【LIVE REPORT】
〈ENDRECHERI TSUYOSHI DOMOTO〉
2022.04.10 at 千葉・舞浜アンフィシアター
彼が人前で涙を流したのは、何も今回が初めてではない。だが、人を想うがゆえに溢れた涙はあまりにも美しくて、初めて彼の涙を見た時と同じくらいの衝撃を受けた。
堂本剛が43歳の誕生日を迎えた4月10日、彼のプロジェクト・ENDRECHERIとしてのライヴ〈ENDRECHERI TSUYOSHI DOMOTO〉の2022年の公演が行われた。4月8日の千葉・舞浜アンフィシアターを皮切りに、彼の故郷である5月30日の奈良・なら100年会館まで全8会場17公演が開催中の本ツアー。そして、記念すべきバースデー公演となったこの日。開演時間は「つよし」になぞらえたPM2:44だが、冒頭から誕生日一色というわけではなく、徹底して色鮮やかなファンクショーを魅せる彼らがそこに居た。
開演前、モニターに映し出されていたのは「20th」の文字。というのも、堂本剛は来月29日をもってアーティスト活動20周年を迎える。誕生日と周年という祝祭感溢れた公演を盛大に祝うべく、会場にはENDRECHERIのテーマカラーである紫色のアイテムや洋服を纏ったファンが、今か今かと開演を待ち侘びる様子が窺えた。ちなみに、この紫色を取り入れるのは〈Purple P△rty〉と題したドレスコードであり、コロナ禍で声が出せないなど制限がある中でも、ファンに楽しんでもらいたいという剛の想いから生まれた試みではないかと思う。
インスト曲「END RE CHERI」が響き渡る中、モニターに映し出されたオープニング映像。サイケデリックでどこか叙情的な映像は、これまで使用されてきたものと同じ内容にも思えたが、スマホを見ながら歩く現代人の頭上を戦闘機が飛び交うシルエットだったり、新作と思わしき映像が追加されていて、冒頭から平和への深い祈りが伝わってくるようだった。インストが鳴り止むと、きらきらと煌めくド派手なセットアップを着こなし、トライアングルのオブジェに腰をかけた状態でステージ下から登場した堂本剛。バックには迫力満点な大所帯のバンドメンバー、そして横には華やかな2人のダンサーを仕え、ステージ中央で歌唱する姿は、威厳と気品に溢れていて王者のような風格が漂っていた。
間髪入れずストイックに7曲を披露し、本日初のMCへ。「43歳の誕生日を迎えました。大変な時代でも、みなさんが僕の人生に寄り添ってくださり、心を繋いでくださったおかげでこの日を迎えられました。心からお礼を申し上げます」と真っ直ぐに感謝を伝えつつ、「僕はプライベートでも祝ってもらうことに慣れてないので、こういう機会は珍しいんです。でもファンの方々が20周年や誕生日をお祝いしたいと思ってくださってることを知って、今年は春にツアーが開催できるよう調整しました」と、本日のバースデー公演の開催に至った経緯を話す剛。なんとも、自分のことよりも相手に寄り添う彼らしいきっかけだと思う。一通り話し終えるやいなや、「さっ、ケーキの登場です」とあっさり呼び込む。ENDRECHERIのマスコットキャラクター・Sankakuを模した立体型の可愛らしいケーキが登場すると、「わぁ……」と表情を輝かせる剛。が、よくよく見るとSankakuの目と口が中心に寄り気味だったようで、「だいぶ白の面積が多いですね」と愛あるツッコミ。照れ臭さから来ているのか、こんなふうにすぐ笑いに変えてしまうところから、やはり祝われ慣れていない様子が窺えた。
続いて披露されたのは、初期のプロジェクト・ENDLICHERI☆ENDLICHERIで作られた「Blue Berry」。ENDLICHERI☆ENDLICHERIとして開催した横浜・みなとみらい21特設会場でのライヴも、そういえば剛は全身きらきらなスーツで身を固めていた。この曲では彼が掲げる数に応じてジャンプをするのが恒例だが、コロナ禍ということで今回はクラップで応える形なんだな、など、過去と今が交差するような不思議な感覚に陥りながらも、久しぶりに披露されたこの曲に会場のテンションは爆上がり。1回、2回、3回、4回、また1回……などランダムにクラップの回数を提示し、ラストに掲げられた数は「43」。そう、彼の年齢である。今回の開演時間もそうだが、無条件に心が躍ってしまうような遊び心が随所に感じられるのが、彼のライヴの良さでもあることをしみじみと実感。その後、スペシャルゲストである少女ドラマー・CHITAAが12歳とは思えぬダイナミックさと重厚感のあるドラミングを披露すると、会場の熱気は最高潮に。CHITAAとの出逢いは、剛がネットで彼女のプレイを見て衝撃を受け、彼女の両親にコンタクトを取ったことがきっかけだそうだが、歳の差を感じさせず、互いに敬意を抱きながらも音でぶつかり合うことができるのは、今の彼だからこそ実現できているのではないだろうか。
過去曲の披露や、彼がこの20年を振り返る瞬間が多かったので、必然的にこちらも彼の歩みに想いを馳せる瞬間が多かった。本誌のインタビューでの発言からも、それこそ活動を始めた当初は、他者を受け入れるどころか、積極的に他者と交わることを避けていたように思う。豊かな感受性や繊細さを持ち合わせているがゆえに、無神経な言葉や態度を受け流すことができず、幾度となく傷ついてきた過去。だが、彼は同じように誰かを傷つけることは決してしなかった。自分の中の孤独感や傷は、ひたすら音楽に昇華し続ける日々。一人きりで戦い抜く覚悟もあったのではないかと思う。だが、真っ直ぐに自己表現を追求し続け、いつでも思いやる気持ちを忘れず、時には優しさで、時にはユーモアで人に寄り添う彼を、周りの人々が一人きりにさせるはずもなかった。やがて彼は、音楽仲間、スタッフ、ファンといった多くの〈味方〉と出逢っていくことで、誰かと人生を共にする幸せにたどり着いた。それによって徐々に自分自身を解放し、いっそう他者を慈しむ心にも磨きがかかっていったのではないだろうか。優しさを忘れたくない——その想いは、彼の楽曲に一貫して込められているのだと思う。思い返せば、彼が10代でギターを手にして初めて作った曲のタイトルも、「優しさを胸に抱いて」というものだった。そしてこの日の終盤に披露された、最新アルバム『GO TO FUNK』収録のバラード曲「愛のひと」を聴いて、彼が唄う楽曲は日に日に愛情深く、より多くの人に向けられたものへと進化していることを実感した。
〈どうにもならない/諦めなくちゃいけないと言わないで〉
〈どんな言葉だったら/どんな想いだったら すべてを救えるの〉
この曲を唄っている途中、彼は冒頭で述べたように涙を零した。そしてそれは、他者を想ってのものだということがすぐにわかった。決して、誕生日を迎えられたことへの感慨深さではない。彼は、自分本位に生きられる人じゃない。いつだって誰かを想っている。だからきっと、こうしてライヴを開催している間にも、世界では悲しみや苦しみに直面している人々が居ることへの悔しさ、やりきれなさが涙となって溢れたのではないだろうか。曲の途中、彼はやはり「自分の誕生日だからといって感動しているわけではないです」と語っていた。「みんなが大変な今を生きているのに、なんかなぁって……」と続けると言葉に詰まり、客席に背中を向けた。静かに背中を震わせる彼を観客が温かい拍手で包み込むと、「泣かないって決めてたんですけど……昨日お家で泣いておけばよかったなぁ」と吐露する一幕も。しかし、そんな彼だからこそ、私たちリスナーは救われる部分があるはずだ。不安定な日々の中で行き場のない感情も、脆い心も、彼の曲や言葉と重ね合わせることで、まるで自分は1人じゃないと思える。そもそも、ここに居る人たちは、ありのままの堂本剛が愛おしいと思っているはず。だから、どうかこれからも心のままに歌を届けてほしいと私は思う。いや、彼の音楽を、彼を愛する人みんながそう思っているのではないだろうか。
そしてこの日、祝われる側である剛から嬉しい報せが二つも届けられた。一つは、3年ぶりに〈SUMMER SONIC〉への出演が決定したこと。そしてシンガーソングライターデビュー20年目を迎える5月29日に、配信シングル「LOVE VS. LOVE」をリリースするという。この曲では、人と人がお互いの正義や愛を掲げるほど争いが起きることへの問いかけや、愛を与え合うことの必要性が唄われているという。新曲に込められた想い然り、一貫して愛を掲げ、優しく強く生きていこうとする彼のブレない姿勢は、これからも多くの人にとっての救いになるはず。そう確信した、愛に溢れたバースデー公演だった。
文=宇佐美裕世
1ST DIGITAL SINGLE「LOVE VS. LOVE」
2022.05.29 RELEASE
収録曲数:Only 1track
※Spotify、Apple Music、iTunes、amazon music、LINE MUSIC、レコチョク、music.jpなどで配信、購入可能
※2022年5月29日(日)00:00より各音楽配信サービスにて世界167の国と地域で随時配信
〈ENDRECHERI TSUYOSHI DOMOTO〉
※開催分は割愛
2022.4.13(水) 13:00公演
〈愛知〉名古屋国際会議場センチュリーホール
2022.4.13(水) 18:00公演
〈愛知〉名古屋国際会議場センチュリーホール
2022.4.18(月) 18:00公演
〈大阪〉フェスティバルホール
2022.4.19(火) 18:00公演
〈大阪〉フェスティバルホール
2022.4.21(木) 18:00公演
〈兵庫〉神戸国際会館 こくさいホール
2022.4.22(金) 18:00公演
〈兵庫〉神戸国際会館 こくさいホール
2022.5.9(月) 18:00公演
〈宮城〉トークネットホール仙台(仙台市民会館)大ホール
2022.5.12(木) 13:00公演
〈神奈川〉神奈川県民ホール 大ホール
2022.5.12(木) 18:00公演
〈神奈川〉神奈川県民ホール 大ホール
2022.5.20(火) 18:00公演
〈福島〉白河文化交流館コミネス 大ホール
2022.5.29(日) 18:00公演
〈奈良〉なら100年会館 大ホール
2022.5.30(月) 13:00公演
〈奈良〉なら100年会館 大ホール
2022.5.30(月) 18:00公演
〈奈良〉なら100年会館 大ホール
〈SUMMER SONIC 2022〉
2022.8.20(土)~21(日)
東京会場:ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
大阪会場:舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
※ENDRECHERIとして、8.21(日)東京公演に出演。
※出演ステージ、出演時間などは追って発表。詳細並びにチケット購入方法はSUMMER SONIC公式サイトでチェックください。
『音楽と人』2022年5月号
2022年4月5日(火)発売
表紙&巻頭特集 ENDRECHERI