バイクのエンジン音のように轟くベースに、タイトなドラム。そして、衝動の塊のようなギター。それらが合わさった爆音を各地のライヴハウスで叩きつけてきたのが、神戸発・3ピースのw.o.d.である。このたび1年半ぶりに完成した、ニューアルバム『感情』が素晴らしい。本作には、これぞロックバンドと言える、衝動にあふれたサウンドはもちろんのこと、キャッチーなメロディが光る開放的な楽曲まで、幅広いラインナップが揃う。これまでになく自由な空気が宿り、バンドの新たな可能性を開拓した印象も強い本作だが、そこにはバンドのフロントマンである、サイトウタクヤの素の部分も表に出てきているのだ。それはなぜか探るべく、サイトウに話を聞いた。そこで見えたのは、彼がかつてとらわれていたある思いだった。理想と現実、バンドとパーソナル。さまざまな境目を乗り越えつつある今、彼らはw.o.d.らしさを確立し、より広い場所で自らの音をかき鳴らしていくだろう。
(これは『音楽と人』10月号に掲載された記事です)
いいアルバムですね。いろんなタイプの曲が入っていて、バンドの表現の幅広さを感じました。
「ありがとうございます。これまでにリリースしたアルバム3枚は、自分の中の衝動的なところから曲を作っていた部分が大きくて。でもそういうのはもうやりきったな、っていう気持ちがあるんですね。だから、今回は今までやったことのない、新しいやり方で曲を作ってみたいな、と。それに衝動で曲を作ると、どうしても一方的な表現になってしまう気がして。自分たちがこれまで出してきたものにも、思ったように伝わってへんな、と感じる部分が正直あったんですよ。〈こんなに熱量あんのに何で届かへんのやろ〉と思ってたし、もどかしかった。でも、それは俺らのエゴが強くて、受け取りづらいものになってたせいなのかなって。だから今作ではどうすれば聴く人が反応してくれるのか、そこを前より意識して作った部分もあるんです」
そんな背景があるからか、今作って以前に比べてより聴きやすいな、と思って。好きなことを自由にやっている印象ですが、コアな方向には寄っていないですし。むしろ外に開かれて、キャッチーなものになっているな、と。
「人にどう届くか考えて作ったぶん、わかりやすい感じになったんじゃないかな、と思います。いろんなことを考えて曲を設計しつつ、これまで大事にしてきた衝動の部分も残す、みたいな作業をして。そのバランスは気を付けました。今作だと〈イカロス〉とか〈リビド〉は、あえて〈ロックっぽい初期衝動って何やろうな〉って考えて作ったものなんですけど。自分の中で、歌詞にしろ楽器のフレーズにしろ〈これでいいのか?〉ってチェックしながら作っていくと、無難な方向に行ってしまうこともあるんですね。でも、あえて意図的にイビツにしたりいろいろと試して」
新しい挑戦をしたと。
「そうです。そうやって聴く人を意識して意図的にロックを作ることもやりつつ、逆に今までのw.o.d.にはあまりなかった、開放的な曲もやってみたくて。それが〈バニラ・スカイ〉とか〈オレンジ〉なんですけど。もともとこういう雰囲気の曲も、個人的にずっと好きだったんです。でも、それをw.o.d.でやるのは違うというか出せないと思っていたんですよね」
それはどうしてですか?
「バンドをやるうえでの目標が、レッド・ツェッペリンやニルヴァーナみたいになることやからかな。彼らって全部がカッコいいんですよ。隙がない。そこを目指しているので、〈バニラ・スカイ〉とか〈オレンジ〉みたいな曲をやると、自分が思うロックバンドには近づかない気がして。やっぱり、前までは衝動をぶつけるのがロックバンドで、自分もそうあるべきじゃないかと思っていたんですよ。あとは、バンドやからメンバーもおるし、そこで自分がただ好きなものをやるのは違うんじゃないか、と思っていた部分もあった気がして。余談になっちゃうんですけど、俺、『ONE PIECE』がめっちゃ好きで。あれってルフィだけじゃなく、いろんな登場人物がおるからあの世界が成り立ってるわけじゃないですか。でも物語が進むと、ルフィの裏事情というか個人的なエピソードも出てきて話の一部になる。それと同じで、w.o.d.でも俺の好きなものをもう少し出してもいいのかな、って思うようになったんですね。そういう部分があっても、バンドの一側面として面白いんじゃないかなって。だから、今回チャレンジしました」
「バニラ・スカイ」や「オレンジ」って、サウンドはもちろん歌詞も新しいと思うんです。ここには、サイトウさんの内面的な部分が今までよりも出ている気がして。
「そうですね」
どうして内面を曲に出せるようになったんでしょうか。
「たぶん理由はいろいろあると思うんですけど、今年の1月にバイトを辞めてやっと音楽だけに集中できるようになったのは大きいと思います。これまでは、〈バンドの時はこう。バイトだったらこう〉みたいに、気持ちを切り替える瞬間がたくさんあって。自分とw.o.d.っていうものが完全に別やったんですよ。でも、今はバンドと自分の生活の境目がいい意味でどんどんなくなってきていて。だからできたのかなと思います。とくに今作だと〈オレンジ〉は着飾らずに、普段友達と遊ぶ時の自分と同じような感覚で作れたんです。歌詞を書く時って、ちょっと良いことを言いたくなるというか、カッコつけそうになる時もあるんですけど、今回はそういう部分を全部削って」