【LIVE REPORT】
TOMOE 2026(tacica/The Novembers/People In The Box)
2026.02.07 at 恵比寿LIQUIDROOM
和気藹々としたステージに頬が緩みっぱなしの3時間だった。tacica、The Novembers、People In The Boxの3バンドによる合同イベントツアー。そこにあったのは、20年の歳月をくぐりぬけてきたバンドの青春だった。
〈TOMOE〉は2011年に開催されてから今回で3度目、前回からは7年ぶりの開催となる。始まりは遡ること2008年、tacica主催の合同イベントツアー〈TOUR parallel park わくわく編〉だろう。彼らは当時のシーンで話題になっていた存在でありつつも、徒党を組むような動きはせず、周囲に愛想を振りまくようなバンドでもなかった。そんなバンドが今も時代に流されることなく独立独歩の活動を20年も続けてこれたのは、生真面目に音楽そのものと純粋な気持ちで向き合ってきたからだろう。その心が曇ったりブレたりしないよう、彼らはバンドの美学とこだわりをひたすら磨き続けてきたのだ。そんな3バンドが集い、互いにエールを送る旅。この日を心待ちにしていたのは誰よりも本人たちである。
満員御礼のフロア。ステージ前は幕が下りていて、どのバンドからライヴが始まるのかはわからない。しかし開演時刻と同時にSE「雨に唄えば」が流れ、この日の初手はThe Novembersであることが知らされる。いつもどおり黒いスタイリングで統一した4人が持ち場につき、すぐに「para」でライヴがスタート。折目正しい90年代オルタナサウンドを轟かせつつも、その音をかいくぐって届けられる小林祐介(ヴォーカル&ギター)の歌声が心地いい。さらに「BOY」の高揚感が可及的速やかにフロアを温めていく。あたかもそれはこのあとに続く仲間たちへの露払いをしているようでもある。そして小林が「この曲をPeople In The Boxとtacicaに捧げます」と前置きして披露された「FLOWER OF LIFE」。先陣を切って仲間たちへの思いを表明したことで、普段は愛情表現が苦手な仲間たちも、このあとのステージで小林の思いに応えくれることを確信する。さらに「Blood Music, 1985」「黒い虹」とグラマラスなロックンロールを続けて投下。その音はどこまでもスリリングでエモーショナルであるにもかかわらず、4人が過剰なパフォーマンスやステージングに走ることもなく、むしろ自分を楽曲に捧げているように見えた。そんな彼らのステージから感じられるのは、彼らの音楽に対する愛情でありロマンチシズムであり、それこそ出演を控えた2つのバンドとの共通点でもある。平たく言えば、いくつになってもみんな音楽をバカみたいに愛してやまない連中なのだ。彼らが音楽愛で満たしたフロアには、ステージを去ってからもその余韻がいつまでも残っていた。

続いて登場したのはPeople In The Box。冒頭の「DPPLGNGR」から3人の演奏にワンマンとは違う気配をステージから感じとる。鍵盤による旋律をギターに置き換えたアレンジもあってか、やけにアンサンブルも生々しく聴こえる。彼らのモットーは余計な感情や思惑を排除したところで楽曲を届けることであるはずだが、続く「日曜日 / 浴室」にもエモさが滲んでいる。2曲の演奏を終えたところで波多野裕文(ヴォーカル&ギター)のMC。「こうしてまた一緒にやれるのは……や、大げさじゃなくて……めっちゃ嬉しい!」。子供みたいな感想を口にして顔をほころばせる彼につられ、思わずこちらも笑ってしまった。無邪気というか無防備。そんな彼の姿がステージで見られるのは、このイベントと彼が飼っているウサギの前ぐらいだろう。そんな感じで彼らはいつもとは異なるムードで「スマート製品」「馬」を立て続けに披露し、再びのMC。今回の〈TOMOE〉はtacicaがホスト役を務め、グッズ制作はThe Novembersの小林が担当、そして自分たちはライヴをしにきただけの〈ひょうきん担当〉だという。おそらく「誰よりも自分たちが一番このライヴを楽しんでいる」ということを遠回しに言いたかったのだと解釈する。そんな彼らのラストは「旧市街」。しかもエンディングで波多野がジャンプを決めるというオマケつきだ。彼との付き合いは長いけど、あんなにはしゃいでる姿を見たのは初めてかもしれない。ちなみに大阪公演でトリを務めた際も、彼は盛大なジャンプを披露したという。

以前tacicaの猪狩翔一(ヴォーカル&ギター)と〈TOMOE〉の話をしたことがあって、その時やけに嬉しそうな顔をしていたのが印象的で、やっぱりあの仲間たちとの繋がりは彼にとって特別であることを知った。だとしたらいつもと違う彼の一面が垣間見れるのかもしれない。そんなことを期待していたものの、本日のトリとしてステージに現れた彼はあいかわらずで、何の感情も読み取ることができない顔をしていた。
そんな感じで「HERO」で幕を開けたライヴ。装飾のない引き締まった演奏はいつもどおりだが、やけに猪狩の歌が際立って聴こえる。続く「Co.star」では歌唱そのものがさらに熱を帯びていて、やはり彼もこの日を迎えた喜びに興奮しているのかと、この先の展開に期待を寄せた。そして短い挨拶。これといったトークもなく、無言のままチューニングしたり水を飲んだりして、「曲やります」の一言でライヴを再開する。やっぱり彼にリップサービスは期待すべきではないのかと気を取り直し、大らかなギターのストロークが彼らを育んだ北の大地を思わせる「ハイライト」に身を預ける。ブリブリと音を立てた小西悠太(ベース)のベースラインが先導する「ミカラデタサビ」や、即興めいたアウトロのセッションに煽られた「アロン」と、演奏にもどんどん熱がこもり始める。そして2回目のMC。「ありがとう。えっと……楽しいです」。猪狩よ、本当は言いたいことがあるんだろ?とステージに念を飛ばす。物販のTシャツがどうこうというどうでもいい話で助走をつけてから、彼はこんな話を切り出した。「あの……波多野くんがツイッターで『友達とツアー回ります』って呟いてるのを見て……」。そのあと彼がどんなことを話していたのか、なぜかメモを取っておらず(たぶん興奮してた)、記憶の中では「〈友達〉と書かれていることに嬉しくなった」みたいなことを言っていた気がする。ただあの時に見せた照れ臭そうな笑顔ははっきりと覚えているから、とにかく彼は〈友達〉という波多野の言葉に反応したのだろう。そう、言うまでもなくキミらは友達同士の間柄で、しかも人が羨むほどの仲睦まじい関係なのだ。そのことを終始ステージから見せつけられてた3時間であったことは、ここでしっかりと彼らに伝えておきたい。アンコールで披露した「アースコード」は、そんな友達に向けた讃美歌のようだと思った。

和気藹々としたステージ、と冒頭に書いたが、もちろん肩組んでウェイウェイやったわけじゃない。スポ根漫画みたいな暑苦しい場面も皆無だ。もしそんなふうに人間関係が築ける連中だったら、デビュー当時からそうしていただろう。なんならキャリアとともに人脈を形成し、フェスを主催するような規模のバンドになっていたかもしれない。けど、それが自身の求める音楽にとって正しいことなのか。本当の友達とはどういうものなのか。音楽にも人間関係にも、彼らはつねに潔癖であろうと努めてきた。だからこそ、ここで鳴らされる音楽はもちろん彼らの繋がりは何物にも代えがたいものであり、どこまでも純粋なのだ。それを青春と呼ばずしてなんと呼ぶのだろうか。
正直に言えば、大阪も名古屋もついていきたかった。なんなら自分も友達の輪の中に混ぜてほしい、と厚かましく思うほどだった。壮年期の後半を迎えた男たちが友情で繋がる一夜。歳をとるのも悪いことじゃないな、と彼らは思っているに違いない。
文=樋口靖幸

