になって、周りのやつらがトラックを作ってみたり、ラップを始めたりして。じゃあ俺もやってみようかなみたいな感じで作ったのがきっかけなんですよ。で、やってみたら案外できたっていう」
ははは! 軽い!
「俺の仲間内では、すぐちゃかすノリがあるんですよ。ちょっとまっすぐなこと言ったりすると、『うわ、カッケー!』みたいな。だから、バカ真面目に曲を作ったら爆笑かっさらえるだろうなと思ったんですけど、普通にいい感じって言われて。あいつら人を褒めることあんまないんで、そこから調子乗って作り始めました」
最初に作ったのが「不屈に花」という曲で、この曲の歌詞は友達に向けて書いたそうですね。
「機材揃えて曲作ってみようってなって、何を唄うか考えたんですよ。で、ちょうど周りのやつらが働き始めてちょっと経ったくらいのタイミングで。仕事やりたくないなとか、辞めたいなとかで揺らぐ時期で、みんなすごい悩んでて」
jo0jiさんは悩んでなかったんですか?
「俺は全然悩んでなかったですね。未来を思うと人って悩むじゃないですか。人生このままでいいのか?って。でも俺はほんとに自分に対してあんま期待してなくて、親より1日でも長生きできればいいぐらいのことしか考えてなかったんで(笑)。だから、なんでそんな思い悩んでんだろう、とは傍から見て思ってたんですけど。それを客観視できる側から書いてみるかと思って作った曲が〈不屈に花〉です」
自分のことを唄ってみるという選択肢は?
「いやぁ、〈自分の思いを〉みたいな性格でもなかったんで。せっかく曲作るなら、多少なりでも人の役に立つような曲を作ろうかなと思って」