【LIVE REPORT】
ステレオガール〈2nd Full Album『Spirit & Opportunity』release oneman party〉
2022.04.22 at 渋谷WWW
都内の高校で結成し、2018年から活動を本格化させたステレオガール。そんな彼女たちが2月にセカンドフルアルバム『Spirit & Opportunity』をリリースしたことを記念し、4月にキャリア初となるワンマンライヴを東阪で開催した。今回は東京公演の模様をレポートする。
SEが鳴り響き、毛利安寿(ヴォーカル)、宇佐美莉子(ギター)、奏子(ギター)、大塚理玖(ベース)、祐香(ドラム)がステージに揃うと「I Don't(but someday)」からスタート。この曲には〈あなたなしでゆくさ/風のなかで/光を見つめてた/花のなかで〉とあるが、何にも惑わされずに自分の足で進むイメージが湧きあがってくる。その一節のように、彼女たちは序盤から気負うことなく自由に演奏を楽しみ、その前向きな空気感がフロアに伝播していく。続いてスケール感のある「Breaking into the Space」で場内を包み込んだあとは、メロディアスながらもメロウな楽曲を立て続けに披露。その中でもひときわ印象的だったのは「スクーター」だ。これは奏子が奏でるギターのリフ、そしてキャッチーな歌が耳にすっと馴染み、思わず口ずさみたくなる親しみやすさがある反面、どこか物憂げで部屋にポツンと取り残されているような感覚も残るのだ。
そもそもステレオガールの楽曲には、孤独の気配が漂うものが多い。人はみな違い、わかり合うことが難しいからこそ、ひとりでもその先に進んで行かねばならない。そんな思いや視点は、セカンドフルアルバム『Spirit & Opportunity』の中にも描かれているが、その感覚を悲観せずに、ポジティヴにありのまま出すことができた。そんなふうに安寿がインタビューで語ってくれたが、この日のライヴの後半では、アルバムの持つポジティヴな側面が打ち出されていくようだった。
躍動感のあるバンドサウンドで前に進んで行く。そんな展開へとシフトするきっかけとなったのは、「ルー」だろう。楽曲のアウトロに向かう最中、まるで即興のセッションと化し、圧巻のグルーヴを見せつけたのだった。この部分だけ切り取っても1曲分あるのではないか?と思ってしまうほど演奏が白熱したのだが、その際に印象的だったのは、安寿がマイクを手に取り自ら客席に近づき何かを発していた姿。うまく聞き取れない部分も多かったものの、耳を澄ませると「いつでもお前のものであるため」など、その時に思い浮かんだ言葉かもしれないが、自由になろう、と語りかけているようにも思えた。これは今までになかった光景だ。かつての彼女は口下手でシャイな部分もあり、ライヴでも自由に楽しんでほしい、とひと言伝える以外は客席とコミュニケーションを図ることは少ない印象だったが、この日は彼女のほうから積極的に誰かに歩み寄ろうとしているように見え、新鮮だったのである。そんな驚きを経たのち、一気に閉ざされたものを解放するように、疾走感あふれる「Spirit & Gravity」、アコースティックだったものを大胆にバンドサウンドにアレンジした「Everything's Gonna Be High」へと続いていく。さらにその勢いを加速させ「Angel, Here We Come」に突入すると、フロアは熱気に包まれ、興奮が冷めないまま本編の幕を閉じたのだった。
アンコールで再びメンバーが登場。MCでは「ここまで4枚CD出してきたんですけど、本当に聴いてもらえるのかなと思っていて。自分のお母さんぐらいしか聴いてないんじゃないかと思っていたんですけど(笑)……今日は私たちのことを観に来てくれたんですね。ありがとうございます」と、安寿がこぼした本音で場内は和やかな空気に(笑)。もしかすると彼女はこのライヴを介して、これまで以上に誰かと同じ時間や感情を共有できたと実感し、喜びと驚きを感じたのかもしれない。
思えば今作のインタビューでも、これまでは悩んでも人にうまく伝えられなかったが、それでも実際に話してみることが大事だと気づいたということや、「今よりもさらに素直になりたいんです。メンバーとももっといろんなことを相談して共有しながら作業したいなって。それをより大事にしたい」と安寿は話してくれた。前に進むためには、殻を破って自分の心をさらけ出したり、誰かに歩み寄っていくことも必要なんだ。そんなことに気づいた今の彼女だからこそ、客席に自ら言葉を投げかけるようなパフォーマンスをすることができたり、前述のMCでの素直な言葉が思わずこぼれたのかもしれない。これからも時にはうまくいかないこともあるだろうが、こんな日を少しずつ重ねて成長し、新しい世界へ踏み出していくはずだ。
また、そんな彼女を支えるように演奏するメンバーも、終始いい表情で伸び伸びとしていたが、中でもアンコールでの「おやすみグッドナイト」や「ランドリー 銀色の日」をリラックスし演奏する姿を通じて、このバンドでは全員がそれぞれ自分らしくあれるのでは、ともより一層感じたのだった。そんなかけがえのない場所があれば、きっとここからもお互いを尊重しあいながらさまざまな挑戦をすることもできるだろうし、高め合っていけるだろう。
この日の本編では、イントロのツインギターの音色が特徴的な新曲も披露され、バンドの新たな一面を感じ取れるものだった。まだまだここから変わっていける。そんな予感が漂う今、初のワンマンでまた一歩外へと開かれた5人は、どんなふうに成長していくのか。未来が楽しみになる一夜だった。
文=青木里紗
写真=久保寺美羽
【SETLIST】
01 I Don't(but someday)
02 Breaking into the Space
03 I Don't Play Baseball
04 Hey, Mr. Yellowman
05 春眠
06 PARADISO
07 スクーター
08 Falling Falling
09 新曲
10 Interlude
11 C. S. S.
12 ルー
13 サバクを見に行こう
14 Spirit & Gravity
15 Everything's Gonna Be High
16 Angel, Here We Come
Encore
01 おやすみグッドナイト
02 ランドリー 銀色の日