【LIVE REPORT】
lynch. 20th ANNIVERSARY PROJECT “XX FINAL ACT”
lynch. 20TH ANNIVERSARY XX FINAL ACT「ALL THIS WE’LL GIVE YOU」
2025.12.28 at 東京ガーデンシアター
「待たせたな! あとは暴れるだけだ!」――葉月(ヴォーカル)の掛け声を合図に「MIRRORS」が始まる。ミドルテンポの曲が続く中盤のブロックから、ライヴ後半のクライマックスに舵を切る展開だ。晁直(ドラム)のツーバス連打とともに特効の白い煙が勢いよく吹き上がり、オーディエンスがヘドバン態勢に入る刹那、それは起こった。機材アクシデントによる演奏中断。しかも本日二度目のトラブルだ。高揚していたステージの空気がへなへなと萎んでいく。行き場を失ったバンドの音が虚しく響き、客席に背を向けた葉月の表情は窺い知ることができない。20周年という節目の1年を締めくくる晴れの舞台に起こった想定外の事態。ここから彼らはどう立て直し、周年のフィナーレに繋げるのか。一時停止の映像みたいに動きのないステージがしばらく続く中、葉月が呟いたひと言で会場の空気が変わる――「すげー楽しくなってきた!」。ウワー!という歓声と拍手が起こる会場。ステージと客席の距離が一気に近くなり、会場にいる全員がこの状況を楽しもうとしていた。ふたたび始まった「MIRRORS」。そこに生まれたのは、一心不乱でプレイにのめり込む彼らと、激しいヘドバンで応戦するオーディエンスによる起死回生のドラマだった。そう、彼らは今までもこうやって苦難を乗り越えてきたから今がある。そのことを声高に訴えかけるような景色が広がっていた。


大きな節目となる東京ガーデンシアター公演。会場の規模はバンドにとって史上最大だが、彼らはここを目指してきたわけじゃない。ただ、ステージから望む光景――扇状に広がる客席は、そんな彼らにも格別なものであることは確かだろう。定刻どおり「ALL THIS I’LL GIVE YOU」で幕を開けたライヴ。やたら音がデカいのはいつものことだが、それを上回る葉月の声量が頼もしい。〈俺だ、俺だ〉とメンバー各々が自己主張する音のぶつかり合いも痛快だ。続く「斑」は最新作「FIERCE-EP」収録曲で、葉月と悠介(ギター)と明徳(ベース)の3人による共作だけに、悠介のヴォーカルや明徳のプレイがいつも以上にフィーチャーされる。ソングライティングをメンバー全員が手がけることで逆境を乗り越えたバンドの自負が、そのパフォーマンスにみなぎっていた。


だがライヴが中盤に差し掛かるタイミングで、一度目のアクシデントが彼らを襲う。「IDOL」の途中で同期が止まってしまい、次曲の入りを一旦中止。だが葉月の機転を効かせたMCでその場を切り抜け、何事もなかったようにライヴを続行させる。20年のキャリアだけあって、もちろんこんなことで挫けるバンドではない。万華鏡を思わせる色とりどりな模様が回る映像を背負って演奏を再開した「KALEIDO」を皮切りに、じっくり歌を聴かせる楽曲が恭しく披露される。なかでも特筆すべきは「REMAINS」。これも「FIERCE-EP」収録曲だが、ライヴで聴くとより繊細で緻密なアレンジの秀逸さに驚かされる。こういった楽曲がバンドの未来を担っていくことになるのではないか。会場に広がる叙情的なサウンドを聴きながら、そんなことを思った。


バンドはそこからほどなくして冒頭のアクシデントにも直面するわけだが、そこに至るまでのプレイやパフォーマンスはもちろん、不測の事態の対応まですべてが完璧だった。堅実かつ慎重に歩みを進めてきたバンドらしい、隙のないステージ。そのあり方はどこかリーダー玲央(ギター)のパーソナリティにも重なる。彼の几帳面かつ理知的な判断に基づいた活動がなければ、このバンドはとっくに終わっていただろう。にもかかわらず、その道のりは決して平坦ではなく、不運や災いに翻弄されてきた。メンバーの不祥事、武道館公演の中止、そして活動そのものが止まったこともある。しかし、そのたびに彼らは何度も立ち上がってきた。それと同じストーリーが今、アクシデントを乗り越えたステージで繰り広げられているのだ。エンターテインメントを超越した異次元のドラマ。不運を逆手にとる。挫折を糧に生きる。マイナスをプラスに変換する。これがバンドの宿命であり、バンドを終わらせないための原動力なのだ。


本公演のために制作された「BRINGER」で本編を終えたステージにアンコールでふたたび姿を見せた5人。みんな晴れ晴れとした表情だ。一見コワモテなバンドだが、こういう場面での彼らは人柄の良さがそのまま出てしまう。そしてメンバーが一人ずつ20周年を迎えた感慨を言葉にしてからの「ADORE」。これが最高だった。5人の魂が紡ぐ音はどこまでも真っ直ぐで迷いがなく、バンドの未来を明るく照らしているような清々しさに溢れていた。きっと彼らは今までと変わりなく、コツコツと一段ずつ階段を上るバンドであり続けるだろう。にもかかわらず、不慮のアクシデントに襲われ、窮地に陥るハメになるに違いない。でも、そのたびに彼らは結束し、一丸となって乗り越えていく。すべてをバンドが終わらせないための強さに変換していく。その先にあるロックバンドの理想郷に辿り着くために、何度でも彼らは這い上がり、前に進んでいくのだ。
文=樋口靖幸

【SET LIST】
- ALL THIS I'LL GIVE YOU
- 斑
- GREED
- EVOKE
- CREATURE
- I BELIEVE IN ME
- INVINCIBLE
- IDOL
- KALEIDO
- REMAINS
- A FOOL
- THE WHIRL
- MIRRORS
- THE FATAL HOUR HAS COME
- GALLOWS
- INVADER
- OBVIOUS
- PULSE_
- BRINGER
ENCORE 01
- ADORE
- JUDGEMENT
- EVIDENCE
- EUREKA
ENCORE 02
- THIRTEEN
- TIAMAT
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〈収録内容〉
Disc.1:lynch. 20TH ANNIVERSARY XX FINAL ACT 「ALL THIS WE’LL GIVE YOU」 25.12.28 TOKYO GARDEN THEATER(ライブ本編映像)/オーディオコメンタリー付き
Disc.2:20TH ANNIVERSARY DOCUMENTARY MOVIE
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