2016年の武道館をもって活動を終了したガリレオガリレイが、6年ぶりに新体制で再始動することを発表した。その声明は尾崎雄貴(ヴォーカル&ギター)のソロプロジェクト・warbearのライヴ中に本人から発信されたもので、さらにアンコールでは新曲も披露し、ツアーも告知された。正直、予期せぬ知らせに驚いたのと、〈なぜ?〉っていう複雑な気持ちが強かった。今回メンバーとして名を連ねている岩井郁人(キーボード&ギター)がガリレオから脱退した当時、彼はとても傷ついていて、それ以降彼はガリレオとは違うバンドをやりたいと思うようになり、周囲の反対を押し切ってまでガリレオを終わらせたのだ。そんなバンドを今になって「またやります」と言われても、素直に喜べないところもある。というわけで急きょリモートで行った取材。再始動に至る経緯と、傷つくことを恐れなくなった理由を明かしてくれた。
(これは『音楽と人』2022年12月号に掲載された記事です)
まさかの再始動で、正直驚きました。
「そうですよね」
今の心境はどうですか。
「今の心境は……自分の人生に区切りがひとつついたあと、みたいな感じかな。でも心機一転とかそういう気持ちじゃなくて、これからが楽しみっていうワクワクした気持ち。クリスマスイブに絶対プレゼント貰えるだろうって期待している子供みたいな(笑)」
ガリレオをまたやろうと思ったのはいつ頃なんでしょうか。
「去年の末ぐらいから考え始めて。和樹(尾崎和樹/ドラム)とか周りの人にはフワッとした感じで話してたけど、ちゃんと決断したのは今年の1月ですね」
どんな経緯で決断したんですか。
「福岡のイベントにBBHFで出るタイミングがあって、そのライヴ前日、ホテルに泊まってる時ですね。今ガリレオをやらなかったら、もう一生やろうと思わないだろうって、その時に思ったんですよ。だったら今すぐ決断だと思って、その夜ホテルで岩井くんにお手紙を書いたんです。〈一緒にガリレオをやらないか〉みたいな手紙を」
古風ですね(笑)。
「ははは。で、それを書いてる時にけっこう大きめの地震が起こって。部屋が上の階だったんでめちゃくちゃ揺れて、すごい怖かったんです。でもその地震に背中を押されたというか、〈いつやれなくなるかわかんないぞ〉みたいな気持ちになって。そういう運命みたいなものをあの時感じたので、決断したところはあったと思います」
根本的なことですが、どうして今になってガリレオをもう一回やりたいと思うようになったんでしょうか。当時、あれだけ周囲の反対を押し切って終わらせたバンドじゃないですか。
「そうですよね。俺自身もBBHFを始めてからずっと、ガリレオガリレイのことが頭によぎるようなことってほとんどなかったんですよ。それはしっかりBBHFとして活動ができていたからだと思うんですけど」
そう思ってました。
「それこそ自分が書いた曲なのに、どの曲がどのアルバムに入ってるのかも思い出せないぐらい、僕の中ではガリレオは遠いものになってたんですよ」
で、そんな遠い存在だったガリレオをまたやりたいと思ったきっかけは?
「きっかけはガリレオの曲を聴き返すタイミングがあって。レコーディングのミックスに試行錯誤してた時期に、たまたまガリレオのアルバムを聴いてみたらすごく愛おしく感じたんですよ。すごく素直に〈あ、これをまたやってみたいな〉って。『PORTAL』を聴いて、その時のことをいろいろ思い出しながら」
それまで自分の視界にすら入ってなかったのに、久々に聴いてみたら愛おしく感じたと。
「本当にスルスルって今の自分に入りこんできて、自分でもビックリするぐらい。あと、これはガリレオをやるって決断してからのことなんだけど、BBHFの〈バックファイア〉って曲のMV撮影で、稚内に5年ぶりに帰ったんですよ」
それはずいぶん久しぶりですね。
「実家が引っ越しちゃったんで全然帰ってなかったんだけど、久しぶりに稚内に帰って、昔住んでたところとか、通ってた学校とか、そういう風景を見た時にも運命的なものを感じて。〈今が人生の節目なんだな〉って」
なるほどね。
「それまでBBHFをやっててもガリレオを意識したことがなかったし、意識しないようにしてたわけでもなく、押し入れの奥に入れたものというか。取り出せないものとしてあったのに」
去年ぐらいから岩井くんがBBHFの活動に参加するようになったけど、その影響はあるんですかね?
「岩井くんはBBHFにもwarbearの新しいアルバムにも関わってて、あとは友達として普通に遊んだりしてる仲ですけど、そこではお互いガリレオの話って出てこなかったんですよ。別に禁句にしてたわけじゃないけど、どこか蓋をしてたのかなって。で、今はその封印が解けた感じですね」
6年前、ガリレオを終わらせるってことを知った時、とにかく納得できなくて。それで取調べみたいなインタビューをしたんだけど、覚えてます?
「や……覚えてない(笑)」
ははは。でもその時尾崎くんから終わらせる理由を聞いて〈じゃあ仕方がないな〉って納得したんですよ。
「たぶん……ガリレオのファンの中にも、きっと同じ気持ちの人はいたと思うし、それでもガリレオの存在に蓋をして、今でもBBHFを応援してくれてる人はいると思うんですよ」
だから今回の再始動に関して、複雑な気持ちになる人もいるんじゃないか?と思ったんですけど、そういう不安はなかったですか?
「岩井くんは心配してたけど、僕は〈なるようにしかならない〉と思っただけで。それよりも大事なのは、自分が本能的なレベルでガリレオガリレイをやりたいって思えていることだから。それは僕自身も驚くようなことだったんで、どう思われるかってことにあんまり不安はなくて」
そこもガリレオを終わらせた時と一緒ですね(笑)。
「はははは。だからファンの中にも複雑な思いを抱えている人はいると思う。もしかしたらムカついてる人もいるかもしれない。でもそれに対して〈そうだよね〉としか言えないというか」
周囲の反対を押し切ってガリレオを終わらせたあの頃の自分と、もう一回ガリレオをやりたいと思ってる今の自分には、どんな違いがあると思います?
「たぶん芯の部分は変わらないと思うんだけど……それでもあの時と違うところがあるとすれば、今の僕はすごく人に興味があるんですよ」
人に?
「〈この人ってどんな人なんだろう?〉みたいな興味があって。でも、ガリレオを終わらせた時の自分は、人に限らず自分を取りまくすべての物事に興味を失くしていたんですよ。……あの時はいつも頭の中で〈どうせ〉っていう言葉が口癖になってて」
〈どうせ終わるんだ〉とか〈どうせいなくなるんだ〉みたいな?
「たぶん当時の自分を守るための言い訳だったと思うんだけど。でも今は〈どうせ〉って思う気持ちはまったくなくて」
どうしてそう思わなくなったんだと思う?
「たぶん……BBHFの活動の中でそういう気持ちがなくなってきたのかな。で、もう一回、人に対する興味を取り戻せたというか。本当はあの頃だって斜に構えてただけで、人に興味はあったんですよ。でも興味があるってことは自分の中で相手に対して〈こうあってほしい〉みたいな気持ちがすごく強いってことじゃないですか」