【LIVE REPORT】
PEDRO TOUR 2025〈I am PEDRO TOUR〉
2025.12.09 at F.A.D YOKOHAMA
※写真は、東京 Zepp Shinjuku、愛知 THE BOTTOM LINE、大阪 GORILLA HALL公演のもの
「気を抜けばすぐ悲劇のヒロインになっちゃう。そっちのほうがやっぱり居心地がいいんですよ。泣いて時間潰してるほうが楽なんで。でもそういう居心地のよさではなく、人と交わって音楽を楽しんだうえで、気持ちよく歩んでいきたいというのが今の目標ですね」
音楽と人10月号、原点回帰をテーマに掲げたミニアルバム『ちっぽけな夜明け』のインタビューで、アユニ・Dはこんな発言をしていた。否定されることが怖くて人とまっすぐ向き合えなかった彼女だが、周りの人たちの導きによって前向きに変わっていこうとしている最中だった。その新譜を携えて廻る全国ツアーのタイトルは〈I am PEDRO TOUR〉。逃げも隠れもせず、今の自分を証明する。そんな気概がヒシヒシと伝わってくるタイトルを掲げたこのツアーで、アユニ・Dは正真正銘〈今のPEDROが最高な状態である〉ことをまざまざと見せつけていた。

12月9日のF.A.D YOKOHAMA公演。キャパシティ380人の会場は身動きもとれないくらいパンパンで、始まる前から汗だくになりそうなほどの熱気が立ち込めている。SEが流れる中3人が登場し、軽快な「1999」でライヴはスタート。すし詰め状態でステージにいる3人の姿はほぼ見えないし、ぎゅうぎゅうのためメモを取ることもできない。本人たちの細かな動作までは追うことができないので、早々に音に身を委ねることにしたのだが、そこに集中することで感じたのは、アユニの歌もバンドのグルーヴもつねにエネルギッシュで前向きな空気をまとっているということだ。

〈自意識過剰で自惚れ屋〉と自虐で始まる「1999」だが、歌声はなんとも軽やかで、そこに卑屈の色はない。アグレッシヴなバンドサウンドの中での〈ありのままの僕で叫び続けるよ〉という絶叫は、そんな自分すらも抱きしめるような愛おしさすら感じさせる。さらにこの日はギター田渕ひさ子の誕生日ということもあり、アユニがお祝いの言葉を投げかける場面があったり(ドラムゆーまおも12月6日が誕生日ということで祝われる場面も)、「音楽」のサビでは大合唱が起きたり、この空間を共有し合おうとするポジティヴな空気が心地いい。「愛愛愛愛愛」のようなキャッチーな曲はもちろん、しっとりした「ちっぽけな夜明け」であっても、本人の顔は見えないが、きっと笑顔や穏やかな表情で唄っている様子がサウンドや歌声から伝わってくる。だからこそ、フロアからも拳や歓声がたくさん上がり、そのエネルギー同士がぶつかり合ってどんどん熱量が高まっていく。

BiSHが解散してからのアユニは、これまでと違う自分にならなければ、と根を詰めすぎて内側に潜り込み、苦しそうにライヴをしていた時期もあったように思う。それがフロアにも伝播しズシッと重たい空気を生んだり、どこか緊張感が漂うことも多かった。でも今は違う。例えば新譜に収録されている「拝啓、僕へ」「朝4時の革命」といった曲では、ひとりぼっちの自分を歌にしながらも、孤独や悲痛さに浸るのではなく、その中でなんとか一筋の光を掴もうとする意思が音に乗っている。自分以外の誰かになるのではなく、自分の情けなさも小ささも受け入れて曲の中でさらけ出す。それが彼女にしか鳴らせない音楽となり、ステージの上からまっすぐに全力で鳴らすことで、さらなる輝きを放っていた。

終盤にかけて「いたいのとんでけ」「EDGE OF NINETEEN 」「グリーンハイツ」とノイズまみれの轟音を叩きつけていく。バンドのグルーヴもさらに研ぎ澄まされ、最新型のPEDROが惜しみなく放出される。そしてART-SCHOOLのトリビュートアルバムに収録された「Just Kids」のカヴァーも、素晴らしかった。木下理樹が歌にしてきたのも痛みや脆さと背中合わせのかすかな光で、その純粋な煌めきをアユニが丁寧に唄い繋ぐ光景は美しさしかなかった。ラストの「雪の街」も寂しさや痛みをすべて包み込むような歪んだサウンドとどっしりした歌声が、キラキラとした光のようにライヴハウスに降り注いだ。

終演後に少しだけ本人に挨拶をさせてもらうと、「ようやく人間らしくなって、集中しながらツアー廻れている」と笑顔で話してくれた。正直、これまでのインタビューでも何度か「ようやく人間らしくなれた」という発言は聞いている気がするけど、これこそアユニ・Dなんだなとも思った。おそらく彼女はこれからも何度も間違えたり迷ったりするだろう。そのたびに思い悩むだろうし、周りに迷惑をかけるかもしれない。でも感傷に浸るだけでなく、必死にもがく姿を音楽に昇華して、ステージの上で目の前にいる人たちに向けて全力で唄うことで、また新しく生まれ変わっていく。これからもそんな彼女の生き様が、誰かの心の傷に寄り添ったり、生活の支えになったりするはずだ。
文=竹内陽香
写真=小杉歩(東京、愛知)、sotobayashi kenta(大阪)


【SETLIST】
- 1999
- 祝祭
- 音楽
- ZAWAMEKI IN MY HEART
- 愛愛愛愛愛
- 万々歳
- 吸って、吐いて
- ちっぽけな夜明け
- 拝啓、僕へ
- 朝4時の革命
- 清く、正しく
- 春夏秋冬
- アンチ生活
- いたいのとんでけ
- EDGE OF NINETEEN
- グリーンハイツ
- Just Kids
- 雪の街
ENCORE
- うた
- 無問題
