昨年3月にリリースされたアルバム『旅に出る準備』は、シンプルなバンドサウンドをベースに、これぞチェコ!といったキラキラとしたポップな楽曲を詰め込んだ一枚だった。その作品を携えていざ全国ツアーへ、という時、ギター八木類が突然の脱退。バンドは4人体制のまま進み続けることを宣言した。しばらくぶりに観たライヴには、お互いに寄り添い合って、時にぶつかり合いながら、Czecho No Republicの音を鳴らす4人の姿が。ひねくれ者のヴォーカル&ベースの武井優心も、これまで以上に感情を素直に出して、精一杯バンドを転がしていこうとしているように見えた。そんな状況で届いたEP「Odyssey」。さぞ気合いの入ったサウンドが鳴らされているかと思ったら、さらりとかわす身軽さと、肩肘張らない自由な風が吹いている。そのうえで、しっかりと未来や夢を見つめ、前を向く姿勢が貫かれた4曲。久々にインタビューした武井は、まるで別人のように素直に自身について語ってくれた。今の彼の目には、歩いてきた過去と明るい未来しか見えていない。
去年はバンドにとっていろいろありましたね。
「そうですね。でも去年1年間、いい年だったなと思っていて。いいって言葉で片付けると、ひとり辞めてるのになんやねん!って話なんですけど……なんか変わった感じがあって。ネガティヴな感じじゃないんですよね」
それは前に進んでいくしかないんだっていうモードになれたということですか?
「前を向いていくしかないっていうのもありますし、なるようになっていくんだろうなっていうか。慌ててないんですよね、この現状に対して。昔は、マイナスのエネルギーで動いてたじゃないですか。あのバンド何がいいんだよとか。まあ言っても俺もクソだしな、みたいな。それがなくなってきたんです」
あんなに卑屈なフロントマンだったのに!
「変わったんですよ! それは八木さん(八木類/元ギター)が抜けたことでそうなれたんですけど。彼とは同じバンドとして仲間にはなりきれなかった。音楽では繋がってるけど精神的な部分ではどこかお互い気を遣い合ってて。でも俺はBUMP OF CHICKENとか、ああいう友達で組んだバンドが出すグルーヴが好きなんですよ。音楽のために集まってっていうのもめっちゃカッコいいけど、もうちょい人肌を感じるものに憧れがあって。それで俺は本当のバンドになるために『旅に出る準備』っていうアルバムを作ったんです」
バンドサウンドがベースになったアルバムでしたもんね。
「だけど、それが分かれ道にもなってしまった。ただ〈あ、ダメだった〉っていう感じではなく、お互いがもっと明るい未来にいくためのステップに繋がったんだなと思って」
それを前向きに受け入れられたと。
「うん。5人の時のファンの人に失礼なのもあるんであまり言わなかったんですけど、4人になってけっこうワクワクしちゃってる自分がいたんです。『旅に出る準備』を作ったことで残った4人は同じヴァイブレーションを持ててたから、まだまだやりたいこともあったし」
それってピースが欠けたことで、もっとひとつにならないと、ってみんなでどこかなっていたんじゃないですか。
「それもあると思います。愛情表現を照れずにできるようになったんですよ。『それいいね』とか『ありがとう!』とか。八木さんがいたからできなかった、っていうわけじゃないですよ! 俺が未完成だったんで、昔は。人間として大いに足りてない部分があった。ワイワイしたりするのは苦手だったというか、恥ずかしかったし。本当は好きなのに」
心では思ってるけど口には出せなかった。
「はい。で、どちらかというと八木さんもそういうタイプで、お互いあまのじゃくだったんですよね。本当は仲良くしたいし、お互い人生懸けて音楽やってんのに、こんな関係もったいないって思ってたんですけど……これは俺の悪いところで、そう思っててもできなかったんですよ」
だから今は素直に感謝も言うようになったと。
「そうですね。楽しい時に『楽しいね』って言える。すごく健康的。バンドって音楽をやる集団ではありますけど、人の面ではかなり理想に近いものになってて。そう、まさに音楽と人ですよ! 俺は人の部分をまず完成させたかった。それはまずできて、音楽は……今は自然にやってる感じがありますね。デモを作り込みすぎないようにしようかなぐらいで」
どうしてですか?
「俺のエゴ大国になっちゃうと思って。素直で自由になったぶん、俺がイニシアチブを握りすぎたら今度は武井・ノー・リパブリックに変身するじゃないですか」
どちらかというと、武井・リパブリックですね。
「そうか(笑)。それは面白くないなというか、今はもうちょい3人の色を出すために、ラフにやろうかなっていう。神経質じゃなくなってるのが、いいことなのか悪いことなのかわからないけど」